彗星(すいせい)のごとく2019年に韓国市場に現れると、一躍若者を中心に絶大な支持を得ることに成功した新感覚ビール「TERRA」。開発したハイト眞露が、その勢いをひっさげて今度は日本市場で勝負をかける。折しも、酒税改正によってビールへの注目が集まるタイミング。激戦区とあって味だけでは差異化が難しいことから、エンタメ要素を加えた飲み方を提案。果たして勝ち筋は見えているのか。
韓国で発売後3年間で累計26億本を売るヒットを飛ばし、ビール業界の構図を変えた「TERRA(テラ)」が日本に上陸する。韓国焼酎「JINRO(ジンロ)」「チャミスル」などを手掛けるハイト眞露の国内法人が、2023年3月28日から全国の酒販店やスーパー、コンビニなどで売り出す。3月16日にローソンで先行販売し、店舗によっては売り切れるなど滑り出しは好調だ。
劣勢を跳ね返した起死回生の新商品
「韓国では19年3月に発売し、江南、汝矣島、弘大といった流行発信基地と言われる主要繁華街で人気に火が付いた。ビール新商品としては過去最速、100日で1億本を突破した」。国内法人眞露のマーケティング部門部門長の朴商佖氏はこう話す。
韓国ビール市場は、OBビールと「hite」などを手掛けるハイト眞露が2強とされ、長年競い合ってきた。14年にロッテグループのロッテ七星飲料が「KLOUD(クラウド)」で参入したことで、シェア争いが激化。劣勢に立たされたハイト眞露が起死回生の戦略商品として5年がかりで開発したのがTERRAだった。
江南、汝矣島、弘大の3エリアではライバルであるOBビールの「CASS(カス)」がシェアの大半を握っていたが、徐々にチャミスルと同じ緑色のビール瓶を採用したTERRAが“浸食”。今ではTERRAが、CASSから顧客を奪っているという。結果としてビール市場全体でみると、発売2年目の20年には、OBビールと再びトップ争いをする状態まで巻き返すことに成功した。
なぜTERRAは韓国の消費者の心をつかんだのか。要因はいくつかある。まず、味へのこだわりだ。韓国のビールは比較的味が薄めとされる商品が多いが、TERRAはオーストラリア産麦芽のみを使用し、日本のビールに似たしっかりとしたコクを実現。発酵工程で発生する炭酸をそのまま生かし、爽快で軽やかになるように飲み口も工夫した。「きれいな環境で生育された原材料のみでつくられたビールだとして、『クリーンラガー』というブランドメッセージで消費者に売り込んだ」(朴氏)ところ、それが受けたのだ。
というのも発売当時、中国北部やゴビ砂漠から黄砂の飛来が増え、中国各地で「PM2.5」と言われる大気汚染が深刻化し、韓国内では環境への関心が高まっていた。クリーン、つまり清浄で自然に優しいというイメージと、そもそも従来の韓国ビールにはないコクやすっきり感があいまって、環境意識の高い若者たちの興味を引いた。
ちょうど、日本以外の欧米産ビールが国内に多数流入し始めたことも追い風になった。“舌が肥えた”消費者は、韓国産ビールにもおいしさを求めていたタイミングだった。
では、日本市場でも味で勝負するのかというと、そうではない。もちろん味に対する自信はあるものの、それだけで日本のビール市場を簡単に切り崩せると眞露は考えてはいない。毎年のように味にこだわった新商品が次々と登場し、埋もれてしまいかねないからだ。
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