日本人の約7%しか日本酒を飲んでいない!?

 「日本のアルコール飲料出荷量のうち、日本酒が占める割合はたった7%。しかも日本酒ブームといわれながら、出荷量は年々減少している。『日本酒の良さを世界に広めたい』という以前に、日本人自身に日本酒の良さを知ってもらえる店が必要だと考えた」(上野御徒町店店長の奥村敬三氏)。

 日本酒が敬遠されがちな理由のひとつが「価格」。一般に飲食店では、サワーやカクテルの約9割が利益、日本酒はそれより少ないとはいえ約7割が利益といわれている。「日本酒は原料が高価なうえに造るのに手間がかかるため、どうしても原価が高くなる。それにさらに利益をのせているから、気軽に手を伸ばしにくい価格になってしまう」(奥村店長)。そこで原価で販売すれば、価格に対する抵抗は減ると考えたそうだ。

 また最初の出合いが質の良くない安い日本酒であることも、「日本酒はおいしくない」というイメージを持つ人が多い理由だという。「チェーン展開している居酒屋などでは原価率を抑えるため、低価格の日本酒しか置いていないことが多い。特に飲み放題では、1升せいぜい2500~3000円程度の日本酒しか仕入れられないはず。原価を切り詰めたものはやはりその原価なりの味しか出ない。一方、各蔵には力を入れていて、くっきりとした個性や表情がある酒が必ずある」(奥村店長)。

 そこで同店では、純米吟醸以上に限定。3000~4000円以上のプレミア酒も25%を占めている。そのせいか「日本酒は苦手だと思っていたが、飲んでみたらおいしかった」と驚く客が多いという。

 日本酒を原価で提供しつつ利益を確保するため、抑えているのがFLコスト(食材費と人件費)。特に人件費は一般の飲食店より8%程度低い20%前後に抑えられている。その理由のひとつが、オリジナルの一合瓶の採用。居酒屋でスタッフが時間をとられるのが、一升瓶をテーブルに運び、各グラスに注ぐという定番のプロセス。グループ客がそれぞれに違う種類を頼むと一升瓶を4~5本、テーブルまで運ばなければならず、男性スタッフでも二往復は必要だ。そこでオリジナル一合瓶に移し替えて一度に多種類の酒を運べるようにし、各自手酌で飲んでもらうシステムにした。日本酒は封を開けるたび空気に触れ劣化していくため、このシステムは日本酒の鮮度をキープするのにも役立っているそうだ。

 こうした工夫を重ねているほか、店舗を賃料の安い地下にしていることから、1人880円の入館料+料理の利益で店を維持できるだけの利益を確保できているとのこと。同社では3~4年で全国に100店舗を展開したい考え。出店のスピードアップのため、フランチャイズ展開も視野に入れている。

 最近、さまざまな日本酒のイベントが増えているが、集まっているのはほとんどが日本酒マニア。初心者にはハードルが高い印象が強かった。そうしたイベントを増やすより、同店のように「初心者も気軽に日本酒を試せる店」「日本酒好きが憧れの酒を手ごろな価格で飲める店」が増えるほうが、愛好者の底辺拡大にはつながるのではと感じた。

原価で提供するタイプの店は立ち飲みのみで料理は持ち込みのところが多いが、同店は着席スタイルで料理も日本酒に合うものを50種類ほどそろえている(290円~)
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上野御徒町店の奥村敬三店長が選んだ日本酒初心者向けの3本。「純米大吟醸 風の森」(392円)は微発泡でフルーティな風味、「純米吟醸 亀泉」(335円)は甘口だがすっきりした酸味もあり、日本酒が苦手な人にも好評、ワイン酵母を使って醸した「純米吟醸 三井の寿」(351円)は白ワインに近い風味で、ワイン党にもおすすめ
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上野御徒町店の奥村敬三店長が「日本酒好きな人に飲んで欲しい」と選んだ3本。「純米吟醸 東洋美人」(313円)は、同店の品ぞろえの中で最も日本酒度が低い(ブドウ糖の量が少ない)“大辛口”。「純米大吟醸 来福」(2160円)は精米歩合8%で雑味がなく香りが高い酒。「純米吟醸 悦 凱陣」(626円)は“ポスト十四代”といわれる、知る人ぞ知る名酒
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仕入れ書以上に情報が詰まっているのが一合瓶のラベル。産地、精米歩合、アルコール度数、日本酒度などの情報が記されている。日本酒度はブドウ糖の量で測定。甘味が多いほどマイナス値が高くなる。おすすめの6本のうち、最もさっぱりしているのが日本酒度+15の「東洋美人」、最も甘口なのが-13の「亀泉」
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(文/桑原恵美子)