買収金額が安くなった要因とは

 では、東芝のPC事業は、なぜ、これだけ買収金額が安かったのだろうか。もちろん、そこにはシャープ買収時にみせた鴻海流の交渉術が存在するのは明らかだ。だが、それ以外にもいくつかの要素がある。

 1つは、赤字体質から脱却できないままの事業だったことだ。東芝のPC事業は、2016年度に約5億円の赤字、2017年度は96億円の赤字となっている。PC事業を分社化し、自力再生を目指し、事業縮小による利益確保を目指していたが、規模の追求あるいは付加価値の追求が「勝利の方程式」となるPC事業において、その方向付けを明確にできなかったことが苦戦の原因となった。

 2つめは、PC事業そのものが、明らかに旬が過ぎた事業であるということだ。先に触れたように、東芝のPC事業は、一時は年間2500万台の出荷規模を目指していたが、いまでは10分の1を切る200万台以下に縮小している。成熟市場となった国内だけをターゲットにしたビジネスには限界もあった。短期的にはWindows 7の延長サポート終了や、消費税増税前の駆け込み需要など、国内における出荷増は見込まれるが、2020年度以降の反動は避けられない。中長期的な成長戦略を描きにくい事業なのは確かだ。

シャープもかつてはパソコン「メビウス」シリーズを展開していたが、2010年に撤退している
シャープもかつてはパソコン「メビウス」シリーズを展開していたが、2010年に撤退している
[画像のクリックで拡大表示]

 3つめには、交渉相手がシャープに限定されていたということ。一部報道では、台湾ASUSが、東芝のPC事業を買収する動きをみせていたというが、シャープの関係者は「そうした事実はなかったと判断している」とする。つまり、東芝のPC事業買収に食指が動いたのは、シャープだけであり、それが交渉面でも優位に働いたといえる。

 シャープは、2017年上期から買収交渉を行っていた模様。その後、東証一部復帰の申請を進めたことで、2017年6月末には一度交渉を中止したが、2018年3月に交渉を再開し、今回の買収に至ったようだ。最終交渉段階では、競合する企業の姿は見えず、それも交渉にはプラスに働いた。

 最後に、東芝の屋台骨を揺るがした不正会計処理の舞台となったPC事業を、東芝自らが切り離したいと考えていたことも作用しているように感じられて仕方がない。こうした要素が積み重なって、約40億円という買収金額に落ち着いたのではないだろうか。