球団買収時と同じ孫社長の語り

 一方で、今回の会見では、孫社長が学生時代だった40年前のことを振り返っていたことが印象的だ。

 1976年に19歳だった孫社長は、サイエンスマガジン誌に掲載されたCPUの拡大写真を見て、「人類の頭脳を超えるものを、人類が生み出したことに感動と興奮を覚え、両手両足がジーンとしびれ、涙が止まらなかった」と述懐した。

 こうした若き日の詳細なエピソードを披露したのは、プロ野球の福岡ソフトバンクホークス(当時の福岡ダイエーホークス)買収時に、野球少年であり、打順は3番、守備はサードであったことを明かして以来のことだろう。

発表会のスライドでもサイエンスマガジン誌に掲載されたCPUの拡大写真を使用した。同社発表会の中継動画から
発表会のスライドでもサイエンスマガジン誌に掲載されたCPUの拡大写真を使用した。同社発表会の中継動画から
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 孫社長は、「今日、私自らが、未来の姿に関わっていくことになる。事業家としての人生において、最もハイライトすべき日である」と語った。

 かねて孫社長は、シンギュラリティ(技術的特異点)に強い関心を持っている。シンギュラリティとは、一般的に人工知能が人間の能力を超えることを示す。

 孫社長の試算によると、2018年には、300億個のトランジスタが1つのチップの中に入ることが想定され、トランジスタの数は人間のニューロンの数を超える、物理的なクロスポイントが訪れるという。そして、30年後には、人工知能が持つIQは10000になるとも予測する。アインシュタインやダヴィンチのIQは200くらいといわれるが、近い将来の人工知能は、それをはるかに超えるものになるというわけだ。

 孫社長は、30年後の世界を、人間の100万倍の脳細胞を持った「人工知能」と、それを搭載した「スマートロボット」が全世界の人口を超える100億台に達し、インターネットにつながったIoT機器が10兆個に達すると予測している。これが孫社長が描く、シンギュラリティの姿だ。

 ARMの買収は、そうした想像がつかない未来に向けた入口に、孫社長自らが立ったともいえる。先ごろ、孫社長の後継者と目されていたニケシュ・アローラ氏の退任を発表し、「事業家としての欲が出てきた。ソフトバンクの社長として、まだ5年、10年は熱心に経営をしたい」と発言した孫社長(関連記事:ニケシュは去るが「孫劇場」は続く)。ARMの買収という未来への布石があるのならば、そうした言葉が発せられたのも当然だったのかもしれない。