「キャラもの」だったらケーブルバイトは生まれていなかった

高橋: では、良かったことを挙げるとしたら?

添谷: 「キャラクター商品にしなくてよかった」ということですね。ケーブルバイトを見てもらえれば分かりますが、本当に普通の、何の変哲もない動物のデザインなんですよ。

 ライセンス契約でキャラクターのケーブルバイトも出ています。でも、最初からキャラクターありきだったら、開発できたかどうか。キャラクター商品を企画する人がケーブルバイトのような商品を考えたとしたら、絶対にiPhoneをかませてはないはずです。あの商品はiPhoneに動物が、つらい顔なのか眠い顔なのか、とにかくゆるい顔をしてかみついているというところがいいんです。私たちが狙っていた通り、ツイッターでは「癒やされる」というコメントが目立ちました。

 実は昨年末、中国製のコピー品をつくっている会社を全て刑事告発しました。現地の日系の法律事務所にお願いして、工場まで全部調べたんです。法律事務所から「著作権を取らないと摘発できない」と言われて手続きしてもらいましたが、デザインといっても、ケーブルバイトは犬や猫みたいな動物のノンキャラ。でも、結果的に全部著作権が取れた。その著作権を持って取り締まったというわけです。

年700万個売れたケーブルバイト「大ヒットして、心が壊れた」(画像)
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高橋: ケーブルバイトの構造ではなく、デザインのテイストそのものに著作権が認められたということでしょうか?

添谷: そうです。米国でもコピー品が出回って四苦八苦していたので、弁護士に中国で著作権が取れたという事実を伝えて、米国での著作権取得を依頼したら、なんと3日で取れたんですよ。だから、米国でもこれから一斉に摘発をします。

 摘発ができるとこと自体がビジネスの上で重要ですが、もっと驚きだったのは何の変哲もない動物でも、見る人が見ればキャラクターになるということ。数がこれだけそろうと強いということ。50種類以上あるので、それを全部出したら認めてもらえた。1個だけだったら、著作権が取れなかったのではないでしょうか。

高橋: ノンキャラにこだわって長年やってきた結果、商品自体がキャラクターになったわけですよね。すごいことですよ、これは。

添谷: こういう経験を通して、キャラクターものをやらないでよかったと思っています。もしやっていたら、とっくに私たちの会社は淘汰されていたんじゃないでしょうか。もともとキャラクターをやりたいと思っていなかったし、単純な話、たまたまというか、この道しかなかったわけですが。

 こんなことを言っていいのかどうか迷いますが……キャラクターだけをやっていると、クリエーティビティーがなくなっていくんですよ。これはAパターン、これならBパターンと組み合わせていくだけになってしまう。それは本当に開発といえるのか。そういう疑問もあって、キャラクターに手を出さないところもあります。

 ゼロからモノをつくってきて、最近やっと、ここまできたと思えるようになりました。ちょうど今年60歳。定年になる年ですが、辞めたくても辞めさせてもらえないだろうと思っています(笑)。それで今、次のステップとして考えているのが、モノづくりをしたい人のためのコミュニティーの立ち上げ。おこがましいかもしれませんが、ゼロからモノをつくる楽しさを、もっとたくさんの人に知ってほしいですし、世に出る出方やツボを教えてあげたい。そのコミュニティーのなかからドリームズの商品開発に協力してくれる人や入社したいと言ってくれる人が出てきたら、会社にとっても大きなメリットになりますから。

 ゼロからのモノづくりを学んで、面白いものをつくって、それが世界に出ていったらもっとうれしいですね。最近、日本のモノづくりが安直になっているのではないかと感じているんですよ。

高橋: 手をかけるよりも、どんどん効率化させようとしていますよね。個人的な考えですが、何かをヒットさせたいなら命を削らないとだめだと思っています。「一発屋」といいますが、1発はやっぱり勝負しないといけない。僕にとって「∞(むげん)プチプチ」は命を懸けるぐらいの価値があったと思っています。あれをやったことで、自分がこれからやっていきたい仕事とか、やるべきことが改めて見えてきたような気がします。

年700万個売れたケーブルバイト「大ヒットして、心が壊れた」(画像)
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添谷: 1発がなければ、2発目もないですからね。モノをつくっている人の中にはヒットを飛ばして有名になりたいとか、自分がどれほどすごいかを世間に言いたいという人も多い。それはそれでいいんですよ。どうぞ、どうぞ、やってください。

 ただ、それがビジネスとして成立するかどうかという話です。1発を最初に当てられれば一発屋として生きていけるけれど、死ぬ間際に1発飛ばしたって、それでどうするのでしょうか。やはり私にとってはこつこつやっていくことがとても重要なんです。牛のよだれ商法。牛のよだれって、だらだらずっと垂れていますよね。人知れず、だらだら、ちょろちょろ売れているのが一番いい。そう商品をたくさん持っている会社が、一番強いんです。

(文/樋口可奈子、写真/岩澤修平)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2019年3月20日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています