国内最大級の写真映像関連イベント「CP+(シーピープラス)2023」が、2023年2月23~26日の4日間にわたって開催された。パシフィコ横浜(横浜市)およびオンラインのハイブリッド形式。オフライン会場でのイベント開催は4年ぶりということもあり、各ブースやセミナー会場は訪れたカメラファンの熱気でどこも盛況だった。
「CP+」は、写真や映像関連のメーカーが一堂に会する、国内最大級の写真映像関連イベントだ。カメラや映像関連機材のメーカーが出展して製品展示や手にとって試せるタッチ&トライや写真や動画を学べるセミナー、作品展示などを行う。
CP+2023は2023年2月23~26日の4日間にわたり、パシフィコ横浜での会場イベントと公式Webサイトで配信されるオンラインイベントのハイブリッド形式で開催された。前回のCP+2022もハイブリッド形式で開催される予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大によりオンライン開催のみとなったため、会場イベントは19年のCP+2019以来4年ぶり。入場は事前登録制で、各ブースのイベントやセミナーも、その多くが来場者が密集しないように事前予約制にするなど、安心・安全に配慮した形での開催となった。
CP+2023のテーマは、「見つけた、新しいわたし」。一眼カメラを持った若い女性のキービジュアルに象徴されるように、プロの写真家やカメラ愛好家だけでなく、初心者や若年層、Vlog(Video blog)などで動画撮影に興味を持った人たちに向けた展示やセミナーも目立った。オンラインとのハイブリッド開催ということもあり、リアル会場でしかできない各メーカーの体験コーナーも人気を集めていた。
ミラーレスの新製品が大人気のキヤノン
スマートフォンの普及などで低調だったカメラ市場だが、22年は回復傾向だ。カメラ映像機器工業会(CIPA)によると22年デジタルカメラ総出荷は、数量で前年比4.2%減となったものの、金額ベースでは39.3%増の約6812億円となった。高単価・高付加価値の製品が売れる傾向が強まっている。
市場のけん引役となっているのは、レンズ交換式のミラーレスカメラだ。総出荷は数量が前年比31.1%増、金額ベースが61.3%増と好調が続いている。レンズ一体型カメラ、レンズ交換式の一眼レフカメラはいずれも数量・金額ともに前年割れが続いており、ミラーレス一眼へのシフトが市場を支えている。
大手カメラメーカー各社のブースも、ミラーレス一眼一色といった雰囲気だった。キヤノンは、ミラーレスカメラ「EOS R」シリーズの最新モデルとしてCP+2023直前の23年2月8日に発表した「EOS R8」「EOS R50」と、22年11月に発表した「EOS R6 Mark II」の3製品をプッシュ。体験コーナーでは、モデル撮影コーナーのほかに自転車BMXの走行を撮影できるコーナーを用意していた。勢いよく走ってジャンプするBMXにカメラを向け、新製品のAF機能を試す来場者が列を作っていた。
EOS R8は23年4月下旬発売のフルサイズミラーレスカメラだ。上位モデルにあたるEOS R6 Mark IIの基本性能を受け継ぎつつ小型軽量化した。持ってみるとフルサイズとは思えない軽さだ。ダイヤルやボタン類が整理されて数が少なくなっており、シンプルで扱いやすくなっている。カメラのトレンドである、ディープラーニング技術で人物、動物、乗り物などを自動検出するAF(自動焦点)機能も特徴で、エントリーユーザーでも気軽にフルサイズセンサーの画質が楽しめる製品に仕上がっている。
EOS R50はAPS-Cサイズのセンサーを搭載した、EOS Rシリーズ最軽量のモデル。入門者向け一眼カメラとして人気が高いEOS KISSシリーズの「かんたん・きれい・コンパクト」のコンセプトを引き継ぐエントリーモデルだ。持ってみると、驚くほど軽くコンパクトで持ちやすい。フレームに入った被写体を検知して追従するAF機能や、Vlog撮影に向いた動画撮影機能などミラーレス一眼のトレンドをしっかり押さえている。23年3月下旬発売だ。
キヤノンのブースでもう一つ注目を集めていたのが、VR(仮想現実)/MR(複合現実)体験コーナーだ。製品の設計やデザイン、工場のレイアウトなどに利用されている業務向けソリューションを使ったデモで、取材したときは午前の段階で4時間待ちとなるほどの人気だった。キヤノンのMRヘッドセットを使ったMRコーナーを体験してみたところ、ダンサーが踊る映像をVRとMRで視聴する内容だった。MRになると周囲の映像にダンサーの映像が合わさり、ヘッドセットの視野角の広さや画質の良さと相まって、まるで実際にダンサーが目の前にいるかのような感覚で視聴できた。
AF性能や動画撮影用機材に注目集まるソニー
YouTubeをはじめとした動画投稿サイトが人気を集めるなか、スマホによる撮影では画質や機能に満足できない人が増え、その受け皿として動画撮影機能を重視したミラーレス一眼やコンパクトカメラが人気を集めている。
Vlogの動画撮影に向いたカメラをいち早く手掛けてきたのがソニーだ。会場ではキヤノンと同じく最大規模のブースを構え、ミラーレス一眼「α」シリーズのほか、Vlog撮影向きの「VLOGCAM」シリーズや映画のような表現ができる「Cinema Line」シリーズなど、エントリー向けからプロ向けまで映像制作機材をずらりと展示し、実機の体験コーナーやセミナーも盛況だった。
「α7R V」は22年11月に発売された最新モデルだ。αシリーズの中でも解像度の高さを重視したモデルで、AI(人工知能)処理に特化したプロセッシングユニットを搭載し、高い精度の被写体認識AFも特徴となっている。人、動物、鳥、昆虫、車や列車、飛行機を認識可能で、例えば人物なら被写体の骨格情報からその動きを高精度に認識する。体験コーナーでは、後ろを向いていたモデルが振り返って横顔が見えた瞬間に瞳にAFが合うなど、強力なAF性能を体験できた。
撮影した写真や動画の活用方法もアピールしていた。YouTuberなど動画を撮影するクリエイターの増加に対応したもので、例えばクラウドサービス「Creators Cloud」は、撮影した静止画や動画をクラウドに保存して展示できる。さらに動画については手ぶれ補正やノイズ除去などを施して、本格的な動画編集を行う前の下処理ができるようになっている。
もう一つ、注目を集めていたのは、ロービジョン者(視覚の障害によって生活になんらかの支障を来している人)に向けた網膜投影カメラキット「DSC-HX99 RNV kit」だ。ソニーの高倍率ズーム対応コンパクトデジタルカメラ「DSC-HX99」と、QDレーザのレーザ網膜投影技術を応用したビューファインダー「RETISSA NEOVIEWER」を組みあわせたもの。センサーがとらえた景色を網膜に投影することで、視力に依存しない視覚体験が得られる。
実際にファインダーをのぞいてみると明るく鮮明で、一般のビューファインダーをのぞいているのと変わらない感覚で撮影できた。唯一違うのは、普段は見えない眼球表面の細かなごみまで見えること。社会貢献的な色合いの濃い製品で、効果があるかどうかソニーの直営店舗で実機を体験した人のみ購入可能となっている。23年3月24日発売で、価格は10万9800円(税込み)とDSC-HX99の価格に約1万円プラスした程度に抑えられている。
2つのマウントを展開するパナソニック
ミラーレス一眼をはやくから手掛けてきたパナソニックは、Lマウントとマイクロフォーサーズの2つのマウントを展開している。会場ではLマウントの「LUMIX S5II」とマイクロフォーサーズの「LUMIX GH6」を中心に、それぞれのマウントのボディーとレンズを展示し、実機での撮影体験を重視した展示を行っていた。体験コーナーで実機とレンズを試せたほか、事前予約制でランウェイを歩くモデルを撮影できるモデルシューティング、会場外でのモデル撮影などより実際の撮影に近い体験ができるフォトウォークも行っていた。
注目は、フルサイズセンサーを搭載したLマウントのミラーレスカメラLUMIX S5IIだ。23年2月16日に発売されたばかりで、シリーズ初の像面位相差AFと強力な手ぶれ補正機能、連写性能が特徴。ハンズオンとは別にAF機能の精度や速度を試せるコーナーも設置していた。LUMIX S5IIに映像圧縮フォーマットApple ProResへの対応を付け加えるなど、より映像制作や動画配信向け機能を強化した「LUMIX S5IIX」も展示していた。こちらは23年6月発売予定となっている。
(写真/湯浅英夫)