ソフトバンクはサブブランドの「ワイモバイル」で、中高生向けの割引サービス「タダ学割」を2017年12月1日より開始した。従来であれば入学シーズンである春先に展開していた学割サービスを、学生の進路も決まっていないこのタイミングで実施するのは異例のことだ。その理由は何だろうか。

「タダ学割」を12月1日から開始

 ワイモバイルは積極的な顧客獲得施策を展開して、競合となる「UQモバイル」やMVNO(仮想移動体通信事業者)を抑え、格安スマホ市場でトップシェアを維持している。その同社が11月30日、新商品や新サービスを発表した。現在、力を入れている「Android One」ブランドのスマートフォン4機種を新たに加えるなど、端末のラインアップを大幅に強化することが明らかにされた。だが、より注目されたのはサービス面の強化である。

 新たに始めたサービスはタダ学割と呼ばれる学生向けの割引サービスだ。同サービスは、5歳から18歳の新規契約者と他社からの乗り換えユーザーが対象で、契約の際に主力の「スマホプラン」に加入する必要がある。

ワイモバイルが12月1日に開始した「タダ学割」。18歳以下の新規契約者を対象に、基本料を一定期間0円にするなどの学生向け割引サービスだ。写真は11月30日のワイモバイル新商品・新サービス発表会より
ワイモバイルが12月1日に開始した「タダ学割」。18歳以下の新規契約者を対象に、基本料を一定期間0円にするなどの学生向け割引サービスだ。写真は11月30日のワイモバイル新商品・新サービス発表会より
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 タダ学割の特典は2つ。1つはデータ通信容量が通常の2倍になる「データ容量2倍オプション」の月額利用料(500円)が、次の機種変更時まで無料になるというもの。そしてもう1つは、12月中に契約すると「スマホプラン」の基本料金が最大4カ月間(来年1月以降の契約は最大3カ月間)無料になるというものだ。

 春商戦に向けて各社が学割に力を入れるのは恒例とも言えるが、その提供開始が12月1日からというのにはどうも違和感がある。学割のターゲットとなるのは中学校や高校に進学する新入生だが、12月の段階では進学先が決まっていない子供も多いからだ。にもかかわらず、12月から学割を提供するメリットはどこにあるのだろうか。

早期提供は親の安心感を高める狙いも

 ソフトバンク執行役員Y!mobile事業推進本部の寺尾洋幸本部長は、学割の提供開始時期を早めた理由について「スマートフォンのデビューが早くなっている」ことを挙げる。従来、高校生からスマートフォンを利用し始める子供が多いと言われてきた。ところが寺尾氏によると新中学生、つまり中学1年生の段階でスマホを利用し始める子供が増えており、今年の新中学生のスマホ利用者は4割近くに達しているとのことだ。

スマートフォンを使い始める年齢は年々低下しており、中学生のスマートフォン保有率は4割近くに達しているという。写真は11月30日のワイモバイル新商品・新サービス発表会より
スマートフォンを使い始める年齢は年々低下しており、中学生のスマートフォン保有率は4割近くに達しているという。写真は11月30日のワイモバイル新商品・新サービス発表会より
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 中高生にとってスマホは日常的なコミュニケーションに欠かせないアイテムとなっている。だが一方で、親の側からすると料金面の負担だけでなく、スマホを介したトラブルに対する懸念も大きい。

 子供と親との間には、スマホを持つことに対して大きな意識のギャップが存在する。そこで、学割を早期に提供して認知度を高めることで「スマホの利用について家族で話し合ってもらうきっかけ作りを狙う」と寺尾氏は言う。それが、他社に先駆けたブランドの刷り込みにもつながる。

 ワイモバイルでは併せてフィルタリングサービス「あんしんフィルター」をすべての新機種にプリインストールするなど、親側の懸念の解消に取り組むとのこと。一方、フィルタリングは子供にとっては不満要素でしかなく反発も考えられるため、子供がスマホとの接し方について積極的に学ぶ機会も提供していく。

 例えば、女子中学生に人気の雑誌「ニコラ」や同誌のウェブサイト上で「ニコラ学園 ワイモバ スマホ部!!」という企画を展開し、スマホを利用する上での心構えを学ぶ機会を提供。また、スマホの使い方に関して親と話すきっかけを作るべく、「スマホルールリスト」なども配布している。

女子中学生に人気の雑誌「ニコラ」と共同で「スマホルールリスト」などを提供し、子供が自らスマートフォン利用への意識を高める取り組みも進めている。写真は11月30日のワイモバイル新商品・新サービス発表会より
女子中学生に人気の雑誌「ニコラ」と共同で「スマホルールリスト」などを提供し、子供が自らスマートフォン利用への意識を高める取り組みも進めている。写真は11月30日のワイモバイル新商品・新サービス発表会より
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ワイモバイルが将来のソフトバンクの顧客を生み出す

 ワイモバイルがスマホのデビュー段階で、中高生を獲得することをそこまで重視するのはなぜか。それは市場が飽和状態にあり新規契約者が獲得しづらくなっている日本市場において、将来的にソフトバンクの契約者として期待できる18歳以下の学生を、他社に先駆けて囲い込みたいからではないだろうか。

 というのも中高生がスマホを利用する場合、本体を購入して、毎月の通信料金を支払うのは親であることがほとんだ。そのため、最初の段階では契約者が親になる。そんなとき、経済的負担が小さいワイモバイルは親にとっても魅力的な存在だ。しかし、いずれは親から独立して本人名義で契約することになる。だから、まずは利用料金の安いワイモバイルで親世代の心をつかむことで、ソフトバンクの将来の顧客となる中高生を獲得する施策に打って出たとみていいだろう。

 若い世代は機種へのこだわりが強い。最初は親から与えられた安価な機種とサービスで我慢していても、いずれはiPhoneなどの人気機種を持ちたいと考えるようになるはずだ。そうしたタイミングで、最新のiPhoneを購入できるソフトバンクへ移行してもらうことをワイモバイルは考えているのではないだろうか。実際ワイモバイルは、顧客がソフトバンクに乗り換える際に、契約解除料や移行手数料などを免除するといった移行を促すサービスを提供している。

ソフトバンクは、ワイモバイルからソフトバンクへの乗り換えユーザーを優遇する施策を展開している。写真は11月30日のワイモバイル新商品・新サービス発表会より
ソフトバンクは、ワイモバイルからソフトバンクへの乗り換えユーザーを優遇する施策を展開している。写真は11月30日のワイモバイル新商品・新サービス発表会より
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 ソフトバンクは、かつてのように端末価格の安さで他社から顧客を奪いづらくなったことから、ワイモバイルを将来の顧客を獲得する手段として活用する戦略に打って出たとみていいだろう。裏を返せば、いかに低価格市場でワイモバイルの優位性を保ち続けるかが、ソフトバンクの今後の成否を大きく左右するとも言えそうだ。

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