「South by Southwest(SXSW)」は、毎年3月中旬に米国・テキサス州オースティンで開催される、音楽と映画、最新技術の複合イベント。展示会をはじめセミナー、ライブ、上映会、コンテストなど数千もの催しが行われ、80カ国以上から8万人以上もの来場者を集める。今回はそのなかでも、世界の最新技術とベンチャー企業が集まる「インタラクティブ」部門を取材。世界に打って出る日本企業の動きと、驚くようなアイデアを提示する海外の注目ベンチャーの動きを、現地からリポートする。

SXSWメイン会場のオースティン・コンベンションセンター
SXSWメイン会場のオースティン・コンベンションセンター
[画像のクリックで拡大表示]

 過去にツイッターや位置情報アプリ・フォースクエアを輩出し、世界規模のアプリの登竜門として名高いSXSWのインタラクティブ部門。だが、スマホの普及期であった数年前から状況は大きく変わり、単体のアプリが大きな注目を集めるのは難しくなっている。代わって近年、新たな軸となりつつあるのがハードウエアベンチャーだ。

ヒューストンのベンチャー企業が出展した、料理の3Dプリンター。別の記事で追って取り上げる
ヒューストンのベンチャー企業が出展した、料理の3Dプリンター。別の記事で追って取り上げる
[画像のクリックで拡大表示]

 SXSWには海外発のユニークなガジェットも多く集まるが、やはり「モノづくり」となれば日本人ベンチャーの出番だろう。今回は、会場でも注目を集めている、2社のウエアラブルデバイスを取り上げる。いずれも、あえて困難と思われる分野に挑んだ意欲作だ。

16labの指輪型デバイス「OZON」
16labの指輪型デバイス「OZON」
[画像のクリックで拡大表示]

「指輪型デバイス」で世界制覇を狙う16lab

手前がOZONの最新プロトタイプ
手前がOZONの最新プロトタイプ
[画像のクリックで拡大表示]

 ユーザーのジェスチャーを認識できる指輪型のガジェットは、米国や日本のベンチャーが競って開発を進めている分野。国内でも過去に話題を呼んだ製品があるが、「指輪」と呼ぶには大きめのサイズ感だったり、必ずスマホとペアリングする必要があったり、ジェスチャーの認識にやや時間がかかったりと課題が多く、広く普及するには至っていない。

 そんな指輪型デバイスの課題を一気に解消し、ネットにつながる機器のコントローラーとして、新たなスタンダードの地位を狙うのが、16lab(じゅうろくらぼ)の開発する「OZON(オズオン)」だ。SXSWで展示中の最新のプロトタイプは、厚さ数mm、幅も1cm程度で、普段から身に付けて気にならないサイズ感。この本体の中に、通信機能(BluetoothとNFC)やモーションセンサー、タッチセンサー、振動モーター、電池を詰め込んでいる。非接触充電にも対応しており、対応機器としては世界最小クラスだ。

 もともと金融業界で、情報産業の市場調査を手がけていた木島晃氏が、13年に創業。ディスプレイの品質ばかりをさかんに訴求するスマホの新製品を見て、「今後は逆に、ディスプレイのないデバイスが必要とされるのではないか」と考えたのが開発のきっかけだという。

16labのCEO・木島晃氏
16labのCEO・木島晃氏
[画像のクリックで拡大表示]

チタン削り出し部品は高級時計と同じ工場

身に着けていても気にならないサイズ感と重さ
身に着けていても気にならないサイズ感と重さ
[画像のクリックで拡大表示]

「朝起きてから夜寝るまで、1日じゅう使い続けられる新たなプラットフォームの開発を目指した」という木島氏は、当初から指輪型デバイスの可能性に着目。「ウエアラブルデバイスである以上、小型であること、電池が持つこと、そして安全であることは絶対条件と当初から考えていた」(木島氏)。その理想をかなえるため木島氏は、ハードウエア、ソフトウエアとも、すべてを一から専用で開発するという驚きの決断を下す。

 ハードウエアは、16labの技術力を見込んで共同開発を申し出たアルプス電気とともに開発を進めているが、これは「特に通信機能に関しては、知識と経験のある企業と組まないと安定性が確保できない」(木島氏)という冷静な判断ゆえのもの。電池も、既存の電池を曲げて実装しているわけではなく、この製品に合った形状の電池を特注している。極めつけはリング内側の金属部分。チタン削り出しの部品を、高級腕時計の部品加工を手掛ける工場に発注している。指の動きを解析するソフトウエアは、すべて自社で開発。世界で使われるデータベース管理ソフト「MySQL」の開発者の一人として知られるトーニュ・サミュエル氏が開発を指揮しており、高速応答と低消費電力を両立させているという。

左がエンジニアのトーニュ・サミュエル氏。自宅にスーパーコンピューターを所有している
左がエンジニアのトーニュ・サミュエル氏。自宅にスーパーコンピューターを所有している
[画像のクリックで拡大表示]
指輪の向きや傾きを正確に、高速に捉えられる
指輪の向きや傾きを正確に、高速に捉えられる
[画像のクリックで拡大表示]
ジェスチャー操作でさまざまな機器のリモコンとして使うことも想定している
ジェスチャー操作でさまざまな機器のリモコンとして使うことも想定している
[画像のクリックで拡大表示]

 現在のプロトタイプはすでにかなりの完成度だが、量産化のスケジュールは資金調達の行方次第のようだ。木島氏は、キラーコンテンツとなる用途を見つけるため、企業との実証実験にも力を入れる。すでにトヨタとヤマハの2社が、OZONと連係する製品の開発を検討中。クルマのキーをOZONで代替したり、電子楽器をOZONで操作したり、といった展開が期待できそうだ。この他にも、複数の大企業と新たな展開を進めているという。一般消費者が手に取れるのはまだ先になりそうだが、今年の後半にかけては、この不思議な魅力を放つ指輪を見かける機会が増えてくるかもしれない。

今あえてウエアラブルディスプレイに挑む

 昨年初頭にグーグルが「Google Glass」の個人向け販売を終了、ウエアラブルディスプレイの分野は業務用を除いて動きの少ない状態が続いている。しかし、そんなウエアラブルディスプレイに今あえて挑むのが、高坂悟郎氏の率いるベンチャー、VUFINE(ビューファイン)だ。

メガネに取り付けるウエアラブルディスプレイ「VUFINE」
メガネに取り付けるウエアラブルディスプレイ「VUFINE」
[画像のクリックで拡大表示]

「シンプルなら、需要は必ずある」

HDMIケーブルを通じてHD画質(720p)の映像を表示。視界に入る映像は4型相当のサイズ
HDMIケーブルを通じてHD画質(720p)の映像を表示。視界に入る映像は4型相当のサイズ
[画像のクリックで拡大表示]

 サンフランシスコに本拠を置き、日本企業の米国進出のサポートなどを手がけてきた高坂氏。実は、かつて日本でも話題を振りまいたウエアラブルディスプレイ「telepathy(テレパシー)」にも携わった経験がある。当時からウエアラブルディスプレイの持つ可能性には着目していたが、「どれも高価で、高機能過ぎる」と感じていた高坂氏。「2万円程度の価格帯でシンプルなウエアラブルディスプレイを作れば、需要は必ずあると思っていた」(同)。

VUFINEのCEO・高坂悟郎氏
VUFINEのCEO・高坂悟郎氏
[画像のクリックで拡大表示]

 そんな読みに従い開発した最初の製品は、Google Glassの不要と思われる機能を1つずつ削りながら設計したといい、無線機能もなければ独自のアプリケーションもない。ただシンプルに、HDMIの映像を表示するだけという、液晶ディスプレイをそのままウエアラブルにしたような製品だ。しかし、米国のサイト、Kickstarterでクラウドファンディングを開始すると、わずか1カ月で計24万ドル(約2700万円)以上の資金を集めるほどの人気を獲得。製品は間もなく出荷を開始する。現在は事前予約の受付中で、価格は169ドル。

シンプルな構造(画像はKickstarterから引用)
シンプルな構造(画像はKickstarterから引用)
[画像のクリックで拡大表示]

 特定の利用シーンは訴求せず、多用途に使えることを売りにする。HDMIの映像なら何でも映せるので、オフィスのパソコンのサブディスプレイとして使ったり、アクションカムやカメラ付きドローンのファインダー代わりに使ったりできる。「日本の消費者からは、電車の中でYouTubeを見るのに最適、とのフィードバックがあった」(高坂氏)。すでに予約を受け付けているが、「米国の次に注文が多いのは日本」(同)。将来は日本での店頭販売もしたいという。

(文/有我武紘=日経トレンディ)

この記事をいいね!する