エネルギー産業はMaaSでどう変わるのか(前編)

MaaSの世界とエネルギー業界の課題が重なり合う未来には、どんな新しいサービスが創造されるのか。その技術的課題とは何か。MaaS Tech Japan代表取締役の日高洋祐氏をモデレーターに、国際環境経済研究所理事の竹内純子氏、CHAdeMO(チャデモ)協議会事務局長の吉田誠氏が、海外の動向含めて解説します。
日高 洋祐
MaaS Tech Japan 代表取締役

【エネルギー産業はMaaSでどう変わるのか(前編):講演全文】

日高:このセッションでは、エネルギー産業の未来とモビリティ革命ということで、ここまでは主に交通、モビリティ、MaaSの話とその周辺ということで、交通を中心にセッションは進められてきたんですけども、そこからはエネルギー関係、ほかの分野の専門の方から見てモビリティかどうかというところを紐解いていきたいと思っております。

 それでは初めに弊社の、私の紹介をさせていただきたいと思います。弊社はMaaS Tech Japanという会社で、事業内容としては、メディア事業とコンサルティングとMaaSのプラットフォーム事業、主にICTの開発の会社なんですけれども、このようなメディアに出させていただいたり、コンサルティングもおこなっているという、3つの業務をおこなっています。去年の11月にできた新しい会社です。

 今日は Beyond MaaS という、MaaSが実現したあとに、ほかの産業とどうつながっていくのかというところを中心に話をしていきたいと思います。Mobility as a Service がどういうものだったかと言いますと、概念としてはいろんな交通機関、鉄道、バス、タクシー、フェリー、航空、色んな交通手段があって、それがこれまで一つのサービスとして運用されてきたものを、スマートフォンが普及して、ICTでデータがつながるようになって、サービスもつながるようになって、ユーザーもしくは都市のあいだにこのMaaSのオペレーター、統合する人が入ると。基本的にはこういうモデルとなります。

 そのサービスの1つの例として、フィンランドにMaaS Global という会社がやっているサービスで言いますと、今、このマルチモーダルで色んな交通手段が使えるとあるんです。例えば定額制にして62ユーロを払うとあらゆる公共交通が乗り放題とか、499ユーロを払うとカーシェア2時間とタクシー5キロ未満も乗り放題、こういうものがMaaSの代表例として出てきています。狙いとしましては、フィンランドは自動車産業を持たないので、できるだけ国民が自動車に乗らないで、いわゆるシェアリングの車と公共交通を使ってもらうように、というような思想を持ってパッケージされたものです。

 こういうものがいわゆるユーザー向けのサービスとしてあるんですけれども、もう1つ流れとしてあって、今回のエネルギーのところで重要なのが、MaaSの交通のシミュレーターもしくはコントローラーというものも、今MaaSの世界でできています。

 これはドイツのPTVという会社のソリューションなんですけども、いわゆる街の地図のデータを入れまして、MaaSなので人の移動のデータを入れていきます。例えばここから10人が入って5人が出ますとか、この時間はお店が9時に始まるので、店に入って、18時に出てきます。人の移動のニーズのデータを入れていきます。

 そこに交通のプロパティで、例えばここに電車が走っているとか、バスが走っているとか、今、運転を見合わせだとかっていうのを入れていくと、基本、人は早くて安いものに乗っていくので、シミュレーションはできてきます。あと、このエリアに例えばタクシーが0台から100台まであったときに、どのぐらい渋滞が起こるのかとか、例えば料金を変動させてみてシミュレーションをしてみると、料金が0円だとみんなは乗りますけれども、500円ぐらいから徒歩に切り替わると、いろんなシミュレーションができてきます。

 そうすると、これは横軸と縦軸で、何台このエリアに、例えばバスとか電車がなくなったときに何台のオンデマンド交通があればいいのかっていうシミュレーションがここにもできてくると。こういうふうなMaaSになってあらゆる交通手段をある程度コントロールできるようになったときに、どう交通をマネジメントすればいいかっていうものが、今、出てきていると。

 これが交通の話であって、渋滞解消とか鉄道の混雑緩和っていうのはあるんですけれども、一方で、モビリティっていうのはモビリティを中心にして考えると、やっぱりエネルギーを使うものですし、都市としてどういう都市設計するかもあるし、物流の話とも関わってくるので、けっこうこのMaaS自体が目的というよりは、ほかの要因とつながれる要素が強くて、もちろんこの交通のシミュレートも素晴らしいと思うんですけども、もうちょっと広い視野で見てもいいんじゃないかと。

 それこそスマートシティみたいな文脈があって、そのなかで、エネルギーの分野とどう関わるかというところで、今日は、ここのエネルギーの部分と電気自動車、そういうことを専門家から見てどうかというところを紐解いていきたいと思っております。

(4:32)

竹内:皆さま、あらためまして、こんにちは。私はエネルギー問題と地球温暖化を中心とします環境問題を勉強させていただいております、竹内と申します。今日はエネルギー側から、このMaaSというようなものをどう見ているか、何を期待しているかというようなところをお話しできればということで、登壇の機会を頂戴いたしました。

 エネルギーというのはすべてのものを動かすのに必要なプラットフォームでもありますので、このプラットフォームがきちんとしていないと、いかにいいテクノロジーであったり、サービスっていうのを思いついてもなかなかワークしない、ということもあるので、エネルギーがちゃんとこれを支えられる土台として、キャッチアップしていかなければいけないということと同時に、エネルギー側も実はいろんなコントロールを今、必要としているという状況でもありますので、どうせコントロールするならエネルギーのことも、うまく一緒にマネージするというようなことで、取り込んでいただきたいというようなことを思いながら、今日はお話をさせていただくというところでございます。

 まず、わが国の社会変革のドライバーとして4つのDと書きました。社会変革のドライバーということで言いますと、4つぐらい考えられるのかなと。この4つのDが不可避的、要は避けられない。そして戻れないかたちでどんどん進みつつあるというのは、これは皆さん、ご認識のとおりです。

 こういった複数の変化の潮流がきているときに対応していくのは、基本的にそれぞれの産業、今までのエネルギーセクターならエネルギーセクターが、"あるいは交通セクターなら交通セクターが、それぞれ努力するだけではたぶんもう解決ができなくて、産業間の融合であったり、それぞれを合わせたうえでの、投資の選択と集中といったようなものも必要でないかというふうに考えております。

 4つのD、1つめのDが人口減少、過疎化ということで、これは日本に特異に急速に進むというようなことで、すべてのネットワーク型の社会インフラというものが厳しくなってくるというようなこと。

 2つ目のDがもう世界的な潮流として進みつつある脱炭素化、decarbonization。これを大幅に、しかも急速に進めなければいけないという要請がある。その波にも押されるかたちでエネルギーですと、要は太陽光や風力という、今までは大規模の集中型の電源から一気に川の流れのように、上流から下流に送電線で送ってというかたちの流れだったのが、色んな分散型の技術が導入をされてくるというようなこと。

 そして4つ目のDがデジタル化ということで。こういったデータをうまく使いこなすことで価値を提供していくというようなビジネスモデルへの変化、これはエネルギーの世界でも起こりつつあるというような4つのDがあるわけでございます。

 この脱炭素化のところだけ、ちょっとお話をさせていただきますと、脱炭素化、日本は2050年に80%のCO2を削減する、これを目標として掲げるということになって、話が今、進んでおりますけれども、それだけの大幅なCO2削減を進めるっていう技術的な選択肢はそれほどないわけです。唯一あり得るのが、こちらのかけ算ということだけ、ちょっと覚えていただければと思います。

 こちら、電源を低炭素化して需要を電化する。もうこれは皆さん、ご案内かと思いますけれども、例えばガソリン車を電気自動車にする。それだけではもちろんだめで、電気をCO2フリーで作っていく、いわゆる再生可能エネルギー、あるいは原子力等で作っていくという、このかけ算をやるとけっこうCO2は減るというようなこと。なので、この電化を進めるというようなこと、需要の電化を進めるというようなことをやると、これからエネルギーの需要自体はエネルギー全体で言うと、たぶん減っていくんですけれども、電気の需要自体は、ここから2050年に向かって増えていくというふうに、実は私は見ております。

 例えば、今、1年間に日本って1兆kWh、電気をだいたい使っているんですけれども、ガソリン車がどんどん電気自動車に変わるとか、給湯器がどんどん電気を使うものに変わる。そういうかけ算の、先ほどで言ったところの、需要の電化のほうが進みますと、ここから電力需要がけっこう増える可能性があるというようなこと。そうすると、再生可能エネルギーを大量に導入するということになってくるわけです。

 再生可能エネルギーというのは、今、導入のネックというのはコストと言われていたんですけども、そのコストもだいぶ下がってきていますので、これから急速に増えていく可能性はある。ただ、やっぱり技術的な限界があって、要は欲しいと思うときに電気を作れないので、貯める技術というのがどうしても必要。でも、貯める技術というのをバッテリーという貯めるだけの機能のものを社会にそれほどお金をかけて入れるというのは、これは社会的に合理的ではないので、これをなんとかできないかということで考えたのが、移動の価値を提供できるEVとそれをシェアするということであります。EVとシェアすることで、社会的な無駄というのがだいぶ減らすことができるというようなことでございます。

 ここまでお話をした部分というのは、実はエネルギーの側からの勝手なモビリティに対する一方通行の想いだったわけですけれども、じゃあということで、モビリティを支える社会インフラって見てみようと思うと、実はモビリティ側の社会インフラから見ても、こういうかたちで変わっていく可能性というのが非常に高いのではないかというふうに思っております。

 皆さまからご覧いただいて、まず右側のエネルギーインフラを見ていただくと、その消費者にエネルギーを届ける手段として、今ある事業ってたぶん4つぐらいしかない。一番事業体が小さいほうから言いますと、ガソリンスタンド、次がLPガス、プロパンガスですね、都市ガスがある、電気があるということなんですが、もう皆さまがご承知のように、ガソリンスタンドは全国に300以上ガソリンスタンド過疎地というものがあって、これをなんとか自治体の税金で支えたりというようなことをやっている。

 LPガスもそのうち厳しくなることは、これはもう間違いないということになると、今、皆さんの税金等でこういうものを、事業を維持しようということをやっているのが、早晩、不可能になってくるということになると、頑張って電気だけはインフラとして維持をする、その代わりに電気自動車に変えていくというようなことで、地方に住み続けるためにはそうせざるを得ないというムーブメントも出てくるのではないか。

 もう1つ、道路インフラというほうから考えましても、今、いろんな地方自治体、基礎税収の何倍も、既存のインフラ、道路中心とする、そういったものを維持するために基礎税収の何倍もの予算を使うということになっております。

 当然そのコストダウンも図りながら、道路インフラ等の高付加価値化とか、そういったことも図っていかなければいけない。そういうことになりますと、当然のことながら、道路を道路という車が通るためだけのものではないかたちにしていく必要がある。

 そうなるとMaaS等でうまく活用していくということが必要になるのではないか。実はエネルギー側からの勝手なアプローチだと思っていたものは、実は相思相愛だったのではないかというふうに思っているのが、今の私の見立てでございます。

 なので、今、いろんなこういったかたちで、これはエネルギー産業のその将来像を描かせていただいた見取り図なんですけれども、いろんなプレーヤーが融合してくるなかに、モビリティとユーティリティーというものの融合というのは、ある意味、大本命として起きてくる。そのなかでMaaSというのが非常に大きな役割を果たすだろうというふうに思っております。

 ただ、ニーズだけでは社会変革というのはなかなか進まなくて、政府あるいは地方自治体、自動車会社、データプラットフォーム、エネルギー事業者、それぞれがそれぞれに同じ方向を向いて、同期を取りながら、社会変革をしていくというようなことをやらないと、なかなかこういういい社会に変わっていくということはできないであろうな、という懸念も持っているということを、最後つけ加えさせていただいて、私のプレゼンテーションを終わりたいと思います。ありがとうございます。

(13:40)

吉田:CHAdeMO(チャデモ)協議会の吉田と申します。今、お話がありましたように、MaaSは色んな組み合わせで無限の可能性を持っているかと思いますが、その1つの実用例として動き始めているということで、モビリティ、特にEVに特化して、話をさせていただければと思います。

 そもそもCHAdeMO協議会って何っていうことがありますので、簡単に紹介させていただきますと、EVユーザーの利便性向上を目的として充電規格の標準化をやっている団体です。コンソーシアム型と言いまして、メーカーさん、電力会社さん、IT業者さん、学校とか、検定機関なんかも入っていまして、今、41カ国で420団体以上入っていらっしゃいます。

 EVについてというのを言わせていただきますと、昨年1年間で、世界で128万台のEVが売れています。このグラフをご覧になっていただいてわかるとおり、そのうち半分以上が中国ということで、中国がこのブームを牽引していることは間違いないんですけれども、そのほかにも、テスラ(Tesla, Inc.)が引っ張っているアメリカとか、国が引っ張っているノルウェーといったようなところが頑張っていまして、政府であったり、業界であったり、個社であったりと、こういうところをうまく回しているというのが現状になっています。

 ただ背景というのはけっこういろんなところがございまして、電動化の背景、欧州はこれ、脱炭素、温暖化防止っていうのは、これはもう主命題であります。ところが、カルフォルニアは一番の主題目はゼロエミッションビークル、要は排ガス規制。空気をきれいにっていうところ、エアークオリティの問題が主。そして、中国、インドになりますと、やはりエネルギーセキュリティの問題で、ガソリンもしくは原油の依存度を下げたい。何しろ十何億人がいますから、みんながプラスチックを使い始めたら、原油が足りなくなるわけですね。ですので、中国の国家能源局というエネルギー省なんかに聞きますと、動くものは、戦闘機以外はみんな電気でいいんじゃないかというようなことを言っています。

 インドでも電動化というのはどんどん進んでいくと。それに対して危機感を持っているのがサウジをはじめとする湾岸国であって、彼らの商品を自国で生産、そして消費するのではなくて、いかに高く外に売っていくかということで、まずそもそも売り物に手をつけちゃいけないよということで国内の電動化というのを推進すると。こういったところは産業振興ということもあって、自動車というのは100年以上の歴史がありまして、そこの部分で追いつくのは非常に大変だといわれていますが、電動車になりますと追いつけるんじゃないかというところを思っている国が多数ございます。

 中国、インド、ASEAN、ここにドイツなんて入れていますけども、今日、BMWというか、ドイツの方もお話をされたと思いますけども、今、日本が世界に誇っているハイブリッドテクノロジー、この辺はさすがのドイツも追いつけなくて、脱炭素化するときにハイブリッドで競争すると勝てないので、じゃあ、一足飛びにEVというようなところを考えている。こういったようないろいろな背景があっての電動化ということになっています。

(後編に続く)

*このテキストは講演での発言を、文字起こししたものです。理解する参考情報としてご覧ください。

第2回
エネルギー産業はMaaSでどう変わるのか(後編)

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このセミナーの目次

Beyond MaaS エネルギー産業の未来
全2回
「脱炭素化」の流れの中で、長期的に再生可能エネルギーへのシフトが進むエネルギー産業。MaaSの世界とエネルギー業界の課題が重なり合う未来には、どんな新しいサービスが創造されるのか。その技術的課題とは何か。MaaS Tech Japan代表取締役の日高洋祐氏をモデレーターに迎え、国際環境経済研究所理事の竹内純子氏、CHAdeMO(チャデモ)協議会事務局長の吉田誠氏が解説します。
エネルギー産業はMaaSでどう変わるのか(前編)
  • 第1回
  • 2019.07.02
エネルギー産業はMaaSでどう変わるのか(前編)
エネルギー産業はMaaSでどう変わるのか(後編)
  • 第2回
  • 2019.07.05
エネルギー産業はMaaSでどう変わるのか(後編)

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