カップヌードルブランド初の若い女性向け商品「カップヌードルライトプラス」を開発してヒットさせた日清食品 マーケティング部長のズナイデン房子氏が、独自のノウハウを披露する。

日清食品 取締役 マーケティング部長 兼 日清食品ホールディングス ブランド戦略室 室長 ズナイデン房子氏
日清食品 取締役 マーケティング部長 兼 日清食品ホールディングス ブランド戦略室 室長 ズナイデン房子氏
1987年に資生堂入社。その後国際結婚のため退社。帰国後、日本ロレアル(ランコム ジャパン ジェネラルマネージャー)、資生堂(ブランド企画部長、マーケティング部長)などを経て2014年6月から現職
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――女性をターゲットにした「カップヌードルライトプラス」を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

ズナイデン房子氏(以下、ズナイデン):カップ麺は男性主流の市場です。私は化粧品業界から日清食品に転職してまだ1年半たっていないので新入社員なんですが、入社してからお店を見に行ったり、社内でいろいろ話を聞いたり勉強していくうちに、女子のみなさんがカップ麺を食べていない状況というのは、飽和状態の日本市場で売り上げを伸ばすには、ものすごいチャンスだなと思ったんです。

 女性はカップ麺売り場に行かないと聞いていましたが、実際にコンビニを見に行くと、ちょっと違っていました。女性もカップ麺売り場に行くけれど、商品を手に取ってカロリーだとかの表示を見てから、棚に戻してしまうんです。彼女達が棚に戻さない商品を作って提供できれば、そのままレジに持っていってもらえるはずです。

――女性はカップ麺が嫌いなわけではなく、食べたいカップ麺がないから買わない、ということでしょうか。

ズナイデン:読んでいた本に、こんなことが書いてありました。ある靴屋さんがアフリカに行ったら、アフリカでは誰も靴を履いていなかった。靴を履いていないから、靴を売る市場じゃないと見るのか、まだ誰も履いていないからすごい市場になると見るのか、その違いが大きいと。カップヌードルはおいしいですし、女性を取り込めば新たな市場が創造できます。これまでずっと女性用の商品を扱ってきたので、自分が今までやってきたことも役に立つかなという気もしました。

女子がカップ麺を食べる社会現象を起こしたい

――「ラタトゥイユ」と「バーニャカウダ」は、どちらも女性が好きな料理。それをカップ麺にしたところがすごいですね。

ズナイデン:「ラタトゥイユ」と「バーニャカウダ」は女子会の人気メニューです。女性に食べてもらう新しいカップ麺を作るには、女性のインサイトを理解していたほうがいい。チームづくりにプライオリティを置きました。当時、社内のブランドマネージャーは全員男性だったので、女性のブランドマネージャーを新たに採用しました。かといって、女性だけのチームは考えが偏ってしまうので、男性にも入ってもらってバランスを取りました。

 マーケットリサーチや分析など、いわゆるロジックの部分を左脳で考えて、仮説を立てながらコンセプトやパッケージを決めていきますが、最終的に大事なのはやはり感性なんです。見え方だったり、呼びかけるメッセージの音の響きだったり、私たちはシズルと呼んでいますが、パッケージに載せる商品の写真から出てくる雰囲気であったり、パッケージデザインの色合いなど、いろいろなものを組み合わせてどう仕上げるか。女の子たちに「わぁ、かわいい」と思ってもらうことが重要です。

――さじ加減が難しそうです。苦労された点はありますか。

ズナイデン:お見合いと同じで、ぱっと見たときにどれだけ相手の心をつかめるか。女性向けという新しい市場に出すので、ある程度の“登場感”も必要です。「これだ」というものを探し当てるために、担当のブランドマネージャーは千本ノック状態だったと言っていますが、ものすごい量のオプションを作りました。メーキャップ商品のキービジュアルを作るときと似ています。

 同じタレントさんに同じようなメイクをしても、どういう表情で写真を撮ってどんなコピーを置くかで印象が全然違ってくるんです。見た人が「ふーん」で終わるか、「わぁ、かわいい」となるか、ちょっとした機微で分かれます。考えて考えて、突き詰めていって、最終的に感覚のベルが“ピン!”と鳴るものを選ぶ。大変なことですが、絶対に成功させたいというパッションがあり、労を惜しまず、そういったプロセスを経て誕生したものは、商品としてのオーラが違います。

――俳優の斎藤工さんを起用したCMが話題になりました。

ズナイデン:斎藤工さんにかぶっていただいた野菜のかぶりもの「ベジヘッド」が、強烈なビジュアルとして印象に残ったようです。CMのほか「みつめてLight+(ライトプラス)」というウェブサイトを立ち上げました。湯を注いで3分待つ間、斎藤工さんが話しかけてくれるんです。ベジヘッドをかぶった斎藤工さんと写真が撮れる仕掛けも用意しました。こうしたものがSNSで自動的に拡散していく。商品だけでなくコミュニケーションのアンバサダーとして斎藤工さんに出ていただけたのがよかったと思います。

――新ブランドではなく、カップヌードルブランドにした理由を教えてください。強いブランドを冠したまま新しさを出すのは難しいのではないでしょうか。

ズナイデン:女子がカップ麺を食べるという社会現象を起こしていきたいので、トップブランドであるカップヌードルでやるべきだと思いました。カップヌードルは王者としての風格がありますから。カップヌードルにとっても、スポットやサブブランドでいろいろな味を提案していくことは、ブランドのエネルギーを保つために必要だと考えます。

カップ麺を食べない女性に「カップヌードル」が売れた理由は? 日清食品 ズナイデン房子氏(画像)
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 カップヌードルという枠組みのなかで新しいお客さんにアプローチできるサブブランドとしてのパーソナリティをどう出していくのか、そこはかなり考えました。ロングセラーブランドとしての強みを生かしながら、ターゲットマーケティングするときは、思い切ってエッジを効かせたほうがいい。ターゲットを広く取ろうとせず、女性なら女性、若年なら若年にターゲットを絞って、そこに刺さるものをやっていくんだと、まず“腹決め”することですね。その人たちの深層心理を読んで、鋭角的にやるのがひとつのポイントです。

――深層心理を読む方法はあるのでしょうか。

ズナイデン:「今の女性はこうだ」「若い人たちはこうだ」という社会の定説に惑わされてはいけません。表面だけ見てマーケティングすると、見誤ることになります。私は女性をずっと見てきました。食べ物以外のカテゴリーにも目を向け、たくさん観察し、彼女たちが発信することに触れていると、だんだん分かってくるんです。絶対音感みたいな感じで。そうすると当たります。常に消費者に対してどれだけ興味をもっているか。そこを怠けていると音感がにぶくなり当たらなくなります。

――潜在的な深層心理を探り当てるのは、マーケッターとしての腕の見せどころ。最終的には肌感覚だったりするんですが、詳しくは会場でお話しいただければと思います。

(聞き手・構成/辛智恵、写真/稲垣純也)

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