“働き方改革”は、近年のICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)産業の成長をけん引するキーワードだ。

 調査会社のIDC Japanによると、2016~2021年の国内ICT市場の年平均成長率は、全体で2.1%増と予測されているのに対して、働き方改革に限定すると7.9%増。同社では、ICT市場を、ハードウエア、ソフトウエア、ITサービス/ビジネスサービス、通信サービスの4つの領域に分類しているが、いずれの領域でも、市場全体より働き方改革に限定したICT市場の方が高い成長を遂げると予測している。

国内の働き方改革に関連したICT市場は伸びており、2021年に2兆6622億円に達すると試算
国内の働き方改革に関連したICT市場は伸びており、2021年に2兆6622億円に達すると試算
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ICT市場全般と比較すると、働き方改革関連の伸びが顕著
ICT市場全般と比較すると、働き方改革関連の伸びが顕著
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 働き方改革には、時間と場所に柔軟性を持たせた働き方を実現することで、ワークライフバランスを向上させ、生活を豊かにする、機械化できるようなルーティンワークを削減し、創造性を高める仕事に集中するといった狙いがある。

 オフィスワーカーに関していえば、モバイルデバイスやモビリティーソリューションを利用することで、在宅や外出先などオフィス以外の場所で仕事し、通勤時間を削減したり、個々の生活に合わせた働き方を目指す。また、オフィス内でもフリーアドレスにすることで、仕事の内容に応じた働き方ができるといったメリットがある。

制度改革に比べてIT環境の整備は進まず

 だが、前述の調査結果によると、社外でもオフィスと同等の環境で働ける体制はまだ整っていないようだ。例えば、メールを社外から使用できる企業は全体の約6割。スケジュールや会議システムは約4割、経費精算は2割強、オンラインストレージは1割強にとどまっている。

【約8割】社用PC持ち出し禁止 働き方改革に黄信号?(画像)
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 また、別の調査では、モバイルを活用したセキュリティーの強化や、業務アプリへのオフィス以外からのアクセス、PCやタブレット、スマートフォンの新規導入などに取り組んでいる企業は10%強、テレワークの導入を図っている企業は5%強に過ぎないというデータもある。

 調査を担当したIDC JapanのPC, 携帯端末&クライアントソリューション担当グループマネージャーの市川和子氏は、「残業時間短縮に取り組んでいる企業が約50%、仕事量の見える化、勤務時間の柔軟化といった制度面の改革に取り組んでいる企業が25%以上に達するなど、フィジカル面での整備は進んでいても、IT施策は遅れているのが現状。働き方改革に向けたITが整っておらず、さらに労働生産性向上に必須となる汎用業務ソフトウエアの社外利用がほとんどできない状況にある」と、指摘する。

PCを持ち出せないのは残業防止のため

 そして、働き方改革の促進に大きなハードルとなっているのが、社外へのPC持ち出しを禁止している企業があまりにも多いことだ。

 同社の調査によると、ノートPCの社外への持ち出しを原則として禁止している企業は、従業員500人以上の大手企業で約8割、499人以下の中小企業で約5割に達している。これらの企業では、持ち出し専用のノートPCを用意したり、事前に届け出ることで社外への持ち出しを許可しているが、社内と同じ作業環境を社外に迅速に持ち出すことはできない。

ノートPCの社外持ち出しを禁止している企業は多い
ノートPCの社外持ち出しを禁止している企業は多い
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 IDC Japanが持ち出し禁止の理由をヒアリングしたところ、多くの企業が挙げたのがセキュリティー上の問題。このほかにも、「自由にPCを持ち出すと、家で残業を行うケースが増え、残業時間短縮の流れの中でコントロールができなくなるという声があった。セキュリティーを強化すれば解決するという単純な問題ではないことが分かった」(IDC Japanの市川氏)という。

 その一方で、月1回以上、自宅に仕事を持ち帰る社員は5割を突破している実態もある。それら社員のうち、大手企業では約6割、中小企業では約8割が、自分のPCを使って仕事をしている。「自宅で仕事をする際に、自分のPCで仕事をしている理由として、4割以上が会社のPCが持ち出し禁止になっていることを挙げている」と市川氏は言う。

IDC JapanのPC, 携帯端末&クライアントソリューション担当グループマネージャーの市川和子氏
IDC JapanのPC, 携帯端末&クライアントソリューション担当グループマネージャーの市川和子氏

 IDC Japanでは、今回の調査を通じて、「企業における働き方改革は、残業時間や就労規則などの取り組みに重きが置かれており、ICTを利用した抜本的な生産性向上、柔軟な働き方の実現への道のりは遠いのが実情である。頭では分かっていても、実行するための資金が足りなかったり、関係部門との協力関係構築が難しかったりといった問題があり、ハードルが高くなっているともいえる」と指摘した。「ICTベンダーは、ICT活用による働き方改革のユースケースの発表を継続し、成果を数値で提示することで、ユーザー企業のICT導入のきっかけを提供する必要がある」と提言している。

 働き方改革は、ICT産業の成長ドライバーのひとつと位置づけられているが、その利用実態はまだ十分に進んでいない。今後、地に足のついた提案が必要であることは間違いない。

 まずはノートPCやタブレットなどの社外持ち出し禁止といったルールを改善していく必要があるだろう。課題として挙がったセキュリティー状の問題について、ICTベンダーでは、紛失時のデータの遠隔消去ソリューションや追跡ソリューションなどを用意している例もある。また、残業短縮については、リモート環境での勤務時間を計測したり、残業時間帯には利用できないようにしたりするソリューションがあり、残業を抑制することも可能だ。働き方改革による効果を得るためには、ICTの利活用は不可欠。ユーザー企業は、こうしたツールを活用することも検討すべきだろう。