通信料金の引き下げなど、大手通信事業者(キャリア)の顧客流出防止策によって、一転して苦境に陥っている仮想移動体通信事業者(MVNO)。そこで今年注目されるのが、これまでMVNOの新規参入を募って携帯電話市場の競争促進を進めてきた総務省の動向だ。同省は2017年12月25日に新たな有識者会議「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を発足させたが、MVNOの再興に有効な施策は残されているのだろうか。

MVNOの苦境を受けて総務省が動いた

 昨年は、MVNOがキャリアから顧客を奪って急成長するという近年の流れが大きく変化した1年だった。大手キャリアが通信料金を引き下げたり、ワイモバイル、UQ mobileといったサブブランドを強化したりしたことで、MVNOへの顧客流出が大幅に減少した。その結果、勢いのあるMVNOとして知られていたプラスワン・マーケティング(東京都港区)が経営破綻するなど、モバイル市場に逆風が吹き荒れることとなった。

 そうした状況を快く思っていないのが総務省だ。同省はかねて市場を寡占しているキャリアに厳しい措置をとる一方、MVNOが新規参入しやすい環境を築き、市場競争を促進してきたからだ。キャリアの反転攻勢によってMVNOの拡大に急ブレーキがかかったことを受けてか、総務省は新たな有識者会議「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を発足させた。この検討会は、大手キャリアとMVNO、あるいはMVNO同士の同等性を確保するのが目的とのことだ。

 筆者も第1回の会合を傍聴していたのだが、そこで挙がった論点で大きな議論を呼びそうな要素は3つあると思った。1つ目は、一定期間の契約を前提に通信料を値引きする「2年縛り」の自動更新が他社への乗り換えを難しくしていること。2つ目は、中古端末が国内であまり流通していないこと。そして3つ目は、MVNOがキャリアからネットワークを借り受ける際の条件や支払う接続料に不透明感があることである。

MVNOの苦境を受けてか、総務省は昨年12月25日に新しい有識者会議「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を発足させた。写真は同検討会より
MVNOの苦境を受けてか、総務省は昨年12月25日に新しい有識者会議「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を発足させた。写真は同検討会より
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「2年縛り」「中古」「サブブランド」を問題視

 1つ目の2年縛りに関しては、これまでもその是非についてさまざまな議論があり、結果として現在は2年縛りの解除前にメールで通知するようになったり、手数料なしで契約を解除できる期間が1カ月から2カ月に延びたりした。また各キャリアとも、契約から2年が経過した後は「縛り」がない料金プランに変更できる仕組みを用意している。

 にもかかわらず検討会で指摘されたのは、意思表示をしない限り自動で契約が更新され続けることが、ユーザーの乗り換えを難しくしているととらえられたからだ。この点に関しては、「デフォルトで2年間拘束するのは、通常の消費者契約法ではアウトになる。(携帯電話事業に適用される)電気通信事業法で外れている意味があるのか」(明治大学法学部の新美育文教授)という厳しい声がある一方、「これまで多様な施策を導入してきた。まずはそれらの取り組みの効果をしっかり検証した上で検討すべき」(野村総合研究所プリンシパルの北俊一氏)といった意見も出ていた。

 2つ目の中古端末に関しては、キャリアが下取りした端末が国内で流通せず、海外に転売されていることが問題視されている。国内の中古市場で端末の流通量が増えないと、ユーザーは新品の端末を購入せざるを得ず、そのことが選択肢を奪っているとの指摘である。

 そして、先般の検討会で最も問題視されていると筆者が感じたのが、3つ目の接続料や契約に関する問題――つまりキャリアがMVNOに対して適正な条件でネットワークを貸し出していないのではないかという点である。特にキャリアのサブブランドが、MVNOではコスト的に不可能な料金を設定し、MVNOが提供できないテザリングなどのサービスを提供していることに対しては、公正な競争ができないとしてMVNOからの不満が多く出ているという。

 この点に関しては、検討会の参加者の多くが問題意識を持っているようだ。中には「MVNO各社とキャリアを比較すると、どの指標をとっても大きな差がある。MVNO振興に沿って考えると、(キャリアに)何らかのハンデキャップを課すことが必要ではないか」(神奈川大学経営学部の関口博正教授)など、キャリアへの規制に言及する意見も出ていた。

先の検討会における事務局説明資料より。キャリアとMVNOとの同等性を確保する上で、キャリアとの接続条件、2年縛り、そして中古端末の3点が大きな問題として挙げられている
先の検討会における事務局説明資料より。キャリアとMVNOとの同等性を確保する上で、キャリアとの接続条件、2年縛り、そして中古端末の3点が大きな問題として挙げられている
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MVNOを苦境に陥れたのは総務省?

 ただ、こうした議論にはある種の行き詰まり感があるというのが、筆者の率直な印象である。なぜなら、MVNOの現状には、これまでの総務省の施策が大きく影響しているからだ。

 ことの始まりは、大手3キャリアによる市場寡占と、そのことに端を発し、番号ポータビリティー(MNP)による乗り換え顧客を奪い合う、キャリア同士の過度な端末代の値引き――これらを総務省が問題視したことである。実際、総務省は2015年の有識者会議「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果を受け、2016年4月に「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を打ち出して、端末の実質0円販売を禁じた。他にもSIMロック解除の義務化や長期利用者の優遇など、キャリアに対していくつもの指導や要請を実施している。

 その結果、端末の過度な値引き販売や、MNPによる乗り換えユーザーを過剰に優遇する施策は大幅に減少。KDDI(au)の「au STAR」など、長期利用者優遇プログラムが増え、最近ではNTTドコモの「docomo with」のように、端末の価格を値引きしない代わりに通信料を安くする仕組みが登場している。MVNOとの競争に備え、キャリアがサブブランドや傘下のMVNOに力を入れたことにより、安価な料金プランの選択肢も大幅に増えた。

「docomo with」「auピタットプラン」など、端末代を値引きしない代わりに通信料を安くするプランは、総務省の指導があったからこそ生まれたものとも言える。写真は2017年5月24日のNTTドコモ新サービス・新商品発表会より
「docomo with」「auピタットプラン」など、端末代を値引きしない代わりに通信料を安くするプランは、総務省の指導があったからこそ生まれたものとも言える。写真は2017年5月24日のNTTドコモ新サービス・新商品発表会より
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 2年縛りの問題は別としても、検討会で指摘された問題点の多くは、総務省の指導に従ってキャリアが一連の取り組みを実施した結果といえる。それがキャリアからMVNOへ流出する顧客の減少、つまりMVNOの苦境につながったのである。

 ここまでの経緯と検討会で議論を見た限り、総務省に残された施策は多くないように思える。検討会は3月まで実施されるとのことだが、MVNO再興のための有効な施策を打てるのかどうか。現状では疑問符が付くというのが正直なところだ。