クリエーターが仕事に集中できる環境が重要

――アニメーションスタジオとして今後、必要なこと、求められることとはなんでしょうか?

石川: アニメーションスタジオに限らず会社というのは、新たな事業に取り組まないと資金繰りに詰まってつぶれることが多いはずです。それが自然な姿です。I.Gを30年近く経営してきましたが、働いている人たちが「今月はお給料がもらえないんじゃないか?」というような状態にさせたことはありません。お給料が毎月普通にもらえるという“普通の環境”を継続するのが本当に大切なことなのです。目立たない裏側で制作以外のビジネスをしっかりやって、クリエーターが本来の仕事に集中できる“普通の環境”を作リ続けてきたのです。今回のVR版もそんな新たなビジネスのひとつですが、社内で「何を余計なことやっているんだ!」とか言われることもあります。

 クリエーターは、ビジネス云々より作りたいものを作りたいと思うものです。あまり“ビジネス=お金儲け”のことばかり言っていると、いいクリエーターが逃げてしまいます。作りたいものを作れる現場があり、I.Gにクリエーターが集まってくるような環境が必要です。才能のある人材は純粋な人たちです。そうした人たちが集まってきて存分にやれる環境を作りたいですね。

――最後に日本アニメ業界の問題点を提起してください。

 日本のアニメ業界の中で下請け体制というか、制作会社が下請けからなかなか抜けられないという点が問題です。自分たちでお金を集めて作品を制作する試みはこれまで何度もありましたが、その大半が継続できていません。実は新たにアニメ制作会社を立ち上げるのは簡単なのです。しかしアニメ業界の下請け構造の中で独立しても、それは利益を生むような構造が生み出せないので長続きしないのです。

 一番の問題は、継続的に利益を生み出す構造を考えるプロデューサーが圧倒的にいないという点です。このプロデューサーを育てていくのが一番必要なことだと考えています。今まで日本のアニメを支えたモデルが崩れていくのではと大きな危機感を感じています。I.Gは“作り手集団”でしたが、それをプロデュースし、お金の循環を考える人間が社内から出てこないといけないのです。

 “プロデューサーを育てる”というのには一見無理にも思えるような“ムチャ振り”が有効なんです。最近ではとある作品でI.Gが主幹事を担当しました。本当に大変でしたが、それをやって結果を出せました。実は担当したプロデューサーにはかなり“ムチャ振り”をしたんですが、それって大事だなと思うんです。ムチャ振りしたら人は育つ(笑)。

 今回の「攻殻機動隊 新劇場版 Virtual Reality Diver」はこの半年のスケジュールが勝負だということで、これもかなりムチャ振りでした。このVR版は「攻殻機動隊」というI.Gの象徴というタイトルで発信します。海外で圧倒的な知名度がある作品ですので、必ず結果が付いてくるのではと考えています。

 「攻殻機動隊」にはやはりすごい才能を持っているクリエーターが集まってきます。その出来栄えはぜひTRENDY EXPOで実際に確認してもらえればと思います。

VR版「攻殻機動隊」でビジネスモデルだけでなく人材も育てたい~プロクダション I.G 石川光久氏(画像)
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(構成/湯浅英夫、写真/中村宏)

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