「Music Lane Festival Okinawa」は日本で行われている希少な音楽ショーケースである。沖縄のコザにアジア各国から業界関係者やアーティストが集いコミュニケーションする。アーティスト同士が共感すれば、楽曲制作やライブパフォーマンスの場で自然とコラボレーションが始まる。アジアの音楽文化交流や発展に寄与することが目的。日本の音楽コンテンツの海外ビジネス展開などにもつながる可能性があるという意味でも注目のイベントの一つだ。

 2023年は2月18日と19日の2日間にわたって開催された。日本国内のほか、タイ、台湾、インドネシア、フィリピン、マレーシア、韓国、米国から関係者やアーティストが集い、日本のアーティストが海外へ、海外のアーティストは日本を含む他国・地域の関係者やアーティストに向けてパフォーマンスを披露した。

 初めて会った関係者たちがアルコールを飲みながらカジュアルトークに興じるオープニングパーティー、関係者やアーティストに向けたビジネスセミナーのほか、アーティストが関係者に自分を売り込める1on1ミーティング「Trans Asia Music Meeting」も併催され、2日間で盛りだくさんの内容だった。

タイ、台湾、インドネシア、フィリピン、マレーシア、韓国、米国から関係者やアーティストが集った
タイ、台湾、インドネシア、フィリピン、マレーシア、韓国、米国から関係者やアーティストが集った

 Music Lane Festival Okinawaは16年に那覇市の桜坂劇場を中心に始まった関係者向けのカンファレンスとショーケースであるTrans Asia Music Meetingに起源がある。

 古くは歌謡曲をフィールドとするフィンガー5や南沙織、沖縄民謡を織り交ぜたポップスで一世を風靡した喜納昌吉&チャンプルーズ、りんけんバンド、ネーネーズなどが沖縄出身だ。安室奈美恵やSPEEDなど数々のアーティストを輩出した沖縄アクターズスクール、独自の世界観を表現したBEGIN、モンゴル800、HY、オレンジレンジなども全て沖縄発で日本全国に活動の場を広げたアーティストたちだ。観光地として名高い沖縄にこうした独特の音楽文化が脈々と根付いていることを受け、沖縄県内では、行政主導で音楽文化を産業に押し上げようと試みた時期もあった。

 Trans Asia Music Meetingを創設した野田隆司氏は、20年から沖縄市(コザ)のミュージックタウン音市場の館長になったことを機に、沖縄市で本格的な国際ショーケースフェスティバルの開催を計画。23年2月にMusic Lane Festival Okinawaをスタートさせた。Laneはメインストリートではない裏通りのこと。常に新しい音楽や文化のムーブメントはそうした場所から始まるという意思が込められた。

 Music Lane Festival Okinawaのベースとなるのが、「Music Lane Okinawa」という音楽ニュース・サイトだ。沖縄やアジアの主にインディペンデントな音楽情報を発信している。サブスクリプション(定額課金)サービス全盛となり、音楽をプラットフォームにアップロードすれば瞬時に世界の隅々まで届けられるようになった。

 しかし、そこでは新たな競争が繰り広げられている。このサイトは、プロモーションの面で、アーティストをバックアップすることが重要なミッションの一つとなっている。また、定期的に行われている「Music Lane Open Lecture」と題した講座も開設。最先端の情報を発信する講師を招いて本格的なレクチャーを行っている。

 こうした動きは、沖縄から、地元のインディーズアーティストを支援し、新たな文化の共創をアジアとつなぐことで盛り上げていくことを目指している。そしてその震源地が東京でなく、沖縄であることに意義があるのだろう。

 そもそも日本には00年代初頭に東京で始まった東京国際ミュージック・マーケット(TIMM)がある。日本音楽産業・文化振興財団(JMCE)という一般財団法人が「日本の音楽を世界へ」「音楽で国際交流を」というミッションを掲げ、毎年秋に海外の音楽関係者を招待して日本の業界関係者との交流やミーティング、セミナーの場を設けている。夜には都内のライブハウスで海外進出を希望する日本人アーティストのショーケースライブが行われ、お酒を飲みながらのカジュアルなチャットの場が設けられる。この3年間は新型コロナウイルス禍でリモート開催を余儀なくされたが、23年はリアル開催が期待されている。

 ではTIMMとMusic Lane Festival Okinawaの違いは何なのか。TIMMはいわゆる日本のメジャーレーベルやマネジメント事務所が参加主体となっているカンファレンスだ。日中はブース出展をしたレーベルや事務所のスタッフがアーティストプレゼンテーションを行い、夜はこうしたレーベルや事務所に所属するアーティストがショーケースでお披露目ライブを行う。

 一方、Music Lane Festival Okinawaではアーティストのほとんどがレーベルや事務所に属さないインディーズアーティストである。沖縄までの渡航・宿泊費を全て自分でまかない、パーティーからミーティングやセミナーにいたる全てのセッションに参加する。

 またTIMMは海外の全ての音楽関係者が対象である。アジアはもちろん、ヨーロッパや北米、そして最近ではアニソン(アニメソング)やJ-ROCKの人気も高い南米の関係者も参加する。23年はアニソン市場が広がる中東からの関係者も予想される。対してMusic Lane Festival Okinawaはアジアに特化している。これは文化・地理的に互いが近接し、親近感を抱くアジアで音楽文化圏を形成しようという主催者の意識が働いているのではないかと考える。

 そしてTIMMはミッションに「日本の音楽を世界に」を掲げているように、アウトバウンドが主体のカンファレンスである。日本での興行を希望する海外のバンドも散見されるが、日本の業界が目指すのはあくまで海外への売り込みだ。海外からの来場者も日本人アーティストの公演を自国で開催したいバイヤーが大半なので、売る側と買う側の目的が一致している。

 一方、Music Lane Festival Okinawaはインバウンドに力を入れている。出演した全43組のうち15組が海外アーティストであることからもその取り組みは実感できる。日本のアーティストもアジアのバンドも他国・地域の関係者に向けてショーケースの場を最大限活用し、海外進出の機会を全力でつかみ取ろうとしていた。

 TIMMとMusic Lane Festival Okinawa。ターゲット市場やアーティストの立場によってどちらを目指すのか選ぶことになるが、Music Lane Festival Okinawaは、日本のアーティストを海外へ、海外のアーティストを日本へという両方の機会が均等に保たれている点で双方向のイベントと言える。

この記事は会員限定(無料)です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
7
この記事をいいね!する