今、韓国で大ブームを巻き起こしているスイーツをご存じだろうか。それが、粉雪のようにサラサラで繊細な食感の新スタイルのミルクかき氷「雪氷(ソルビン)」。韓国では同名の店舗が2013年の1号店(釜山)オープン以来、1年で390店舗、3年間で500店舗近くもオープンしているというから驚きだ。
看板メニューのソルビンに加えて2015年には真冬でも楽しめる温かいスイーツ「インジョルミ・トストゥ(きな粉餅トースト)」を発売してさらに人気がヒートアップし、「韓国国内の20代が思い浮かぶデザートブランド」1位を獲得。 2016年3月にはH.I.S.が発表した、SNSの旅好きフォロワー約100万人を対象に調査した「本場で食べたい! 世界の絶品スイーツランキング」で、ソルビンのプレミアムいちごかき氷 が1位を獲得している。人気は韓国にとどまらず、2015年には中国(上海)、タイ(バンコク)にそれぞれ1号店をオープンした。
そのソルビンの日本1号店「ソルビン ハラジュク」が2016年6月30日、原宿駅前にオープンした。運営するのは、スペイン発の輸入雑貨店「ムイムーチョ」(関連記事「生まれ変わった銀座「ニューメルサ」は“個性派雑貨店”が大集合!」)を展開するエンポリオ(東京都江戸川区)。同社初の飲食店となる。
輸入雑貨を扱うエンポリオがソルビン運営に乗り出したきっかけは、同社の鈴木一郎社長が2015年9月にソルビンを食べて驚がくしたこと。「今までに食べたことのない、全く新しいスイーツ。ぜひ日本に紹介したいと思った」(鈴木社長)。その3日後に創業者のチョン・ソンヒ氏にコンタクトをとり、同年11月に契約を締結したという。
韓国でそこまで大ブームを巻き起こしているソルビンとは、いったいどんなスイーツなのか。その人気の理由を探るべく、オープン3日前に行われた内覧会に参加した。
日本の和菓子にインスパイアされて誕生した!?
そもそもソルビンは、どのようにして生まれたのか。韓国では、古くから餅(米)、きな粉、餡子(小豆)、胡麻、芋を用いた伝統菓子が親しまれてきた。日本でもよく目にする韓国スイーツ「パッピンス」も、本来は「パッ」(小豆)と「ピンス」(かき氷)が組み合わされたもの。ただ韓国の若年層には洋風スイーツが人気で、パッピンスのような伝統菓子は「古くさい」と全く支持されていなかったという。
ソルビン創業者のチョン・ソンヒ氏は10数年前、飲食ビジネスを学びに東京に留学。そのとき、日本の伝統的な和菓子が時代とともに進化し続けていて、老若男女に親しまれている様子を見て驚いたという。「韓国の伝統菓子も若い層に親しまれるものに進化させたい」と、その方法を模索。伝統菓子のパッピンスをヒントにサラサラした新しい食感のかき氷を開発し、華やかなトッピングを施したものを完成させた。粉雪のようにサラサラの食感から「雪氷(ソルビン)」と名付けたという。
内覧会で提供されたのは、韓国で1番人気の「きな粉餅ソルビン」。かき氷といえば涼しげなガラス製の器が普通だが、お茶漬け丼を思わせる厚手の黒っぽい器に、山のようにかき氷が盛り付けられている。全体にたっぷりきなこがかけられていて、運ばれた瞬間からむせている人も。
ひとくち食べて、驚いた。これまで人気のかき氷をいくつも取材してきたが(関連記事「この夏は“進化系かき氷”ラッシュ! 泡、味チェンジ、ドロドロ系…」)、そのどれとも違うのだ。
まず、かき氷なのに、シロップが全くかかっていない。しかも氷がきなこと区別がつかないくらいサラサラ。台湾発のかき氷店「マンゴーチャチャ」「アイスモンスター」(関連記事「“日本初上陸”仕掛け人が明かす、表参道に行列店が集まるワケ」)のように、ジェラート系の濃厚でねっとりした食感とも全く違う。
さらに驚いたのは、“氷が乾いている”こと。薄い板状になっている日本のかき氷と違い、乾いた粉状なのだ。シロップもかかっていないので、食べているとどんどん口の中の水分が奪われる。焼き菓子を食べて同じ経験はあるが、かき氷を食べて口の中が乾くのは初体験。「最初のひと口はむせないように注意」と言われたが、周りを見ると、最後までむせっぱなしの人もいたほど。水が2杯ついてきている理由が分かった。
「シロップなしでは味がないのでは」と思うかもしれないが、サラサラの氷そのものに濃厚なミルクのコクと甘みがあるので、氷だけでもおいしく食べられる。しかもきなこと同じ質感なので、サラサラ同士でよく混じりあい、香ばしさもプラスされる。さらにローストアーモンドのパリパリの食感、さくらんぼ大の粉のモチモチ感があり、むしろシロップ入りの普通のかき氷より味わいは複雑。通常のかき氷は途中で味に飽きることが多いが、これは最後まで食べ飽きることがなかった。
真冬でも繁盛する秘密は“スタバ的利用”にあり!?
日本国内で2017年までに6店舗、2020年までには50店舗をオープンさせる予定だという。かなり強気の目標だが、「これでも低く見積もった数字。実際はもっと多くなるのでは」(鈴木社長)。
だがかき氷は、どんなに人気があっても季節商品。夏場は売れても、シーズンオフの維持が難しいと思うが、韓国で展開している店は冬場もそれなりに人が入っているという。「今年3月に韓国の店に行ったときは、真冬なのに席が6~7割くらい埋まっていた。真冬でもダウンを着て食べている人が多い」(同)。たしかにかき氷を食べていると急激に冷えすぎて頭が痛くなることもあるが、ソルビンは不思議なほどそれがなかった。最終的には涼しさを感じるのだが、一般のかき氷のような強烈な冷たさがない。これなら、暖房が効いた室内でも楽しめるだろう。
冬場でも人気なのは、かき氷だけを目当てに来るのでなく、スターバックスのようにカフェとして利用をする人が圧倒的に多いことも大きいという。韓国で展開している約500店舗のほとんどがフランチャイズ契約だそうだが(直営店は8店舗程度)、「天然素材を使ったインテリアにするなどの決まりがあり、居心地の良い空間なのも人気の理由では」(鈴木社長)。
韓国にもソルビンをまねた商品が多く出ているが、ここまでサラサラな氷はどこにも真似できないとのこと。秋には日本限定の商品も開発予定だという。

(文/桑原恵美子)