メルカリの子会社で、暗号資産やブロックチェーンに関するサービスの企画・開発を担うメルコイン(東京・港)が、メルカリアプリ内で暗号資産のひとつ「ビットコイン」の売買ができるサービスを2023年3月9日から始めた。メルカリのユーザーから見ると、メルカリで物を売って得た残高を使って資産を運用する手立てが加わり、サービスの使い勝手が向上したことになる。しかし、メルカリの狙いはそれだけにとどまらない。真の狙いを読み解いた。

メルカリアプリ内で暗号資産のひとつ「ビットコイン」の売買ができるサービスの開始を発表したメルカリ執行役員CEO(最高経営責任者) Fintech兼メルペイ(東京・港)代表取締役CEOの山本真人(マーク山本)氏(左)とメルコインCPO(最高プロダクト責任者)の中村奎太氏(出所/メルコイン)
メルカリアプリ内で暗号資産のひとつ「ビットコイン」の売買ができるサービスの開始を発表したメルカリ執行役員CEO(最高経営責任者) Fintech兼メルペイ(東京・港)代表取締役CEOの山本真人(マーク山本)氏(左)とメルコインCPO(最高プロダクト責任者)の中村奎太氏(出所/メルコイン)

 メルコインが今回提供するサービスによって、審査はあるものの(例えば20歳未満や75歳以上のユーザーは今回のサービスを利用できない)、メルカリユーザーはメルカリアプリから最短30秒で申込手続きを終え、代表的な暗号資産のひとつであるビットコインの売買を直ちに始められる。「暗号資産に詳しくないライト層を当初のターゲットに想定したため、売買できる暗号資産は分かりやすくビットコイン1種類だけに絞った」(メルコインCPO[最高プロダクト責任者]の中村奎太氏)が、将来は取扱銘柄を増やす考えだ。

 メルカリのユーザーは、メルカリ上での売買で得た売り上げやポイントに加え、金融機関からチャージして得た残高も使って、アプリ上で日本円表記されたビットコインを1円から購入できる。また購入したビットコインを売却すると、売却額はアプリのメルペイ残高に計上される。ビットコインの相場が値上がりし、売却価格が購入価格を上回れば、ユーザーはビットコインを活用して資産を運用し、膨らませたことになる。その際、ユーザーが負担するのは、購入時1%、売却時1%、計2%の「スプレッド」(購入価格と売却価格の差)だけ。他に手数料は発生しない。

 ただし、手元のビットコインを買い物の支払いに直接充てたり、ユーザー間で送金したりすることはできず、1度購入したビットコインはメルペイ残高に戻してから、原則としてメルカリでの売買に使うというのが今回の仕組みの特徴だ。素直に見れば、メルカリとメルコインはユーザーに対して、資産運用のための選択肢としてビットコインを用意したように見える。

暗号資産を使った決済やNFTの売買などを見据える

 だが、単純に資産運用の選択肢としてならば、他社と提携するなどの手立てで、株やFX(外国為替証拠金取引)、それに最近流行している投資信託の積立サービスなどを用意する手もあったはず。暗号資産であるビットコインの売買をあえて用意したのは、資産運用だけにとどまらず、他にも暗号資産を活用したいというメルカリの深慮遠謀があるからだ。

 メルカリが狙うのは、多くのメルカリユーザーに暗号資産に早く慣れてもらい、資産形成だけでなく、暗号資産を使った決済や、ブロックチェーン技術を活用したNFT(非代替性トークン)の売買などに、近い将来、踏み込んでもらうことだ。

 最近は、音楽や動画などのデジタルコンテンツをオンラインで売買するのは当たり前。代替不可能な唯一無二のデジタルコンテンツ(NFT)として提供される絵画やゲーム内アイテムなども、数多く登場し、一部の先進的なユーザーの間に浸透している。

 こうした流れを踏まえ、メルカリ執行役員CEO(最高経営責任者) Fintech兼メルペイ代表取締役CEOの山本真人(マーク山本)氏は、「これまで物の売買を扱ってきたメルカリにとって、デジタル上での資産の売買は当然広げていくべき領域であり、今後、検討を進めていく」と明言する。

 ブロックチェーン技術に基づいてこうしたデジタルコンテンツを売買できるマーケットプレースをメルカリ自身がプラットフォームとして提供するのか、既存のマーケットプレースを利用する形を取るのかは、まだ定かではない。しかし、近い将来、暗号資産でデジタルコンテンツを売買できるマーケットをメルカリがユーザーに提供するのは間違いない。今回開始したビットコインを売買できるサービスは、“そのとき”が到来したとき、ユーザーにあらかじめ暗号資産の取引に慣れ親しんでおいてもらうための布石なのだ。

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