顧客の要望と社会課題を解決するMaaS(前編)
【顧客の要望と社会課題を解決するMaaS(前編):講演全文】
最初にWILLERというと、ピンク色の高速バスを思い出される方が多いかと思いまして、最初にわれわれのMaaSの取り組みをどんな組織でやっているかを簡単にご紹介させていただきます。今見ていただいている1番上の黒く塗りつぶしているWILLER株式会社が、われわれのホールディングカンパニーであり同時に移動のマーケティング、もしくはソフトウエアを使った、かっこよく言うとテクノロジーを使った移動サービスを考えるところ。この会社が120名くらいのスタッフがいます。この会社の100%の子会社に、今、バスを運行しているWILLER EXPRESS(ウィラー・エクスプレス)株式会社、京都丹後鉄道という京都北部で鉄道事業をやっている会社が子会社です。
皆さまの中には、交通事業者がマーケティングをやっていると思われている方も多いかと思いますが、そもそもわれわれは移動をどうするか、これを15年前から取り組んできまして、いろいろな新しい交通サービスを変えることで、世の中がどう変わっていくかということをやっていました。
実はピンク色の高速バスも大げさにいうと、Uber(ウーバー)、Grab(グラブ)が、1キロ、2キロから10キロくらいの、いわゆる移動のシェアサービスを考えるということがあったとすると、僕らが15年前にやったバスのサービスは路線的な、インフラ的な高速バスをつくるというより、シェア的な、行きたい人が1台のバスに乗っていくと、大きなバスですので安く移動ができる。こういうシェアバスという考え方から、実はスタートしていったのが、われわれのバスサービスの始まりです。
路線バスではなくて、貸し切りバスを使ったチャーターから、こういったサービスを始めていきまして、日本の高速バスとして運行しています。われわれの中では120人のマーケティングやテクノロジーを考えるメンバーが、実はわれわれがやっているWILLER EXPRESSというバスであったり、もしくは鉄道サービスをやりながら事業をやっています。その中で100年に1度の交通革命みたいなことが、今、千載一遇のチャンスがやってきたと思っていまして、たまたまわれわれは、そういうテクノロジーやマーケティング等をやっていたこと、実業のバス・鉄道を持っていましたので、この100年に1度のチャンスの中で、この流れの中に乗っていく事業をやっていくのか、それとも、これをけん引というと大げさな言い方になりますが、ここに新しいものを考えていくような立場になっていくのか、これは3年前のわれわれの会社の議論でした。
その中で、われわれは新しい交通サービスをつくりあげていくほうをWILLER含めてバス・鉄道、実際の運輸サービスも含めてやっていこうということで、ちょうど右端にあるシンガポールにWILLERS(ウィラーズ)という100%子会社をつくりまして、そこでは台湾に国光汽車客運という台湾の最大手の路線バス会社さんとジョイントベンチャーをつくり、ここではシェアバスというチャレンジをやっています。真ん中の緑色のところが、ベトナムにあるマイリンタクシー(Mai Linh Group)、ベトナム最大手のタクシー会社さんですが、こことジョイントベンチャーをつくりましてタクシー配車サービスやライドヘイリング、一般の乗務員さんも使うサービスをやっています。
1番右端がシンガポールのCar Club(カークラブ)、シンガポール最大のカーシェアリング会社なのですが、ここでカーシェアリングビジネスと自動運転のサービスをやっています。なかなか、日本ではという言葉はあまりよくないかもしれませんが、チャレンジしにくいところを、それぞれの国で、その国の課題を見つけながら、それをこういった新しいモビリティーサービスで解決していこうと、それをそれぞれの国のある程度の規模を持った会社と一緒になって、こういった新しいモビリティーサービスを開発しています。
こういったかたちが、われわれの今、WILLERグループ全体で動いている姿になっています。今日のテーマについてお話を進めさせていただきます。まず最初に、日本における社会課題ですが、これは私が今、ここで語ることもなく人口減少の問題や高齢化の問題、インバウンドの経済成長が国内の消費より、かなり高い勢いで伸びている。こういった概況の中で、下段にありますように、乗り合いのバス会社さん、地方の鉄道事業者さん、タクシー事業者さん、こういったところを見ると、ここ数年間の中で利用する方の数も減っているし、同時に、それぞれのローカルに行くと赤字会社も非常に高い比率になっている。こんな状況かなと思っています。
数字で見ると、やはりなんとなく感覚値があっても、実際に数値を見ると、本当にこれで大丈夫なのかという不安が、より実感が持てるかと思います。特に、何もせずに放っておいて、これが回復するか、もしくは、これが流れていいのかというと、やはり、これはちゃんと解決するというソリューションをつくらなければいけないと思っています。
その中で、われわれは、こういった課題をしっかりMaaSということを取り込んだ中で何ができるかを考えたいと思っています。たぶんMaaSをやられているすべての会社の方が、この社会課題を解決することを念頭に置かれていると思いますが、われわれもまったく同じように、MaaSをやることが目的ではなくて社会課題を解決するためにMaaSをどうするかを、しっかり考えていきたいと思っています。非常にMaaSといっても広いので、われわれはまずトラベラー、国内の方もインバウンドも含めてトラベラーの方が使えるMaaSは、どういうものだろうと考えていこうということにコンセプトを決めています。
実際にはMaaSに、観光や生活という言葉があるかというと、実はそうではないと思っていて、まずはトラベラーというところに絞ってみたいと思います。トラベラーの課題は、すごく、読むとその通りだよねということが書いてあるだけで、すごいことが書いてあるわけではないのですが。本当にここに書いてあることが、われわれがいろいろ調査していくと、結果、シンプルに言うと、本当に、こういうのが潜在的にユーザーの中にあるのだけれども、結局それはあるよねで終わっていて解決できていないのかなと思っています。
ですので、書かれていることを、まずちゃんと解決することをしようということで、このようなところを今、置いています。仕組みは、今日ほかのMaaS会社の方もいろいろ話されているのとほとんど変わらないのですが、目的地までの間を、現在ある、歩く、自転車、タクシー、バス、鉄道といったものを横断的に検索して最適なものを選んで、まずここまでが検索です。それから必要なものを予約する、支払いができる。ここまでをやろうと考えています。まずは第1ステップはここだと思いますが、これだけで、さっき言った課題が全部解決できますかというと、まずは既存のあるモビリティー、もしくはフリート(保有車両)の最適化は、まずは第1段階でやれることだと思っています。ただ今あるものを全部つないでも、実は先ほどの解決は、たぶんできないだろうなと思っています。この空白的な、埋められないところを埋めるために、下段のような新しいモビリティーサービスを付け加えることを考えています。
ちょうど下に出てきた、赤いところ、例えばセルフドライブの新しいかたち、これは先ほど言ったシンガポールのカークラブで、われわれは新しいサービスをつくろうと考えています。1~2キロから20キロくらいの、比較的短距離のところに向けてのオンデマンド的なもの、今でいうとタクシー配車、ライドヘイリングがあるかと思いますが、こういったことを今、われわれはベトナムでやっています。
最後、シェアバスがあると思っていまして、ライドヘイリングの距離を超えるところ。例えば50キロや100キロといった都市間を移動するとき、100キロ先にライドヘイリングで行ってくれと言っても、帰り、回送で帰るのは面倒くさいから嫌だということなので、50キロ、100キロを埋める交通として、今、われわれがやっている高速バスより、シェアバス的な長距離のサービスを考えています。もう1つは、ライドヘイリングと距離は重なりますが、もしくはもっと短い距離かもしれませんが、ラストワンマイル的なところのシェアバス、これは日本のような、ある程度交通運賃が高いところは、3人~5人で乗ることで、安く行ける。例えばタクシーで3000円かかるところを、2000円かかるところを4人で乗れば500円になる。こういった国には非常に有効なのですが、ベトナムなどに行くと、もともとが300円~500円でタクシーに乗れますので、実はあまりシェアが有効ではないとありながら、こういったシェアバスを、ちょうど真ん中くらいの台湾で今言ったラストワンマイル、50キロ~100キロの都市間バスの連続する組み合わせ、こういったことを台湾で今、いろいろチャレンジしています。
それぞれにおいて、こういったものを今、海外でやりながら、日本では先ほど言った、上段の今ある既存交通の連携、いわゆる統合型MaaSを今年の7月にわれわれはアプリをローンチしようと思っています。7月には上の状態の、今ある公共交通なり、セルフドライブのものを統合検索して、予約してペイメントする。これを日本で7月にやり、ASEANや台湾では、今の下のサービスを、すでにこれは始まっているところもありますが、やっていこうと考えています。これは、この1~2年のうちに、それぞれの国でやっている新しいモビリティーサービスを日本へ、日本のやっている統合サービスをそれぞれの国へというかたちで、それぞれ分けて、今チャレンジを進めています。共通するワードは、安心・効率・快適、この3つの軸を考えて、われわれは今MaaSをつくっています。
この3つの軸の中に、利用するお客さま、もう1つは、このサービスに交通として提供いただけるプロバイダーの方、この両方があるかと思いますが、この3つの安心・効率・快適に対して、お客さま側、事業者側、ここにどんな姿が理想的かをマトリックス的に埋めていきまして、そこにKPI(成果指標)をつけて、これはデータを集めたデータレイクから、そのKPIを超えていくという仕組みをつくっていこうと今、考えています。
1つだけご紹介させていただきます。例えば安心というと、お客さまから見ると、運転手さんがスマホでしゃべりながら運転していると不安を感じます。あくびしながら、目をこすっていると不安を感じます。というお客さまから見た安心とは、どういうことをやっていくといいのだろうかとか、事業者側の安全でいうと、急ブレーキ、急ハンドル、急発進、その運転動作をどうやっているのか、ここをチェックしていく仕組み、こんなものをつくっていこうとか、こんなかたちで、それぞれの6マスに対して、どういうかたちが理想値で、どこまでそれを達成していくかみたいなことを置きながら、つくっていく仕組みをつくっています。これは今の図を描いただけですが、今、それぞれ別々で予約しています。これが先ほど言ったような、今年7月時点で統合して、検索できる仕組みができあがっていきます。
ここに、将来、下に出てきた新しい交通サービスを足していくようなかたちのものを考えていきたいと考えています。われわれが考えているMaaSは、こんなことを今、置いています。1番下が、infrastructure innovationということで、やりたいことは1番下にある、マイカーを利用する、もしくはMaaSサービスを利用する、これがお客さまにとってストレスフリーな状態が同じレベルになること。このように、MaaSが大きくなっていれば1番いいのですが、これをイコールにするということは、どういうことかを徹底的に考えています。この状態が、もしマイカーと同じようなことが、いろんな交通サービスの組み合わせのサービスが、マイカーと同じストレスになったとき、そのうえに、このbusiness innovationが起きると思っています。本来は、ここのところで下にあるインフラストラクチャーの仕組みを使いながら、実は観光MaaSをつくったり、生活向けのMaaSをつくったりという、実はこのbusiness innovationは、この1番下のものができたあとに、本来は、これを活用する手段として、いろんな技術が生まれるだろうなと思っています。
今回僕らがつくるところは、1番下と2段目を、一緒に足してしまっていますが、本来は、僕らの仕事は、この1番下のところをつくることだと考えています。このbusiness innovationのところは、いろんな方が、それを使ってアプリケーションをつくって、いろんな便利なサービスが、世の中にどんどんできていくこと、これが僕が1番、世の中全体にイノベーションが起きることかなと思っています。さらに、この2つができあがると、街全体が変わっていく。やさしい移動で豊かな社会をつくるみたいなsocial innovationが起きていくかなと思っています。
1つ、話の前提が抜けていましたが、われわれが考えているのは実はローカル、日本の地方を中心に考えています。今、大都市は僕も東京にいても、いろんな交通手段があって、実は困っていない、変わりたい欲求があまりないと思っています。ローカルに行ったとき、本当に交通は不便で困ってしまい、同時に外に出るチャンスをやめてしまう。こういう状況を変えることが非常に大事だと思っていますので、変えるべき課題が多いところ、もしくは、変わりたいと思っている人の欲求が多いところが、非常にチャンスが大きいだろうなと思っていますので、われわれは日本のローカルを中心に、まずは何をつくるかを、考えていきたいと思っています。
MaaSの定義で言いますと、予約と決済の統合、統合的な交通の検索と予約決済、ここまでが先ほど言いました7月にアプリを提供できる状態を今、計画しています。これはソフトウエアができるということですので、イコールこれが、すごく優れたサービスができるというより、まず実証実験という言葉ではなくて、実業として、リリースしていこうと考えています。
具体的に、われわれがやっている取り組みのところを3つほどご紹介させていただければと思っています。1つは、先ほども同じことを言いましたが、今年7月にスタートする統合型MaaSについて、2つ目に、新交通サービスのデマンド的なところで、タクシー配車やライドヘイリング、3番目に自動運転、自動運転自体が今後、このMaaSの中にどういう役割をしていくかが非常に重要なことだと思っていて、ここも、ただ運転手がいるかいないかという議論ではなくて、MaaSは自動運転だから何の価値を生めるかみたいなことを今やっています。
この3つをお話しさせていただきます。1つ目が、先ほども何回も同じことを言っていますが統合型MaaSです。われわれは観光にターゲットした、観光型MaaSをつくっています。場所は北海道の釧網本線は皆さまご存じですかね。北海道の東のほうですが、網走からまっすぐ線路を下りて釧路までいっています。この鉄道の沿線には、世界遺産の知床、皆さまがよくご存じの摩周湖、阿寒湖、硫黄山、釧路湿原、実は世界でも誇れるような観光資源が山ほど、すごい短い距離に乱立しています。ただこれまでは、この鉄道から観光地まで行く交通がなかったがために、東北海道と言われると、団体旅行のバスで行くか、もしくはレンタカーで回るか、こういった思いが皆さま、非常に強いと思います。年間でこの地域にユニークで、だいたい150万人くらいの方が、実は旅行に来られています。このうちの5%を今回つくった公共交通やセルフドライブを組み合わせたサービスで、レンタカー、団体バスではなくて、このうちの5%を ここに振り替えるということにチャレンジしたいと考えています。
観光型ということですので、地域の情報の発信、情報を発信したところを巡れるような交通の提供、もしくは情報の提供、それから、せっかくなのでこんな体験ができるよみたいなことを、しっかりと組み入れた、先ほどで言うとinfrastructure innovationとbusiness innovationを組み合わせたかたちになっていますが、こんなサービスをリリースしようと思っています。仕組みとしては、検索・予約・決済ができます。その中に出てくるプロバイダーとしては既存の公共交通という鉄道でいうとJR北海道さん、まさに釧網本線、JR北海道さん、沿線の路線バス会社さん、それから沿線のタクシー会社さん、ここにすべて、ご協力をいただいて統合的に検索できる仕組みをつくっています。セルフドライブではレンタカーの予約、レンタサイクルの予約、今回はトヨタさんのi-ROADを入れた小型モビリティーの利用、こんなことを組み入れながら、鉄道に乗ったり、自分で運転したり、バスに乗ったりみたいなことを可能にしようとしています。この使ったデータをData Lake(データレイク)にためて、先ほど言ったような一番下の安心・効率・快適をPDCA的に回していく。この仕組みを7月下旬になりますが東北海道でリリースしようと考えています。
もう1つは京都北部、京都丹後鉄道という会社を今、われわれが運行していますが、京都丹後鉄道沿線もこれと同じ仕組みをやろうと思っています。ですので鉄道はわれわれの京都丹後鉄道と、沿線のバス会社やタクシー会社さんのご協力をいただきながら、こういったモデルをやっていこうと考えています。京都は観光ももちろん1つですが、同時に生活というところも入り込んで、チャレンジしていきたいと思っています。
*このテキストは講演での発言を、文字起こししたものです。理解する参考情報としてご覧ください。
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