東日本大震災から12年となった2023年。Zホールディングスが東京都千代田区内の大学生と防災・減災の啓発ワークショップを実施した。Zホールディングスグループとして震災関連の取り組みはこれまでも続けてきたが、学生向けワークショップとして実施したのは初めて。その取り組みの最終日を取材した。

 「災害時のラジオの有用性も認識してもらえるように“映えるラジオ”の開発を提案します。おしゃれの一環で持てるようなものやキャラクターデザインを選べる防犯ブザー付きのタイプがあれば、ラジオを日常になじませることができるのではと考えました」――。参加した大学生からアイデアが発表されたのは2023年3月17日。Zホールディングが開催した「防災・減災啓発企画ワークショップ」の最終発表での提案だ。防災や減災に興味を持ち当事者意識を高めるには何が必要かを考え、アイデアをまとめた。

ヤフーのオープンコラボスペース「LODGE(ロッジ)」で開催された「防災・減災啓発企画ワークショップ」。2023年2月28日には法政大学の小秋元段常務理事・副学長もあいさつした
ヤフー本社内のオープンコラボスペース「LODGE(ロッジ)」で開催された「防災・減災啓発企画ワークショップ」。2023年2月28日には法政大学の小秋元段常務理事・副学長もあいさつした

 東日本大震災から12年となる23年。Zホールディングスで「公共公益」などをテーマにオープンコラボレーション事業を手掛ける「LODGE」と千代田区の5大学(大妻女子大学・大妻女子大学短期大学部、共立女子大学・共立女子短期大学、東京家政学院大学、二松学舎大学、法政大学)で結成した「千代田区内近接大学の高等教育連携強化コンソーシアム」が共催した。

 5大学に通う大学生を対象としたもので、Zホールディングスグループの企業であるヤフーやLINEの社員らも参加して防災・減災についての啓発アイデアを企画するという趣旨だ。23年2月28日から始まり3月17日までの全6回。今回は法政大学の学生が12人が参加した。ヤフー本社内のオープンコラボレーションスペース「LODGE」で開催されたワークショップは3つのグループに分かれて実施。「災害情報の活用と発信」や「企業事例から学ぶ防災、減災」といったテーマを学んだほか、3月3日には福島県双葉郡の浪江町、双葉町などの被災地を訪問した。

23年3月3日には被災地である福島県も訪問した
23年3月3日には被災地である福島県も訪問した

 ヤフーは11年3月11日の東日本大震災の発生以来、情報提供や募金の立ち上げなどを通して復興に向けたさまざまな取り組みを実施してきた。14年から毎年「3.11、検索は応援になる」企画を実施。21年からはLINEと合同で「3.11企画」である「検索は、チカラになる。」を実施しており、23年は合計約1252万人が参加した。参加人数に応じた約9428万円をYahoo! JAPANとLINEから、東日本大震災の被災地支援などの団体に寄付する。その他の寄付施策を含めると、寄付総額は約1億394万円となったという。

 スマホでできる防災訓練のシミュレーションや防災関連のクイズコンテンツなどさまざまな取り組みも実施してきたが、23年に初めて取り組んだのがワークショップだった。東日本大震災から10年以上がたち、災害に対する当事者意識の希薄化も懸念される。これを社会課題ととらえ、若い世代に防災・減災に対する当事者意識を持ってもらうことを目的として企画した。フィールドワークや座学を通じて災害の事実や復興の現状・課題を実感してもらう取り組みは、PBL(課題解決型学習)の形にして実施した。参加した大学生は東日本大震災発生時には10歳以下だった。

ワークショップでの議論に使われたホワイトボード
ワークショップでの議論に使われたホワイトボード

実用化できそうなアイデアも続々

 LODGEを使って実施したワークショップの最終日、3つのグループから発表されたアイデアは、斬新なものが多く驚くばかり。冒頭で紹介した“映えるラジオ”の提案のほか、秋田のなまはげが各家庭を訪問し、家庭内に防災グッズがあるか確認してまわる「なまはげシステム」。水や栄養補助食品、ラジオといった防災グッズのパッケージを自動販売機のサブスクリプション(定額課金)方式で利用できるようにする「サブスク式防災グッズ自販機」。防災関連のクイズでポイントがたまる「災害クイズアプリ」や小学校での防災マップ作成など、すぐ実用化できそうなものもある。3つのグループからの発表を「アイデアの新規性」「課題解決までのストーリーに説得性があるか」といった5つの視点からヤフーやLINEの社員、大学教授ら10人が審査した。

3つのグループが順番にアイデアを発表した
3つのグループが順番にアイデアを発表した
最優秀賞など3つの賞が発表された
最優秀賞など3つの賞が発表された

 「防災に対する意識付けを小学生のうちからしていって、その子たちが成長したときにまた小学生たちに伝えていく。教育の観点からの取り組みも重要だと実感しました」――ワークショップ参加者の一人が話した感想だ。

 東日本大震災から12年が経過し、3月11日前後には風化防止などさまざまな関連イベントが実施された。防災に対する意識の「継承」にスポットを当てたという防災・減災啓発企画ワークショップ。これまでヤフーとして3月11日に合わせて「3.11企画」を開催するほか、防災・減災にまつわるさまざまなコンテンツ、サービスを提供してきたが、「東日本大震災発生当時に子供だった世代に取り組みが浸透しているのか、どのように受け取られているのか疑問があった」とZホールディングスCo-CEOマネジメントサポート統括室コラボレーション推進の竹口麻衣子氏。

 「3.11の記憶が色濃く残るサービスを発信する側と受け手の側で、感覚の『ズレ』が生じているのではないか」(竹口氏)――3.11の記憶が曖昧な若い世代が間もなく社会人になり始めるこの時期に、改めて考えてみたいと思ったというワークショップ。同様の取り組みは、来年の3月11日を待たずにまた実施したいと考えている。

ワークショップの最後に記念撮影
ワークショップの最後に記念撮影

(写真/吾妻拓、写真提供/Zホールディングス)

この記事をいいね!する