大型筐体向けのゲームからVRへ、きっかけは“才能の無駄遣い”
――VRゲームを開発した経緯について教えてください。
玉置絢氏(以下、玉置氏:) 以前所属していた部署の上司の原田(「鉄拳」シリーズのプロデューサーである原田勝弘氏)が実はテクノロジー好きで、VRにも早い段階から興味を示していました。ですので最初に原田が、鉄拳をVRで実現しようとチャレンジしたのがそもそもの始まりになります。
しかも弊社は、ある意味VRに近い、上下左右180度の表示が可能なドームスクリーンを備えたアーケードゲーム機を持っていました。さらに、原田が率いる「鉄拳」チームにはVRに高い興味を持つプログラマーがおりまして、そうした所から徐々に人材が集まる形で、草野球的にVRのゲーム開発を進めていたのが2010年ごろになりますね。
――なぜそこから、全く内容が異なる「サマーレッスン」が出来上がったのでしょう?
玉置氏: 実際に鉄拳をVRで再現してみたのですが、プレイしてみると結構怖かった。やはりゲームとして見ると鉄拳はあの形がベストで、VRでプレイしてもらうのは違うんじゃないかという結論に至ったのです。
またそれとは別に、ちょうど先のドームスクリーン型筐体を使った新しいゲームの企画を立てようという話が進んでいたのですが、この筐体用のゲームは戦闘系のものが多かった。そこで私としては従来と違う企画を出したいと思いました。「その場にいるかのような感覚でキャラクターと会話できるゲームがあったら面白いのでは?」と考え、いくつかの企画に混ぜ込む形でその企画も提案してみたんです。
すると原田がその企画を気に入ってしまって、これは逃げられないなと(笑)。そこで真面目に企画を進めていたところ、原田の方から「VR向けにやってみたらどうか」という提案があり、その結果として生まれたのがサマーレッスンです。
――従来のゲームとは違う企画を考えようと思ったのはなぜですか?
玉置氏: VRは実際に体験してみないと分からないものなので、ゲームを作る上でも話題を作る必要があると感じていました。そのために考えたことが、ネット上で俗に言われている“才能の無駄遣い”です。ハイテクを目いっぱい使って、こういうふうに使われるとは思っていなかったことをするには、このアイデアが適切だと感じたわけです。
アイデアのベースにあるのは、2012年ごろ、Webカメラなどを使って、現実の映像に3Dのアニメキャラクターを登場させるという動画が人気だったことです。そこで感じたのが、“二次元の世界に入りたい”という感覚を持っている人が多くいるということでした。さらにもう1つ、“俺の嫁”という言葉に代表されるように、自分と同じ世界にフィクションのキャラクターがあたかも存在しているかのように振る舞うことがクールだと考える風潮が、やはり同じ時期に起きていたんですね。そうしたニーズと、VRのようなテクノロジーが合致すると感じたからこそ、サマーレッスンの企画ができたといえます。
――大型の筐体からVRヘッドセットに変わったことで、どのような変化がありましたか?
玉置氏: VRでやってみてよかったと感じたのが、距離感です。ドームスクリーン型筐体ですと一定以上の距離に近づくことができないので、女の子とのより近い距離を感じられることが、サマーレッスンが注目を集めた大きなポイントになったと思います。