このところ、「大麦」への注目が高まっている。白米と大麦を混ぜて炊く「麦ごはん」も静かなブームを呼んでいるようだ。人気の理由は大麦に大量に含まれる食物繊維。大麦には、なんと白米の19倍もの食物繊維が含まれる。穀物の中でも、水に溶けて腸内細菌のエサになる水溶性食物繊維が多いのが特徴で、これが現代人にありがたい機能性をいくつも持っているという。いったい、大麦の食物繊維にはどんなパワーがあるのか? 大麦研究の第一人者として「TRENDY EXPO」に登壇いただく大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授に話を聞いた。

青江誠一郎(あおえ・せいいちろう)氏
青江誠一郎(あおえ・せいいちろう)氏
大妻女子大学家政学部食物学科教授。1989年、千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授に就任。07年から現職。日本食物繊維学会常務理事。10年、大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する研究で同学会賞を受賞
[画像のクリックで拡大表示]

 最近の健康に関する2大キーワードといえるのが「血糖値」と「腸内細菌」だ。

 血糖値は砂糖や精製された穀物をたくさんとることで急上昇する。そのような食事を続けると、肥満やすでに患者数が950万人におよんでいる糖尿病になるリスクが高まる。これを防ぐ食事法として、糖質自体の摂取量を減らす「糖質制限食」や、食物繊維を多く含む野菜を食事の最初にとることで糖質の吸収をゆっくりにする「ベジタブル・ファースト」がブームになっていることをご存じの人も多いだろう。

 私たちの体を構成する細胞は約37兆個だが、腸の中にいる腸内細菌はなんと100兆個以上。この腸内細菌が、やはり肥満や生活習慣病に大きくかかわっていることが明らかになり、このところ注目が高まっている。私たちの体にいい影響を及ぼす腸内細菌を元気にするには、そのエサとなる食物繊維の摂取が重要になってくる。

 このように「血糖値」と「腸内細菌」という旬な健康キーワードに共通してかかわっているのが食物繊維。中でも、野菜や玄米よりも食物繊維が多いことで知られる食材として「大麦」に関心が集まっているのだ。白米に大麦を混ぜて炊く「麦ごはん」の人気も高まっているという。

 実際、大麦そのものの売れ行きが好調なだけにとどまらず、タイガー魔法瓶が麦ご飯をおいしく炊ける機能がついた炊飯器を発売するなど、関連市場も盛り上がりを見せている。

 一方で、日本人の食物繊維の摂取量はずっと減少傾向にあった。「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、1日にとるべき食物繊維は成人男性が20グラム、成人女性が18グラムだが、「平成25年国民健康・栄養調査」によると平均14.2グラムしかとれていない。まずは青江教授にこのあたりからお話をうかがった。

食物繊維不足の原因は、穀物繊維の摂取減
食物繊維不足の原因は、穀物繊維の摂取減
日本人の成人が1日に摂取する食物繊維量は、1955年には20gを超えていたが、今では14g程度に減少。特に穀物からの摂取が減っている。(データ:日本食物繊維研究会誌;1, 3-12,1997改変、国民栄養調査、国民健康・栄養調査、日経ウーマン・オンラインより転載)
[画像のクリックで拡大表示]

大麦の水溶性食物繊維が食後の血糖値上昇を抑える

――日本人の食物繊維の摂取量が減っています。

青江誠一郎氏(以下、青江): 特に米や小麦など、穀物からとる食物繊維が減っています。60年前の1955年、日本人は1日20グラム以上の食物繊維をとっていました。そのうち10グラムを穀物からとっていましたが、今では3グラム以下になっています。

 白米は食物繊維が少ないのに、それでも主食として量を食べるので、日本人にとって最大の食物繊維の供給源になっている状況です。もっと穀物から食物繊維をとろうとしたとき、第一選択肢は大麦しかないでしょう。白米は100グラム中に食物繊維0.5グラムしか含まないのに対し、大麦100グラム中には9.6グラムも含まれています。

身近な食材の食物繊維量(100g中)
身近な食材の食物繊維量(100g中)
※分析上、水溶性と不溶性に分けられないが、主な性質は水溶性。(データ:日本食品標準成分表2010、日経ウーマン・オンラインより転載)

――穀物からしっかり食物繊維をとると、どのような効果が期待できますか?

青江: 糖尿病や脂質異常症など生活習慣病の予防に役立つことが分かっています。17の研究を統合解析した結果、穀物からの摂取量を多くしたほうが糖尿病のリスクが低く、野菜からの摂取量とは関連が見られなかったという報告もあります。

糖尿病のリスクを下げるのは野菜よりも穀物の繊維
糖尿病のリスクを下げるのは野菜よりも穀物の繊維
糖尿病の発症と食物繊維の摂取量の関係を調べた17の研究、合計約49万人分のデータをまとめて解析したところ、食物繊維の総摂取量よりも穀物からの食物繊維摂取量が多いほど糖尿病のリスクが低かった。野菜からの食物繊維摂取量との関連は見られなかった。(データ:Eur. J. Epidemiol.; 29,2,79-88, 2014、日経ウーマン・オンラインより転載)
[画像のクリックで拡大表示]

 糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病の予防作用が食物繊維を多く含んだ穀物で顕著に認められる理由は、精製されていない穀物の性質によるところが大きいです。精製前の穀物では、でんぷん(糖質)と食物繊維が一緒になっているため、糖質の吸収を抑え、血糖値を上げにくくする。一方、精製すると食物繊維が取り除かれてしまうので、白米や小麦粉を食べると血糖値が高くなります。

――水溶性食物繊維の効果も大きいといわれています。

青江: 食物繊維には、水に溶けない不溶性食物繊維と、水溶性の食物繊維の2種類があります。不溶性食物繊維は便の量を増やし、便通を良くする機能がありますが、多くの効能が実証されているのは水溶性のほうです。糖質や脂質の吸収を抑えるとともに、腸内細菌のエサになって腸内環境を整えることが分かっています。

 しかし残念なことに、野菜や玄米などに多いのは不溶性食物繊維で、水溶性食物繊維は少ない。ところが大麦100グラム中に含まれる9.6グラムの食物繊維のうち、実に6.0グラムが機能性の高い水溶性食物繊維です。

――水溶性食物繊維はどのくらいとればいいのでしょうか?

青江: 今の日本人は水溶性食物繊維を野菜や果物から1日3グラムくらいしかとっていませんが、できれば6グラムはとってほしいですね。大麦を50グラム食べれば3グラムプラスできる計算になります。

 大麦の水溶性食物繊維の大部分はβ‐グルカンです。オートミールに使われるオート麦や黒パンに使われるライ麦もβ‐グルカンは多いですが、日本人の食生活にはあまりなじみがありません。

 β‐グルカンには「食後の血糖値上昇を抑える」「コレステロール値を下げる」「心疾患のリスクを下げる」などの機能性表記が欧米で認められています。日本で行われた研究でも、白米に大麦を混ぜる割合が高いほど、食後血糖値が抑えられることが分かりました(J Clin Biochem Nutr. 2009 Mar;44(2):151-9)。

世界が認める大麦パワー
世界が認める大麦パワー
大麦の水溶性食物繊維、β-グルカンについては、数多くの研究報告をもとに、各国の公的機関が機能性の表示を認めている(日経ウーマン・オンラインから転載)。※1 欧州食品安全機関のこと、※2 米国とカナダは1日3g(0.75g×4回)
[画像のクリックで拡大表示]

――最近はダイエット目的で「糖質制限食」を取り入れている人も多いですが……。

青江: 「糖質制限食」のポイントは糖質を減らして食後の血糖値を上げないことです。しかし、極端な糖質制限食は危ないのです。

 人間が体を動かすためにはブドウ糖が必要です。極端な糖質制限食でご飯を抜くと、筋肉を分解してアミノ酸からブドウ糖が作られることになります。筋肉が減ると基礎代謝が落ちて、より太りやすくなります。糖質がないと脂肪も燃えません。

 また、糖質は乳酸菌やビフィズス菌といった、腸内のいわゆる善玉菌のエサになります。砂糖や果糖など甘いものは大腸まで届かず吸収されてしまうのでとりすぎないほうがいいが、食物繊維を含んだ穀物は絶対にとるべきです。

内臓脂肪を減らすメカニズムとは?

――善玉菌のエサになるとは具体的にどのような状況でしょうか?

現在もっとも注目される食材“大麦”その知られざるパワーとは?~大妻女子大学 青江誠一郎教授(画像)
[画像のクリックで拡大表示]

青江: 大腸に入ったら便の一部となって出ていく不溶性食物繊維に対して、β‐グルカンのような水に溶ける食物繊維は腸内の善玉菌のエサになり、発酵を受けることで酪酸、酢酸、プロピオン酸といった短鎖脂肪酸が作られます。

 この短鎖脂肪酸がとても重要です。まず、酸の刺激で腸の働きが良くなります。同じく酸が増えることで、悪玉菌が増えにくくもなるのです。腸から出て血糖値のコントロールに役立つ消化管ホルモンGLP-1の分泌をうながす効果もあり、さらに、腸自体の防御機能も高めてくれます。

 最近、便秘がちの女性の間で非アルコール性脂肪肝が増えています。原因の一つは悪玉菌が作るLPSという毒素です。腸内で作られたLPSなどの毒素は腸のバリアを破壊し、体の中に入ることで悪さをします。β‐グルカンは腸で悪玉菌が増えるのを抑えるとともに、発酵することでできる短鎖脂肪酸が腸のバリア機能を高めて、これらの毒素を腸の外に出さないようにしてくれます。

――大麦はダイエット効果も確認されているようですが。

青江: 腹囲がメタボリックシンドロームの診断基準(男性85センチ上、女性90センチ上)に達した男女100人に1日2回、麦ごはんを食べてもらったところ、12週間後、β‐グルカンが入っていない大麦を使った麦ごはんを食べた人たちも内臓脂肪が減ったが、β‐グルカンの含有量が多い大麦を使った麦ごはんを食べた人たちはより効果が大きかった。

 大麦に含まれるβ-グルカンは、血糖値を上げないので太りにくくなるだけでなく、消化管ホルモンGLP-1の分泌をうながすことで内臓脂肪も減らしてくれるのです。

大腸の奥まで届くレジスタントスターチに注目

――オーストラリア産の「バーリーマックス」など、新しいタイプの大麦も出てきました。

青江: 同じ白米のでんぷんでも、生米や冷えたごはんのでんぷんは消化されにくい形になっています。これをレジスタントスターチと呼びます。バーリーマックスという大麦は加熱調理した後でも、このレジスタントスターチが多いのです。

 レジスタントスターチは水に溶けないにもかかわらず腸内細菌のエサになるという他の不溶性食物繊維とは異なる性質を持っています。レジスタントスターチはゆっくりとエサに利用されるため食べ尽くされずに、腸の上のほうにいる菌もエサにするβ‐グルカン以上に腸の奥まで届くのです。

――日本では大腸がんが急増しているが、その原因は食生活の欧米化によって脂肪の摂取量が増えたためといわれています。

青江: 脂肪をとりすぎると、吸収するために胆のうから腸に胆汁酸が大量に分泌され、大腸まで達した胆汁酸が悪玉菌の作用によってできる物質が大腸がんのリスクを高めます。β‐グルカンやレジスタントスターチは大腸に入り込んだ胆汁酸を体外に排出してくれます。大腸がんは直腸やS状結腸など大腸の奥のほうで発生することが多く、その意味でも、腸の奥まで届いてブロックするレジスタントスターチの意義は大きいのです。

――血糖値の上昇を抑え、内臓脂肪を減らし、腸内環境を整えてくれるという三拍子そろった機能性を持つ大麦は、まさに現代人にうってつけの食材ですね。

青江: 食べない手はないですよ。ゆでてサラダ感覚で食べるのもいいのですが、大量にとろうと思うなら、主食にできる麦ごはんがいいと思います。5対5の麦ごはんに抵抗がある人は、とりあえず白米7対大麦3くらいから始めてみるといいと思います。

(構成/伊藤和弘、写真/中村宏)

青江教授が登壇する11月21日のセッションの登録はこちら