身体機能の「セルフチェック法」と、その改善方法を学べる「eラーニング」の仕組みを公開したスポーツ庁。室伏広治スポーツ庁長官の狙いは、科学的な知見をベースにしたスポーツを通じた健康で質の高い生活への取り組みを全国へ広げることにある。スポーツ医・科学に基づいた運動能力の強化・サポートを、都道府県レベルで構築できるような体制づくりに意欲を見せている。

▼前編はこちら 室伏スポーツ庁長官が目指す「シン・QOL」心と体と生活に余裕を
スポーツで国民の健康と生活の質改善を狙う室伏広治スポーツ庁長官
スポーツで国民の健康と生活の質改善を狙う室伏広治スポーツ庁長官

 2021年に創設された「スポーツ・健康まちづくり優良自治体表彰制度(通称:スポまち!長官表彰)」(以下、スポまち!)。全国でスポーツツーリズムや障害者スポーツの体験・交流を推進し、スポーツがしたくなるような環境整備に積極的に取り組んでいる自治体を表彰する制度だ。22年11月18日に東京・大手町で開かれた第2回の表彰式には、全国から20の自治体が選ばれて首長らが室伏長官から賞状を受け取った。

 その1人が、冬季五輪では1992年アルベールビル大会(フランス)、94年リレハンメル大会(ノルウェー)のスキー・ノルディック複合競技で2連覇した金メダリストで、2021年に長野市長に当選した荻原健司氏だ。長野市は地域密着型のプロスポーツチームを「市の資源」として、「ホームタウンNAGANOまちづくり連携推進ビジョン」を市とプロチームで推進して、元気なまちづくりを進めているとして選ばれた。

「スポまち!長官表彰」ではトークセッションで元トップアスリートが集結。左端が室伏長官、右端が荻原健司・長野市長。2022年11月18日、東京・大手町で
「スポまち!長官表彰」ではトークセッションで元トップアスリートが集結。左から室伏長官、元バレーボール全日本女子の大山加奈氏、スポーツジャーナリストの増田明美氏、右端が荻原健司・長野市長。2022年11月18日、東京・大手町で

 荻原市長は表彰式を前にトークセッションで室伏長官らと対談し、新型コロナウイルス禍でなかなか外に出られなかった市民に声をかけて「朝から一緒にラジオ体操をするようになった」と述べ、「障害のある人など多様な人々とで地域のコミュニケーションを深め、スポーツによる地域振興をもっとがんばりたい」と抱負を語った。

 これを受けて、室伏長官は「心と体の健康に寄与するスポーツを通じて、それぞれに合ったやり方で体を動かし、睡眠や食事などにも気を使って健康維持することが大切」と応じていた。

 「スポまち!」の表彰制度が始まった初年度の21年度に表彰された自治体のひとつ、北海道北見市を室伏長官は訪れたことがある。22年6月のことだ。同市は冬季五輪の人気スポーツとなった「カーリング」を軸として、まちづくりが進んでいる。22年に開かれた北京冬季五輪の女子カーリング競技で銀メダルを獲得した「ロコ・ソラーレ」を中心に、トップ選手を支えるために産官学が連携。北見工業大学などが中心に研究を進めるAI(人工知能)による競技分析システムなどを、地元の高校生チームが活用している様子を見て、「スポーツによる地域創生は、今後のスポーツ行政の軸となる」(室伏長官)と確信していた。

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目指すはスポーツと地域が融合した「Well-being」の拡充

 スポーツを通じた「まちづくり」や「まちおこし」で、人口減が続く地方の活性化を進める。取り組みは、室伏長官が考案してスポーツ庁が動画配信している身体の運動器(機能)を「セルフチェック法」(前編参照)と同じベクトルを向いている。科学的な知見に基づいたスポーツを通じた国民全体の「Well-being(ウェルビーイング)」の向上だ。

 Well-beingとは心身ともに健康で満足した生活を送れる状態と言い換えることができる。室伏長官が考案した「体が十分に動かせるかどうか」の機能性を把握するセルフチェック法と改善手法を、スポーツ庁がeラーニングで紹介するようになった(前編参照)のも、このWell-beingを高めるための取り組みの一つといえる。

 国内には2度目の東京オリンピック・パラリンピックの開催を通じて培ってきたスポーツの一般への普及と知見や情報・ノウハウがある。それを、いかに全国へ広げていくかを考えるのが、第2期となる「スポーツ未来開拓会議」だ。

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