ソフトバンクグループ傘下の米スプリントと、独Tモバイルの米国法人が、2019年をめどに合併することに合意した。これまで2度にわたって交渉が進められながらも、さまざまな要因から不調に終わった両社の合併だが、今回の突然の合意にはソフトバンクグループの戦略転換が影響していると考えられる。果たして今回は三度目の正直となるのだろうか。

破談した相手との合併の真意は

 ゴールデンウイーク真っただ中の4月30日、再び米国発のビッグニュースが飛び込んできた。今度は米国で大手キャリア(通信事業者)の一角を占めるスプリントと、Tモバイルの米国法人(TモバイルUS)が合併するというのだ。

 スプリントは2013年にソフトバンクグループに買収されており、現在は同グループの子会社となっている。一方のTモバイルUSはドイツの大手キャリア、ドイツテレコムの子会社であるTモバイルの米国法人。米国市場のシェアでは現在、TモバイルUSが3位、スプリントが4位というポジションにある。両社は1位のベライゾン、2位のAT&Tに契約数で大きく水をあけられており、競争力強化を図るべく何度か合併交渉を行った経緯がある。

 最初の合併交渉は2013年。スプリントを買収した旧ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)がドイツテレコムと合併交渉を進めていたのだが、米規制当局が両社の合併に否定的であったため、実現は難しいとして撤回された。

2012年10月15日の旧ソフトバンク記者会見より。スプリント買収を発表した当初から、孫正義氏はTモバイルUSの買収を推し進めていたものの、米規制当局が難色を示したため実現には至らなかった
2012年10月15日の旧ソフトバンク記者会見より。スプリント買収を発表した当初から、孫正義氏はTモバイルUSの買収を推し進めていたものの、米規制当局が難色を示したため実現には至らなかった
[画像のクリックで拡大表示]

 2度目の合併交渉は2017年、米国の政権が交代したのが契機だった。だが、このときは既に市場シェアでTモバイルUSがスプリントを抜いていたため、ドイツテレコム側が合併後の経営権を主張。これにソフトバンクグループ側の経営陣が応じなかったことで破談となっている。

TモバイルUSとの2度目の合併交渉は米国の政権交代後。しかしドイツテレコム側も合併後の経営権取得を主張したため、破談に終わった。写真は2017年11月6日のソフトバンクグループ決算会見より
TモバイルUSとの2度目の合併交渉は米国の政権交代後。しかしドイツテレコム側も合併後の経営権取得を主張したため、破談に終わった。写真は2017年11月6日のソフトバンクグループ決算会見より
[画像のクリックで拡大表示]

 そして今回は3度目の交渉となったわけだが、両社の発表内容を見るに、合併後の持ち株比率はドイツテレコムが41.7%、ソフトバンクグループが27.4%と、ドイツテレコム側が経営権を握る形となったようだ。このことから、ソフトバンクグループが経営権の掌握を諦め、両社の合併を優先したことが分かる。

携帯電話事業に見切りをつけた

 しかしなぜ、ソフトバンクグループは経営権を手放してまで合併に応じるという結論を下したのだろうか。そこには同グループ、ひいてはグループ代表である孫正義氏の経営戦略が大きく影響しているのではないかと、筆者はみる。

 現在、ソフトバンクグループが携帯電話事業に代わる成長を見込んでいるのが投資事業だ。昨年、ITテクノロジー系の企業に大規模な投資をする「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」を設立して以降、同社は経営の軸足を投資事業へと移している。SVFは半導体大手のエヌビディア、配車サービス大手の米ウーバーの大株主となったことでも注目を集めた。また、同グループは緩い企業の連合体をつくることで成長を持続するという経営方針を打ち出しており、ITテクノロジー系の有望な企業に20~30%程度を出資している。

 グループの戦略転換を象徴しているのが決算説明会だ。ここ数年、決算会見における孫氏の発言を振り返ると、グループの主力事業であるソフトバンクの国内通信事業に言及する機会が明らかに減少しており、携帯電話事業への関心が薄れていることが見て取れる。

 理由は、携帯電話事業では大きな成長が見込めなくなったからであろう。国内の携帯電話の契約数は既に飽和状態であり、低価格競争も加速したことで収益性が悪化しているのだ。

スプリントの業績は回復傾向にあるものの、市場競争は激しく、次世代通信に向けて巨額の投資が必要になる。写真は2月7日のソフトバンク決算会見より
スプリントの業績は回復傾向にあるものの、市場競争は激しく、次世代通信に向けて巨額の投資が必要になる。写真は2月7日のソフトバンク決算会見より
[画像のクリックで拡大表示]

合併の鍵を握る米政府

 状況は異なるが、成長性という意味ではスプリントに関しても同様だ。インフラ改善に向けた投資の拡大や、徹底したコスト削減によって、スプリントの業績自体は回復基調にあるものの、市場競争の激化によって契約数は思うように伸びておらず、本格的な業績回復からは程遠い状況にある。

 しかも今後は次世代通信「5G」への投資が必要になるため、負担は増える一方だ。そうした状況下でコストをかけてスプリントを強化してもうまみはない。経営権を手放してでもスプリントの運営にかかるコストを減らし、他の成長分野に投資すべきという判断が働いたのではないか。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの設立以降、ソフトバンクグループは投資事業を強化しており、ウーバーなどに出資している。写真は2月7日のソフトバンク決算会見より
ソフトバンク・ビジョン・ファンドの設立以降、ソフトバンクグループは投資事業を強化しており、ウーバーなどに出資している。写真は2月7日のソフトバンク決算会見より
[画像のクリックで拡大表示]

 なお、スプリントとTモバイルUSの契約数の合計は約1億2200万件で、ようやくベライゾンやAT&Tと互角に競争できる規模となる。しかし、それで米国市場は3強体制に突入するかとなると、事はそう簡単には運ばない。と言うのも、両社が合併するためには、米規制当局の認可を得る必要があるからだ。最初の交渉のときのように認可が得られなかった場合、そもそも合併自体が成立せず、ソフトバンクグループは引き続きスプリントの経営再建を推し進める必要に迫られる。

 実際、AT&Tも2011年にTモバイルUSを買収しようとしたが、米規制当局の反対に遭って断念した。米政権が変わったことから、最初の合併交渉時よりは認可が下りやすいのではないかとみる向きもあるが、それも保証があるわけではない。ソフトバンクグループの今後は、米政府の判断次第と言えそうだ。

この記事をいいね!する