今回の対談相手は、大ヒット中のiPhone用アクセサリー「ケーブルバイト」を手がけたドリームズの添谷徹社長。実は、同商品以前にも数々のヒットを飛ばしているが、本格的なインタビューは今回が初。添谷社長が語るヒットの秘訣とは?

ドリームズ 添谷徹社長(右)。1959年生まれ。専門書籍の企画会社や玩具の販売代理店を経て、1992年にバンダイに入社。同社関連会社の取締役を退任後、ドリームズを設立。現在に至る
ドリームズ 添谷徹社長(右)。1959年生まれ。専門書籍の企画会社や玩具の販売代理店を経て、1992年にバンダイに入社。同社関連会社の取締役を退任後、ドリームズを設立。現在に至る
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「だめだったら倒産」の覚悟でつくって大ヒット

高橋晋平氏(以下、高橋): 添谷さんは玩具メーカー出身ですが、どういうきっかけで会社を立ち上げたのでしょうか。

ドリームズ添谷徹社長(以下、添谷): そもそも、何かをやりたくて会社を辞めたわけじゃないんですよ。組織のなかで生きてきて、いろいろな部署や仕事を経験しましたが、やっぱりどうしても自分でモノづくりしたくなったんです。それで一念発起をして会社を立ち上げました。

 起業当初は「こういうモノをつくりたい」という考えがなかったので、迷走したことも。もうだめかなと思ったときに、「誰のためにモノをつくってきたのか」という点が非常にあいまいだったことに気づきました。それで、ターゲットを25歳の働く女性に設定して、その人たちに癒やしを与えられる商品をつくるために、もう1回、最後やってみようと思いました。

 これがだめだったらもう倒産しようという覚悟でつくったのが、お風呂に入れるアヒル。こういう商品は世の中にもともとありましたが、お風呂に浮かぶようにバランスを取ると不格好になるので、どの商品もあまりかわいくなかったんです。お風呂に入れることで癒やされるようなもの、デザインが良くてセンスがいいものをつくりたい。そこで、LEDのライトをアヒルの中に入れて、お風呂を暗くして入ってもらおうと考えました。

 結果的に、それがかなり売れたんですよ。独立後に手がけた商品が売れたのはこれが初めて。それがやみつきになって、今日まで23年やっているようなところがあります。

「ダック バスライト」
「ダック バスライト」
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高橋: アヒルの話はやはり御社の原点ですよね。いわゆる「背水の陣」だったんだと思いますが、デザイン、ターゲット、全てがかみ合った。開発者としてはかなり“萌え”がある話です。全てがかみ合うと売れるという、まさに教科書のような話。

添谷: 肝は「ターゲットは誰か」というところですね。アヒルの次に出したのが「ソニーエンジェル」。世界28カ国で取り扱っていて、海外を含めると会社の売り上げの40%近くを占めます。今でもドリームズの根幹を支えている商品です。ソニーエンジェルは中に何が入っているか開けてみるまで分からないというコンセプトで開発しました。そのころはそういう商品はほとんど男性向けというか子ども向けだったんですよ。

 ターゲットは25歳でしたが、実際に買っているのは20歳から40歳くらいと幅広い。発売からちょうど今年で15年を迎えますが、15年間ずっと買い続けてくれている人も多いです。25歳で買い始めたら15年後の今は40歳でしょう。その間に結婚もして子どもも生まれて、娘と一緒に集めて楽しんでいるという人もいます。

高橋: ソニーエンジェルを初めてみたとき「これ、素材は何?」と思いました。固さとか塗りのよさが際立っていたので。クオリティーがすごいなと。発売当時はいくらで出したんですか?

添谷: 380円です。

頭にかぶり物をした小さな天使の男の子のフィギュア「ソニーエンジェル」
頭にかぶり物をした小さな天使の男の子のフィギュア「ソニーエンジェル」
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高橋: その値段で、買ってみないと中身が分からないんですよね。僕も以前、カプセルトイを担当していましたが、当時200円から300円に値上げしようという話が出たとき、散々もめたんです。誰もそんな値段のものを買わないんじゃないかと。でもソニーエンジェルは400円近い価格で、中身も分からない。ノンキャラで、さらにターゲットは女性。今までの経験を全てぶち壊されたような気がしました。

添谷: 15年前は300円のカプセルトイはまだありませんでしたね。せいぜい200円で、100円のものもありました。だから380円で出したのは確かにチャレンジだったんですよ。クオリティーでいうと、今はコピー品も出回っています。でも違いは一目見れば分かります。

 以前、ソニーエンジェルのメイン工場がキャパオーバーしてしまい、ほかの工場でつくってもらったことがあるのですが、出来はいいけれど何かが違っていた。金型をサンドペーパーみたいなもので削ってざらざらにしているのですが、そのざらざら度合いや肌色のツヤ感がほんの少しの違うだけで、見た目が全く変わってしまうんです。私はそれを「魂が入っている、入ってないくらいの違いがある」と社員に話しています。

 韓国や中国でもソニーエンジェルを目指しているというか、ターゲットにして、市場を奪い取ろうとする人たちが出てきています。それはもう競争原理なので仕方がない。最近も中国でわれわれのシステムから何から全部まねしたものが出てきて、うちのスタッフがやきもきしていますが、「心配するな、3年もたったらいなくなるから」と言っています。見ていて分かるんですよ、やっつけ仕事だということは。

高橋: 結局のところソニーエンジェルっぽいものじゃなくて、ソニーエンジェルがほしいという人が圧倒的にいるということですよね。

添谷: ソニーエンジェルを買いに行って、その近くに似ているけど違う商品があったら気になって買ってしまうというのはしょうがない。浮気するのは当たり前ですよ。大事なのは、浮気したままそれに本気になっちゃうのか、戻ってくるのかどうか。実際、ほとんどのファンが戻ってきてくれます。

高橋: 今の話を聞いて、ミニ四駆を思い出しました。ミニ四駆も偽物というか、そっくりでもっと安いものが出回っていた時期がありました。僕も買ってしまったことがありますが、子どもでも分かるんですよね、いかにタミヤのミニ四駆が素晴らしいか。一瞬で分かりますから。

「おきて破り」の商品開発

高橋: 僕は御社の商品では「スミスキー」が好きなんですが、部屋の隅にいてこっちを見ていて、ちょっとぼんやり光っているみたいなシュールさに引かれます。

添谷: ソニーエンジェルの次の商品を開発しようと考えたとき、ターゲットを全く同じにすると社内競合してしまうと思いました。それで男性をちょっと意識したのがスミスキー。ソニーエンジェルは購入者の9割が女性ですが、スミスキーは男女比がちょうど半々くらい。今は年間80万個くらいの売れ行きです。

暗闇で光るふしぎな妖精のフィギュア「スミスキー」
暗闇で光るふしぎな妖精のフィギュア「スミスキー」
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高橋: ファンとしては話が止まらなくなりますが、光り方がすごいですよね。部屋に置いておいて電気を消して、夜中に目が覚めてもまだ軽く光っているから。

添谷: これは「おきて破り」をやってしまっているんですよ。金属片のパウダーを使って蓄光させるのですが、玩具メーカーではSTマークという基準があるため、パウダーの使用量は3~5%以内に抑えています。でも、スミスキーには20%入っています。子ども向けのおもちゃではないからです。

 そこまでした理由は、どうしても強く光らせたかったから。夜中に目を覚ますとスミスキーが保安灯のようにずっと光っていて、それが本物の妖精のように見えたらいいなと思ったんです。でも実際にそこまで強く光るかどうか確証はなかった。本当にそれだけ光るかどうかは、実際につくってみないと分かりませんでした。

 成形は2つの金型をたい焼きの焼き型のように重ね合わせて、そこに開けた穴から注射器で材料を注入するんですが、混ざり物が多いと詰まることがある。詰まらないギリギリのパウダーの量が20%でした。ここまででできなかったらスミスキーは完成しなかったかもしれない。そこまで光らなかったら、たぶん売れなかったと思います。

高橋: 箱の話も外せません。スミスキーはパッケージが六角形ですよね。パッケージってコストカットされるじゃないですか。そこにも手を抜かないのがすごい。

添谷: 箱しか見えないから、箱で買っていただくんですよ。昔でいうと「CDのジャケ買い」みたいな話です。中が見えない物を買っていただくので、そこはやっぱり考えないと。下手するとパッケージにも製品と同じくらいお金をかけています。今、パッケージに入れたまま売っている商品っておもちゃと薬ぐらいしかないはずなんですよ。「馬子にも衣装、髪かたち」と私はいつも社員に言っていますが、パッケージまで含めて商品。

 ほかにも理由があって、うちの商品はギフト需要が多いんです。ソニーエンジェルもスミスキーも、アヒルも。ギフトはもらった人が包装紙を開けた瞬間にどう思うかがすごく大事だと思うので、パッケージに手を抜くことはできません。もう一つ、形の工夫だけでなく、パッケージを開けるときに全部破かないと開けられないようにしています。

高橋: なるほど。びりびりと。

スミスキーのパッケージ
スミスキーのパッケージ
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添谷: カッターを使えばきれいに開けることもできますけどね。ブランドのギフトボックスやショッパーをとって置くように、なんとかこのパッケージを保管できるような仕様に変えてほしいという声も寄せられますが、その意見を採用することは絶対にありません。

 パッケージはあくまでもパッケージ。役目を果たしたら要らないものです。商品をどんどん買い続けてコレクションしてもらいたいのに、パッケージまでコレクションしていたら保管スペースが倍以上必要になる。

高橋: なるほど。

添谷: 特に一人暮らしの働く女性ってそんなに広いところに住んでいないから、保管スペースにもリミットがあるでしょう。そうなると、このパッケージは邪魔なんですよね。商売根性みたいな話ですけど、そういう考えでパッケージは残さないほうがいいと思っています。でも本当にコアなファンのなかにはスミスキーをケースごと買って開けずに取っておくという人もいます。

高橋: 気持ちは分かります。昔、ビックリマンチョコを箱で買ってもらったときみたいな。そういううれしさがありますよね。

「おいしい料理をつくった人よりも食べた人のほうが偉い」という考え方が大嫌い

高橋: スミスキーは「どこで買ったか分からないけど、うちに1個ある」という人がとても多い気がします。僕にも商品より先にPRのことばかりを考えていた時期がありましたが、今でもそう思っている人はたくさんいますよね。どうやったらSNSで拡散するとか。PR至上主義みたいなところがまだまだある。

「“バズる”が大嫌い」 ケーブルバイト開発者が語るヒット秘話(画像)
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添谷: うちにもPRチームがありますから、新製品のリリースも出しますし、一通りのことはやっています。ただ、「バズる」ってあるじゃないですか。僕はその言葉が大嫌いなんです。

 海外の会社と取引していると、大したことのない商品をテクニックで売ってしまう人たちに出会うことがあります。特に欧米にはそういう「マーケティング命」みたいな人たちがたくさんいる。そういう人たちにうちの商品を売ってもらおうとすると、中身は関係なく、「どうやって売ろうか」という話がいきなり始まってしまう。「中身を見せて売ってもいいんでしょう?」みたいな感じなんですよ。

 発想がマーケターなので、これをどう売るかを考えるのが自分の仕事だと思っている。自分の手に渡ってきたものだから、どう扱おうと自由だろうという話なんですよ。そうした考えに納得できず、海外では売らせないという時期が何年も続きました。最終的にはうちの考えを理解してもらえるところに出会えたのですが……。

 それでもやっぱり、いかにマーケティングをするかということを主眼に置くんです。そうするとそこにはマーケティングのコストがかかりますよね。マーケティングフィーを含めて、なおかつ彼らのマージンを取ってとなると、どんどん金額が上がっていく。

 いつも言っていることですが、「おいしい料理をつくった人よりも食べた人のほうが偉い」という考え方が大嫌いなんです。売り方がいいから売れるのではなく、商品自体がどれだけ価値があるかということが一番大事なんじゃないでしょうか。日本の職人には昔からそういうことを言う人が多いので、これは日本人のアイデンティティーのような気がします。

【後編はこちらから】

(文/樋口可奈子、写真/岩澤修平)

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2019年3月20日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています