スイートルームなのに、ホステルのような二段ベッド?
同ホテルでもうひとつ驚いたのが、客室のユニークさと多様さ。スイートルームなのにホステルのような二段ベッド風のロフトがあったり、高級住宅のようなキッチンとダイニングルームが備え付けられた部屋があったりと、見たことがないユニークな部屋が多かった。特に印象に残ったのが、開放感のある広いベランダのある部屋が多いこと。高層ホテルはベランダに出られない構造がほとんどだが、同ホテルは4階建ての低層建築なのでそれを生かしたのだろう。周囲に建物も低層で緑が多く、渋谷駅から徒歩数分とは思えないリゾート感があった。
ここ数年、“個性派ルーム”を売りにしたホテルは増加している(関連記事「東京駅徒歩4分「コートヤード・バイ・マリオット」を解剖! ウリは“クリエイターの部屋”!?」 「ホテルの“超個性派ルーム”が人気! 相撲、男の隠れ家、ベッドに鯉!?」)。急増中のホステルも多様化が目立つが、チェーン展開しているラグジュアリーホテルはあいかわらず、画一的な傾向が強い。
「世界的に海外旅行ブームが起こったのが40年ほど前。ほとんどの旅行好きの人が行きたい国を一巡し、旅行の目的が変わってきている。世界中のホテルがそれに合わせて多様化しているのに、日本はその流れから外れている唯一の国。海外の富裕層の友人たちが『東京は面白い街だが、泊まりたいような面白いホテルが一軒もない』と嘆くのをよく耳にし、自分が東京で一番面白いホテルを作ろうと考えた」(野尻社長)という。
野尻社長が考える日本のホテルの大きな問題点は、ADR(平均客室単価)の安さ。それによって「ホテルは儲からない」のが定説になっていて、業界全体が設備投資に消極的なのだという。「1998年にT&Gがウエデイング業界に参入する前も、業界は似たような硬直状態だった。しかしハウスウエディングのブームを起こしたことで、当時平均200万円前後だった結婚式費用が、今では380万円にまでアップした。その結果、賃金も平均1.5倍になり、優秀で意欲的な人材が多く集まり、業界全体が活性化している」(野尻社長)。ウエデイング業界は少子化によって成長に限界が見えてきている一方、ホテル業界にはT&G創立当時と同じ空気を感じているという。「世界中の富裕層の1%をターゲットにしても相当な需要がある」と自信をのぞかせた。
しかし疑問なのが、部屋数15に対し、広大なバンケットルームが4つもあること。これではまるで、“宿泊もできる結婚式場”のように思えるのだが……。その点を野尻社長に問うと、意外な答えが返ってきた。