常設のライブホログラフィック専用のエンターテインメントシアターとして9月より公演を開始した「DMM VR THEATER」。1998年にこの世を去ったX JAPANのhideさんのライブを立体感のある映像で実現して話題となっている。CGとホログラフィック技術を駆使したDMM VR THEATERの取り組みは、映像表現、そしてVR(仮想現実)にどのような影響をもたらすのだろうか。

ネットの文化をマスに広げる過程で劇場が生まれた

 映像を特殊なスクリーンに映し出すことにより、視覚のトリックを利用して奥行きや立体感のある映像表現を実現するライブホログラフィック。この技術を使った常設エンターテインメントシアター「DMM VR THEATER」が、10月に横浜にオープンした。「Eyeliner」という技術を使って立体的な映像を体感できるようにしたのが特徴。生身の人間が登場しないCG映像の公演だが、それをホログラフィックで再現することで、あたかもそこに存在しているかのような雰囲気で楽しめるのだ。

 実際、同シアターの公演第1弾として実施されているのは、X JAPANのhideさんがCGで登場するライブ「hide crystal project presents RADIOSITY」。最新の技術で、見た目や動きをリアルに表現している。

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 DMM VR THEATERを立ち上げたのは、DMM.futureworks代表取締役の黒田貴泰氏だ。黒田氏はバーチャルアイドル「初音ミク」のライブなども実現してきた。なぜ常設のVRシアターを立ち上げたのか、こうした常設劇場の登場は映像エンターテインメントの世界にどのような影響をもたらすのかを聞いた。

DMM.futureworks 代表取締役 黒田貴泰氏
DMM.futureworks 代表取締役 黒田貴泰氏
1982年生まれ。クリエイター、証券会社員、プロデューサー、アントレプレナーと、それぞれ異なる職種を渡り歩きながらいずれの業種においても業界ベンチマークとなるアワードを獲得する実績を残しており、経歴としては異色ながら、現在はDMM.comグループ内にて、幅広い事業分野にわたるプロダクトプロデュースを担うDMM .futureworks(旧称 ワイドワイヤワークス)の代表取締役を務めている
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hideを髪の毛1本に至るまでフルCGで再現

――DMM VR THEATERを設立した経緯について教えてください。

黒田氏: これまでは「初音ミク」などのライブイベントを手掛けてきました。なぜそのようなことをしてきたのかというと、ネットカルチャーから出てきたクリエイターを、よりメジャーなフィールドに押し出すことに取り組んでいたからなんです。5年ほど前までは、自分たちで何かを作るというより、ネット発のアーティストを主体としたビジネスを展開していました。

 ですがネット上の盛り上がりだけでは、どうしてもマス化しません。そのことに気付いたのが3、4年前でした。では、ネットの中で盛り上がっているものをどのようにすればマスに伝わるか――思いついたのは商材を変えることでした。例えば初音ミクを「ふなっしー」や「hide」に変えると、従来VRやホログラフィックに関心を持っていなかった人が、そうした表現に触れる機会は増えるはずです。そうなれば、ネットの表現をマスに持っていきやすくなるのではと感じたのです。

 しかもホログラフィックは、投影する映像さえあれば本質的に365日いつでも公演できます。ならば常設の劇場があったらどうか、という企画を立て、3年前からさまざまな企業と話し合いを進めて完成しました。

――常設の劇場となるとビジネス面でのリスクも大きいように思います。

黒田氏: 実はDMM VR THEATERは、コンテンツではなくインフラを作るための取り組みなのです。同様の施設が多くの場所に設置されれば、データを劇場に渡すだけで簡単に公演を実現できます。劇場という流通ネットワークを用意し、映像コンテンツをその上で流通させることで、ビジネスとして大きく成長させられる可能性があると考えています。

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――公演の第1弾をhideさんのライブにしたのはなぜでしょう?

黒田氏: ソフト面の話をすると、難しいものを最初にやってしまいたいなというのがありました。何が最も難しいのかというと、人間をCGで再現することなんですね。映像の作り方には2つの方法があります。存在する実写にCGを合成する方法が1つ。もうひとつは、モーションキャプチャーした人物の動きに合わせて、顔をマッチングさせる「フェイシャルマッチング」などの技術を用いる方法です。特に後者に関しては、過去の実写映像からデータを作成するなどして動きに違和感を与えないようにするのに苦労しました。ですが実際に公演の様子を見ていると、お客さんは顔を見ていることが多いようです。

――音響面ではどのような取り組みをしているのでしょう?

黒田氏: レコーディングでは臨場感が出ないので、ボーカル以外のライブ音源を全て録音し直すことで、臨場感を出しています。バンドのメンバーも別撮りではなく、一緒に演奏する形をとっていますね。これまで取り組んできた立体音響を駆使し、ライブ音源をサラウンドで再現しているというのも、大きなポイントとなっています。

 また「子 ギャル」という楽曲は、昨年12月にリリースされた新曲で、ボーカロイドで作り上げたものです。hideさんがライブで演奏することはありませんでしたが、今回の公演ではこれもライブ映像として表現しています。亡くなったアーティストの未公開音源のリリースは珍しくありませんが、ライブを再現するというのはこれまでにない、面白い取り組みといえるのではないでしょうか。

空間を共有できるライブならではの強みを生かす

――今後、DMM VR THEATERではどのようなコンテンツを提供しようとしているのでしょうか。

黒田氏: hideさんのライブは、年内いっぱいアップグレードしながら取り組んでいく予定です。年明けからの展開は、定常的なものがいいのか、期間を区切って公演するのか、議論を進めている最中です。

 私としては、このシアターには舞台っぽいものが向いているのかなと思っています。例えば最近“2.5次元ミュージカル”と呼ばれるアニメ系の舞台が人気です。現在は漫画のキャラクターを人間に置き換える形で公演していますが、このシアターならアニメキャラクターをそのまま出すこともできます。ファンが求めるものにより近いものが再現できるのではないでしょうか。

――さまざまな作品を上映するには、コンテンツの制作期間も大きな課題となるように感じます。

黒田氏: hideさんのライブの制作には1年半くらいかかっていますから、どうやって短縮できるかが大きなミッションですね。ですが実写を使ったホログラフィックの投影なら、1週間程度で作成できる仕組みも構築しました。今後実写系のコンテンツは量産しやすくなると思います。

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 制作期間が短いと予算も少なくて済みますから、ビジネスとしての可能性は広がります。例えばCDを作るのと同じ予算でホログラフィックを作成し、ライブとミュージックビデオの中間的なコンテンツとして劇場で公演することも考えられます。集客できれば音楽業界に対しパッケージに代わるビジネス提案もできるようになるでしょう。

――最近ではヘッドマウントディスプレイを用いたVRが人気ですが、シアター型ならではのVRの特性は、どのようなところにあると感じていますか?

黒田氏: ヘッドセットを用いた密閉型のVRと異なる強みは、空間を共有できることではないでしょうか。ライブイベントと結びついたVRコンテンツは、技術をベースとした発想からは出てきにくいと思うので、そこに注力していきたいですね。ゲームのエンジンを用いれば、ホログラフィック上のゲームキャラクターを操作することも可能なので、ゲームの対戦イベントなども展開できればと考えています。

――DMM VR THEATERを展開したその先に目指すものとは何でしょう?

黒田氏: ゲーム、アニメ、音楽、映像に並ぶ形で、文化として劇場で何らかの形でアウトプットされていくものを根付かせたいですね。仕組み自体は無声映画から数えて100年くらいなものですから、DMM VR THEATERで培った取り組みやコンテンツが、新しい文化として1000年普及していく可能性も十分あるのではないかと思っています。

 ※DMM VR THEATE「hide crystal project presents RADIOSITY」公演情報(追加公演も検討中とのこと)
http://www.dmm.com/hide_radiosity/index.html

(文/佐野正弘、写真/武田光司)

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