「ぶれるな、全部動物でいけ」

高橋: ケーブルバイトの売り方で工夫した点はありますか?

添谷: 日ごろから社員たちに「どんなに売れていても絶対に品切れを起こすな」と伝えているのですが、ケーブルバイトはあまりにも注文が多くて、どうにもならなかったんです。そこで、1店舗だけでいいから切らさないようにと、原宿のキデイランドにだけは出荷し続けました。キデイランドがいい売り場をくれたんですよ。1階のレジ横の、たまごっちのコーナー下という目立つ場所でした。

 通常の出荷方法だと、注文を受けてからアウトソーシングしている倉庫に出荷依頼をして……実際に売り場に届くのは2日後。そこで、品切れを防ぐために営業担当者が考えたのが、社内に在庫を置いてキャリーケースで直接納品する方法でした。これであれば土日も納品できるので。品切れを起こさないようにしたことで、結果的にどの商品が一番売れるのかというデータを取ることもできました。品切れすると、そういうことも分からなくなりますからね。

 ある日、キディランドの店頭でケーブルバイトの売り場を見て「下のスペースがまだ開いている」と気づきました。それで、急きょ24種類追加してほしいと現場に指示をしました。

高橋: このスペースも取れると。

添谷: シリーズ2、シリーズ3を急いで開発して、一斉に発売すると伝えました。売り場で観察していると、「複数買い」する人が多いんです。まとめて3個買っていく人もいます。驚いたと同時に、「これではすぐに買いそろえてしまう人が出てくる」とも思いました。もっと種類を用意すれば、もっと買ってくれるかもしれない。そう考えました。

高橋: ケーブルを複数持っている人も多いですからね。

添谷: そうそう。1人1本じゃないんですよね、ケーブルって。1本にいくつもつける人もいます。あるとき、社員の1人が1本のケーブルに何個もケーブルバイトをつけていて、それがおもしろかったので写真を撮ってPOPにしたら、また売り上げが伸びました。

 「バリエーションを増やしたら勝ちだ」と思って大急ぎでつくらせたわけですが、同時に伝えたのが「ぶれるな」ということ。「全部動物でいけ」と指示しました。あと24種類も動物が思いつかないと言われたので、「海の生き物も入れていい」と。魚が入っても構わない。たまたまですが、取引先に水族館もありましたから。

年700万個売れたケーブルバイト「大ヒットして、心が壊れた」(画像)
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「ケーブルバイトのヒットで心が壊れた」

高橋: 怒濤(どとう)の展開ですね。

添谷: でも、ケーブルバイトが売れ始めたときから嫌な予感はしていたとおり、今、私たちはかなりダメージを受けています。モノが売れるというのは単純な話ではない。プラスもあればマイナスもあって、悪いものをいっぱい引っ張ってきます。やっぱり、壊れるんですよ、心が。

高橋: ダメージとは、具体的にはどんなことでしょうか?

添谷: ケーブルバイトは、ある意味「飛び道具」です。それも、飛ばそうと思っていたわけではないんですよ。でも、外から見れば、これが私たちのメインの商品ということになってしまうんでしょう。

 先ほど高橋さんは「ソニーエンジェルが売れている」とか「スミスキーがいい」と言ってくれましたが、うちには他にも商品がたくさんありますし、それこそ箸にも棒にもかからないようなモノもあります。でも、「これはいい商品だから」とつくり続けているものも少なくない。そういう商品の積み重なりが、ドリームズのアイデンティティーを構成しています。

 私たちの会社はお風呂のアヒルから始まっています。社の入り口にバスタブを置いてあるのですが、これは社員に対するリマインド。うちはアヒルから始まっていて、アヒルを忘れてはいけないよと。私が一番好きな商品もアヒルです。一番大事な商品だし、一番思い入れのある商品です。そういうベースにあって、私たちは仕事をしています。

 ところが、ケーブルバイトのようなヒット商品が出てから、みんなの仕事のバランスが変わってしまいました。ケーブルバイトを求めるお客さんの対応をするだけで、もうてんてこ舞いなんです。営業が7人、営業事務も合わせると10人ほどいますが、1日中電話が鳴りっぱなし。いつ商品が入るのか、1万個注文したのに1000個しか入ってこないとか。この対応に忙殺されて、それ以外の仕事ができなくなってしまいました。

 本当は、売れ筋の商品は放っておけばいいんです。黙っていても売れるから。アヒルのように、こつこつ積み重ねてきた商品こそ大事に売っていかなければならないのに、逆のパターンになっていくんですよね。

年700万個売れたケーブルバイト「大ヒットして、心が壊れた」(画像)
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高橋: 僕はアナログゲームをつくっていますが、売れるものもあれば売れないものもあります。売れない商品をつくり続けていれば、もしかしてその先が長いかもしれないのに、やっぱり売れている商品ばかり売ろうとしているところがあります。

添谷: “あるある”ですよね。取引先の工場との関係もあります。先方にも生産キャパがあるので、ケーブルバイトをつくるなら月に1000個つくってもらっていた別の商品のラインを止める必要が出てくる。

 コンスタントに製造していた1000個の商品が全く出荷されなくなることで、最終的には売り場にしわ寄せがいきます。店側は品切れしても空いたスペースをそのまま放っておくわけにはいかないので、他社の商品を入れてスペースを埋めてしまいます。そうしているうちに、うちの売り場がなくなっていくんです。

 それで心を病んでいくんですよ、社員たちが。「こんなことをしていていいのだろうか」と。でも、お客さまからクレームがくれば、対応しなきゃいけないじゃないですか。そういうときに限ってメールじゃないんですよ。なぜか全部が電話なんです(笑)。鳴りっぱなしですが、電話線を切っちゃうわけにはいかないし。

 今は定番の商品が全く間に合っていません。これまで2カ月に1回ずつ出荷していた商品が半年たっても完成しない状況。月に1000個しか売れない商品の在庫を、3000個も5000個も持ってはいませんから。売り場がなくなってしまった上に、バイヤーからも「ドリームズは、もうアヒルのような商品はつくってくれないんだ」と言われて関係がおかしくなる。こういうことが、じわじわ出てくるんですよね。「ヒット商品が出ると会社がつぶれる」と昔から言われていますが、そういう話もなくはないなと思っています。1歩間違ったら終わり。ひょっとしたら、5年後にこの会社はないかもしれません。

 たくさん売りたいという気持ちももちろんありますが、私たちが苦労してつくったモノを適正に評価してもらいたいというのが正直な思いです。月1000個でもいいんです。1000個でも買ってくれる人がいるのであれば、それが一番ありがたい。