2018年も大きな変化が次々と起きている携帯電話業界。そんな中でNTTドコモは、顧客基盤を従来の「回線契約者」から「dポイントクラブ会員」へ移すなど、大幅な戦略転換を推し進めている。同社の吉澤和弘社長に、新戦略の狙いや今後の取り組みなどについて話を聞いた。

「dポイント」に注力して顧客を拡大

 通信とネットサービスをセットにした料金プランの登場や楽天の新規参入など、携帯電話業界は2018年も大きな変化が次々と起きている。そんな中で通信事業者最大手のNTTドコモは、4月の決算説明会で、顧客基盤を従来の「回線契約者」から、共通ポイントプログラム「dポイントクラブ会員」へ移すと発表した。

NTTドコモの吉澤和弘社長
NTTドコモの吉澤和弘社長
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 その理由について同社の吉澤和弘社長は「回線契約者はこれ以上大幅に増やすことができず、他社との奪い合いを続けるしかない。そうした状況で顧客を増やすには、“顧客”の捉え方を変えざるを得ない」と説明する。顧客基盤をdポイントクラブ会員に移せば、回線契約の有無にかかわらず、同社のサービスを使ってもらうことで収益の拡大が狙えるというわけだ。

 実際ドコモは、2018年5月に顧客管理システムの基盤を「回線契約者」から「dポイントクラブ会員」へと変更。購買データなどを収集し、それを顧客個人のニーズに合わせたマーケティングなどに活用することで、ビジネスの拡大を図る考えを示している。

NTTドコモは、顧客基盤を従来の回線契約者からdポイントクラブ会員へ移行する方針。写真は2018年4月27日のNTTドコモ決算説明会より
NTTドコモは、顧客基盤を従来の回線契約者からdポイントクラブ会員へ移行する方針。写真は2018年4月27日のNTTドコモ決算説明会より
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 共通ポイントプログラムとしては既に「Tポイント」「楽天スーパーポイント」「Ponta」など多くのライバルがひしめき合っており、市場競争も激しい。しかし吉澤氏は「共通ポイントプログラムは必ずしも対立するわけではなく、重複して利用される場合もある」とし、通信回線契約のような顧客の奪い合いにはならないと言う。

ネットサービスとのセットプランは5Gで実現

 吉澤氏はまた、回線契約と共通ポイントプログラムを組み合わせ、顧客に“お得感”を提供する施策も積極的に展開していく意向だ。両者を組み合わせた施策は以前からあるが、吉澤氏は子供の誕生月に3000ポイントを付与する「ドコモ 子育て応援プログラム」を例に挙げ、購買行動以外の部分でもポイントを付与する考え。

 回線契約と他のサービスを結び付けて全体的な魅力を高める取り組みとしては、KDDI(au)が2018年5月に発表した、動画配信サービス「Netflix」の利用料金をセットにした料金プラン「auフラットプラン25 Netflixパック」がある。

KDDIは米Netflixと業務提携し、「auフラットプラン25 Netflixパック」を提供する。写真は2018年5月29日の「au発表会2018 Summer」より
KDDIは米Netflixと業務提携し、「auフラットプラン25 Netflixパック」を提供する。写真は2018年5月29日の「au発表会2018 Summer」より
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 吉澤氏は、回線契約と他のサービスの融合に関して、「今後も出てくるだろうし、私自身、次世代通信規格の『5G(第5世代移動通信システム)』では当たり前になると考えている」と回答。より大容量のデータ通信が可能になる5Gの時代に、回線契約とネットサービスのセットプランに前向きに取り組む考えだ。

 一方で、特定のコンテンツを利用した際には通信量がカウントされない「ゼロレーティング」の導入については「厳しい」とのこと。米国などではこうした仕組みがなし崩し的に導入されつつあり、日本にもLINEモバイル(東京・新宿)の「データフリー」などがあるが、吉澤氏としてはネットワーク中立性など、さまざまな問題があるとの認識のようだ。

KDDI、ソフトバンクとの協業も

 近年NTTドコモが提供を開始したサービスには、業界の注目を浴びたものが目立つ。中でもKDDI、ソフトバンクと共同でサービス提供を開始した「+メッセージ」は、「電話番号だけでメッセージをやり取りできる上、信頼性も高い」と好評だという。

次世代のSMSとも言える「+メッセージ」は、大手通信事業者3社が協業したことでも話題となった。写真は2018年4月10日の「新たなコミュニケーションサービスについての記者説明会」より
次世代のSMSとも言える「+メッセージ」は、大手通信事業者3社が協業したことでも話題となった。写真は2018年4月10日の「新たなコミュニケーションサービスについての記者説明会」より
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 吉澤氏は今後、企業と顧客をつなぐ接点として「+メッセージ」を活用していきたいと語る。ただし、同様の取り組みは企業が顧客にリアルタイムで情報を配信できる「公式アカウント」でLINEが先行しているため、優位性を打ち出しにくいというのが正直なところだ。

 この点について吉澤氏は、大手通信事業者3社で取り組んだことで「通信事業者の壁に阻まれてできなかったことが可能になった」として、今後は「+メッセージ」の特徴や利便性を広め、利用率の向上に取り組んでいきたいと話している。

 もう1つ、注目を浴びたサービスが、AI(人工知能)を活用したエージェントサービス「my daiz」である。こちらも300万ダウンロードを突破するなど好調だが、吉澤氏は「AIによる解釈が足りておらず、意図するものとは異なる答えを出すケースがままある」と、「究極のAIエージェント」となるにはブラッシュアップが必要との認識を示した。

NTTドコモが提供するAIエージェント「my daiz」は、スマートスピーカーなどを提供せず、スマートフォンに特化。ユーザーの行動を先読みして情報を提供するなどの特徴を備えている。写真は2018年5月16日のNTTドコモ 2018夏 新サービス・新商品発表会より
NTTドコモが提供するAIエージェント「my daiz」は、スマートスピーカーなどを提供せず、スマートフォンに特化。ユーザーの行動を先読みして情報を提供するなどの特徴を備えている。写真は2018年5月16日のNTTドコモ 2018夏 新サービス・新商品発表会より
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 「my daiz」では今後、情報を提供するサービスの数を増やしていくとのことで、「いつも行っているスーパーのチラシを提示するなど、より顧客ひとりひとりに向けたマーケティングツールとして活用したい」と吉澤氏。加えて「my daiz」をドコモの回線契約変更手続きなどに活用していくという。

段階制の月額料金でサブブランドに対抗

 通信に関する施策としては、通信量に応じて月額料金が変化する「ベーシックパック」「ベーシックシェアパック」を2018年5月に新設したことに注目したい。その狙いについて吉澤氏は、「データ通信や通話をあまり利用していない人がおり、そうした人たちが(月額基本料の安い)他社のサブブランドやMVNO(仮想移動体通信事業者)に流れる動きが目立ってきたため」と語る。

NTTドコモは2018年5月より、段階制の「ベーシックシェアパック」「ベーシックパック」を提供開始。基本料金を抑えたい層の流出を防ぐ狙いがある。写真は2018年4月27日のNTTドコモ決算説明会より
NTTドコモは2018年5月より、段階制の「ベーシックシェアパック」「ベーシックパック」を提供開始。基本料金を抑えたい層の流出を防ぐ狙いがある。写真は2018年4月27日のNTTドコモ決算説明会より
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 MVNOへの顧客の流出について吉澤氏は「一定数は流れているが、ここ半年は少ないところで安定している」としつつも、サブブランドによる攻勢については「あれだけの積極的なプロモーションには対抗し切れない部分がある」と話す。特に大きな影響を受けているのはMVNOよりもサブブランドのようだ。

 先述の2つの料金パックは基本料金を抑えたい顧客の流出を防ぐのが狙い。吉澤氏によると実際に移行したユーザーは「計画よりは少ない」とのことなので、顧客の流出防止にはつながっているようだ。

新規参入の楽天とはエコシステムの戦いに

 今年注目された出来事として、楽天が通信事業者として、携帯電話市場への参入を発表したことも記憶に新しい。吉澤氏は楽天の参入について、「強固な顧客基盤を持ち、電子商取引やポイントプログラムなど多くのサービスを持っている。その中に自分たちがコントロールできるモバイルネットワークをピースとして入れ込めば、サービスとネットワークを融合したエコシステム(ビジネス生態系)を構築できるということではないか」と分析している。

 回線契約者を顧客基盤としてきたNTTドコモは、そこから各種サービスを展開するという楽天とは逆のアプローチを採ってきたわけだが、最終的にはエコシステムでの競争になると吉澤氏はみているようだ。ドコモは顧客基盤をdポイントクラブ会員へと移し、エコシステムの拡大にかじを切っただけに、「(楽天は)脅威であり、われわれも顧客基盤やサービスを強化していかないといけない」としている。

 ただし、これからネットワークを整備していく楽天よりも、既存のネットワークを持つ大手通信事業者のほうが優位にあるのは事実。吉澤氏はネットワークは品質が重要と認識しており、「災害への対処も顧客に対するポイントになる。信頼性の確保が重要だ」と話している。

 もう1つ気になるのが、楽天がドコモの回線を借り受けて事業を展開しているMVNO「楽天モバイル」との関係だ。楽天は、3年後もMVNOとしてのサービスを提供することを明言している。この点について吉澤氏は「自前でネットワークを運営する一方で、足りない部分をMVNOでカバーするのはおかしい。そこはMVNOとしての楽天とどう協議するかになる」と懸念を示していた。

2019年より携帯電話事業への参入を表明した楽天だが、最低利用期間が最大で3年の「スーパーホーダイ」を提供していることもあり、3年後もMVNOとしてのサービスを継続するとしている。写真は2018年6月14日の「楽天モバイル」夏商戦記者発表会より
2019年より携帯電話事業への参入を表明した楽天だが、最低利用期間が最大で3年の「スーパーホーダイ」を提供していることもあり、3年後もMVNOとしてのサービスを継続するとしている。写真は2018年6月14日の「楽天モバイル」夏商戦記者発表会より
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 最後にもう1つ、2020年に商用サービスの開始が予定されている5Gに関しても動きが相次いでいる。今年6月には5Gの通信方式「5G NR(New Radio)」の標準化が完了しており、ドコモも5G時代に向けたさまざまな取り組みを推し進めている。

 5Gに関して吉澤氏は、商用サービス開始に先駆けて「2019年に試験的な形で5Gを用いた何らかのサービス提供をやってみたい」と話した。場としては「ラグビーのW杯を検討している」とのことなので、来年日本で開催されるラグビーW杯では、5Gならではの新しい取り組みを目にすることができるかもしれない。