2018年9月22日、東京ドームシティで、世界初となるイグ・ノーベル賞の公式展覧会「イグ・ノーベル賞の世界展」がスタートした(11月4日まで)。

「イグ・ノーベル賞の世界展」は2018年9月22日から11月4日まで開催。当日料金は大人(高校生以上)1400円、小人(小・中学生)900円。未就学児は無料。写真は左から、オープニングセレモニーに出席した同展オフィシャルアンバサダーのテリー伊藤氏、今年イグ・ノーベル賞を受賞した堀内朗医師、イグ・ノーベル賞創設者のマーク・エイブラハムズ氏
「イグ・ノーベル賞の世界展」は2018年9月22日から11月4日まで開催。当日料金は大人(高校生以上)1400円、小人(小・中学生)900円。未就学児は無料。写真は左から、オープニングセレモニーに出席した同展オフィシャルアンバサダーのテリー伊藤氏、今年イグ・ノーベル賞を受賞した堀内朗医師、イグ・ノーベル賞創設者のマーク・エイブラハムズ氏
[画像のクリックで拡大表示]

 イグ・ノーベル賞は1991年に創設された「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に与えられる賞で、“裏ノーベル賞”ともいわれている。毎年、5000件を超える研究がノミネートされ、同賞を企画運営するユーモア系科学雑誌「AIR(Annals of Improbable Reserch、風変わりな研究の年報)」の編集者やノーベル賞受賞者を含む科学者、ジャーナリストがそのなかから10件を選出する。

  「ガスマスクに変形させられるブラジャー」「悪臭のガス(おなら)を防ぐ気密性の高い下着」「キツツキはなぜ頭痛がしないのか」など、他にはないトガった研究が受賞している。

 日本人も「ハトを訓練し、ピカソとモネを区別させることに成功」「床に置かれたバナナの皮を、人が踏んだときの摩擦の大きさ」「ウシの排泄物からバニラの香り成分を抽出」「前かがみになって股の間から後ろ方向にものを見ると、実際より小さく見える股覗き効果」といった研究に加え、「カラオケ」「たまごっち」「バウリンガル」といった商品・サービスも受賞しており、これまでに23組と、日本は世界でも受賞者数が多い常連国となっている(日本時間の9月14日に発表された今年のイグ・ノーベル賞でも、医師の堀内朗氏が大腸への内視鏡挿入を容易にするためにスコープを自ら大腸に挿入する研究で受賞した)。

同展のオープニングセレモニーには歴代の日本人受賞者も出席。同賞の授賞式で名物となっている「1分間スピーチ」や紙飛行機を飛ばすパフォーマンスも行われた
同展のオープニングセレモニーには歴代の日本人受賞者も出席。同賞の授賞式で名物となっている「1分間スピーチ」や紙飛行機を飛ばすパフォーマンスも行われた
[画像のクリックで拡大表示]

トガッた受賞研究を体験できるコーナーも

 同展ではイグ・ノーベル賞や受賞研究について詳しく解説されており、一部の受賞研究については体験コーナーもある。

イグ・ノーベル賞の歴史や授賞式の様子などを大きなパネルで紹介
イグ・ノーベル賞の歴史や授賞式の様子などを大きなパネルで紹介
[画像のクリックで拡大表示]
各受賞研究についても詳しく解説
各受賞研究についても詳しく解説
[画像のクリックで拡大表示]
2012年に音響賞を受賞した栗原一貴氏の「スピーチジャマー」は体験が可能。話している人の声をマイクで拾い、その声を遅れて本人に送り返すことで、周りの空気を読まずに話し続ける人を邪魔する装置
2012年に音響賞を受賞した栗原一貴氏の「スピーチジャマー」は体験が可能。話している人の声をマイクで拾い、その声を遅れて本人に送り返すことで、周りの空気を読まずに話し続ける人を邪魔する装置
[画像のクリックで拡大表示]
「月に池があったら地球の1/6の重力で水面をスイスイ歩行」を体験できるコーナー
「月に池があったら地球の1/6の重力で水面をスイスイ歩行」を体験できるコーナー
[画像のクリックで拡大表示]

 受賞研究の解説を見ていて分かるのは、いずれも笑わせようとしたわけではなく、いたって真面目に研究した結果だということ。ハーバード大学の大講堂で行われる授賞式には本家・ノーベル賞受賞者が何人もプレゼンターとして参加するなど、科学界の大御所にも認められている賞なのだ。

創設者「人は予期せぬことに出合うと笑うしかなくなる」

 そもそもなぜ科学を笑いにしようを思ったのか。なぜ真面目な研究なのに笑いが起こるのか。イグ・ノーベル賞創設者のマーク・エイブラハムズ氏に聞いた。

イグ・ノーベル賞創設者のマーク・エイブラハムズ氏は、同賞を企画運営するユーモア系科学雑誌「AIR(Annals of Improbable Reserch、風変わりな研究の年報)」の共同設立者であり、編集者
イグ・ノーベル賞創設者のマーク・エイブラハムズ氏は、同賞を企画運営するユーモア系科学雑誌「AIR(Annals of Improbable Reserch、風変わりな研究の年報)」の共同設立者であり、編集者
[画像のクリックで拡大表示]

――なぜ、科学と笑いを掛け合わせようと思ったのですか。

マーク・エイブラハムズ氏(以下、マーク): 自分のなかでは、もともとつながっていたんです。子どものころから科学が大好きで、面白いニュース記事を集めるのも好きでした。共通して興味をそそられたのは、“予期できないこと”。つまり自分の経験や知識の全く外にあることに出会うと、もう笑うしかないんです。

 幸運にも勉強はできたのですが、本当に好きだったのは、学校の先生があまり説明しないような教科書の中の小さいコラムでした。面白いもの=重要ではないと思われるかもしれませんが、私はその逆だと思っています。面白いものの背後にはもっと面白いものがあるんじゃないかと。

 そして、科学雑誌の編集者になって分かったのは、偉大な発見に至るストーリーとして公式に語られていること以外にも、実は面白い話がたくさんあるということ。学校では、天才がその存在が前もって分かっていたかのように偉大な発見を成し遂げ、周りもその価値をすぐに理解したかのように教えていますよね。でも本当は、偉大な発見の発端は事故や偶然だったり、周りがクレイジーだと思うような行動だったりする。そういったものを掘り出すのがイグ・ノーベル賞なんです。

――そこから偉大な発見が生まれるかもしれないと。

マーク: そうならないかもしれません。それが重要な発見かどうかはスタート時点では判断できない。分かるのは、それが“予期できないこと”だということだけ。なかには重要な発見につながるものもあるかもしれませんし、クレイジーなまま終わるかもしれません。私は賞の発表後に聴衆と話をするのが好きなのですが、どの研究が重要で、どれがクレイジーかは意見が全く一致しないんです。そこで議論が起こったときに、自分は良い仕事をしたなと思います。

――イグ・ノーベル賞を受賞した研究はどれも真面目に研究されたものなのに、私たちはなぜ笑ってしまうのでしょうか。

マーク: 受賞した全ての研究者に共通していえることは、“予期できない人々”。つまり、みなさんの経験の外にいる方々だということ。普通の人が「知っているけど、考えたことがないこと」を常に考えている人たちなんです。

 みなさんが今の仕事を何年もされているとして、最初の日のことを思い出してみてください。いろんなことが新鮮に感じませんでしたか。しかし、次の日になると新鮮なことは少し減って、1カ月経つとゼロになってしまう。いったん慣れると、面白いことに気付かなくなるんです。でも、新しい人が入ってくると、その人は新鮮な感覚で物事に接している。この賞ではそういう感覚を見極めようとしています。

――ところで、あなたはなぜ自分の隣に消火器を置いているのですか。

マーク: 今までの人生で消火器を隣に置いてしゃべったことはないなと思って、置いてみたんです(笑)。

イグ・ノーベル賞創設者に聞く 真面目な研究が笑いを生むワケ(画像)
[画像のクリックで拡大表示]

(文/山下奉仁=日経トレンディネット、写真/中村宏)