富士通のPC事業が、レノボ傘下でスタートを切ることが正式に発表された。富士通およびレノボグループによると、2018年度第1四半期を目途に、富士通のPC事業を担当する同社100%出資子会社の富士通クライアントコンピューティング(FCCL)に対して、レノボ・グループが51%を出資。富士通は44%、日本政策投資銀行(DBJ)が残りの5%を出資する。

 富士通およびレノボ・グループ、2016年10月に、PC事業に関して、研究、開発、設計、製造に関する戦略的提携を検討していることを公表したが、それから約1年を経て、正式に契約に至ったことになる(関連記事:レノボによるPC事業統合は富士通にとって“劇薬”)。

【43.7%】レノボが富士通のPC事業統合 22年ぶり1強に(画像)
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22年ぶりにシェア40%台を持つ企業グループが復活

 富士通の田中達也社長は、「2016年10月に提携の検討を発表してから、顧客にとってなにが最適かという観点から、両社のシナジーがもっとも効果的となるビジネススキームを目指して、真剣な協議を、丁寧に、時間をかけて行ない、今回の提携に至った」と説明。「富士通が30年以上にわたって培ってきた製品開発力と製造能力に加えて、レノボが持つ世界屈指の調達力とスケールメリットを活用することができる。これにより、富士通ブランドのPCの商品力を強化し、国内およびグローバルの顧客に一層魅力的な製品を提供できる。まさに最高のコラボレーションである」と語った。

 また、レノボ・グループのヤンチン・ヤン会長兼CEOは、「PCは、われわれのビジネスの原点であり、コアである。世界で3番目となる日本のPC市場において、信頼されるブランドと提携ができ、レノボの規模と効率性を、富士通の成長にも生かすことができる。また、レノボにとっても、富士通のグローバルな実績やサービス面でも協力できる。富士通とともに、PC業界を発展させていきたい」と述べた。

 レノボは、2005年に、IBMのPC事業を買収。2011年には、NECのPC事業を傘下に収め、NECパーソナルコンピュータとして、日本におけるNECブランドのPC事業を展開している。

 MM総研の調べによると、2016年度の国内PC市場のシェアは、第1位のNECレノボが25.6%、第2位の富士通が18.1%であり、これらを併せると、43.7%に達する。

 手元の古い資料をひもとくと、1993年にIDCジャパンが、NECのシェアが49.0%で、初めて50%を切ったことを発表している。1994年にはデータクエストジャパン(現ガートナージャパン)も、NECのシェアが47.0%と、50%を切ったことを発表した。当時のNECは、独自仕様のPC-9800シリーズを擁し、「ガリバー」と称されていた。そのNECのシェアが50%を切った事実は、当時のPC業界に激震をもたらした。

 その後の資料も見てみると、1995年のデータクエストジャパンの調査ではNECのシェアは40.0%に縮小。1996年には32.0%にまで転落した。1995年にWindows 95が登場したことで、標準化が進み、独自プラットフォーム上のアプリケーションソフトの数で圧倒的な強みを誇ったNECの優位性が発揮できなくなったのが要因だった。

 こうしてみると、今回、レノボが富士通を手中に収めたことで、実に22年ぶりに40%台のシェアを持つ企業グループが日本のPC市場に復活したことになる。

富士通ブランドのPC開発、生産は継続

 発表によると、富士通クライアントコンピューティングは、社名を継続して使用。代表取締役社長には、齋藤邦彰氏が引き続き就く。また、富士通ブランドのPCの開発、生産を継続し、現在の製品ポートフォリオを維持。神奈川県川崎市の開発部門や、島根富士通の製造体制を維持する。富士通傘下の福島県伊達市の富士通アイソテックでは、富士通ブランドのデスクトップPCを生産しているが、今後は、富士通クライアントコンピューティングから同社に委託する形でデスクトップPCの生産を継続することになる。

 また、法人向け製品については、従来通り、富士通から販売パートナーを経由した販売と、直販部門による販売体制を維持。サポートやサービスも富士通が提供する。一方で、国内の個人向け製品は、富士通クライアントコンピューティングから、量販店などに販売。サポートとサービスも富士通クライアントコンピューティングが担う。

 会見では、製品ポートフォリオに変化がないことや、工場を閉鎖する計画がないことを強調していた。だが、製品ラインアップの維持や、生産拠点の維持は、国内PC市場が継続的に成長することを前提としている点に注目すべきだ。

 レノボ・グループのケン・ウォン シニアバイスプレジデント兼アジアパシフィック地域プレジデントは、「日本では、2020年の東京オリンピックまで成長の勢いが続く」と予測。「世界で最も先進的なテクノロジーを好んでいるのが日本のユーザーだ。世界全体におけるプレミアムPCの構成比は17%なのに対し、日本では55%を占める。1人あたりの平均売り上げが最も高いのも日本である」と、日本の市場における成長性と収益性の高さを強調した。

レノボ・グループのヤンチン・ヤン会長兼CEO(左)と富士通の田中達也社長(右)
レノボ・グループのヤンチン・ヤン会長兼CEO(左)と富士通の田中達也社長(右)
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 東京オリンピックによる需要増以外にも、2019年10月に予定通り消費税が10%に上がれば、それを前にした駆け込み需要が想定されるし、2020年のWindows 7の延長サポート終了に伴う置き換え特需も見込まれる。さらに、富士通クライアントコンピューティングが、「今年の年末商戦の目玉」と位置づける「ミックスドリアリティー」(Mixed Reality、MR、拡張現実)などの新たな技術との連携で、PCの需要拡大に弾みがつくという期待も膨らんでいる。

 こうした成長が見込まれるタイミングにおいては、当然のことながら、製品ラインアップの縮小や、生産拠点の統合といった判断は、戦略的にマイナスだ。NECパーソナルコンピュータが持つ山形県米沢市の米沢事業場、富士通クライアントコンピューティングの島根富士通、富士通傘下の富士通アイソテックという3つの国内製造拠点を維持したほうが、成長に併せた生産が可能だ。

PC業界再編は2020年以降に

 だが、問題は成長が鈍化するであろう2020年以降だ。

 オリンピック後の一時的な景気低迷は、多くの国に共通するものだ。1965年の東京オリンピック後にも、「昭和40年不況」があった。そして、Windows 7からの置き換え特需後も同様。2014年4月のWindows XPの置き換え特需後には、23カ月連続で出荷台数が前年割れになる長期低迷につながった。しかも、Windows 10は、「最後のバージョン」といわれており、今後、OSのバージョンアップを背景にした特需はない。MRの普及についても、IDCジャパンが日本での成長率は世界全体に比べても見劣りするとの予測を出しており、PC市場拡大への貢献度は低いとの見通しを示している。

 市場成長が鈍化に転じたり、市場が縮小したりすれば、当然、製品ラインアップの見直しや、生産拠点の統廃合といった議論が改めて本格化することになろう。普及価格帯のグローバルモデルを主軸にするレノボと、国内向けの高付加価値製品を中心ににフルラインアッ プを展開するNECパーソナルコンピュータには補完関係があったが、これまで真っ向から対抗してきたNECパーソナルコンピュータと、富士通クライアントコンピューティングの製品には競合するものが多い。成長局面では、「選択肢を広げる」という戦略が許されても、成長が鈍化したり、市場が縮小したりすれば話は別だ。ラインアップの見直しや、生産拠点の再編は不可避ともいえる。

 2020年までは、これまでの体制とは変わらないだろう。だが、2020年以降になると、状況は一変する。2020年以降に起こりうる再編こそが、NECブランドのPCと、富士通ブランドのPCが、どんな形で生き残るのかを決めることになりそうだ。