任天堂のNintendo Switch用ゲーム「マリオカート8 デラックス」の世界累計販売数量が、2017月4月の発売から5年で、5200万本(22年12月末時点)に到達した。単独ハード用のタイトルで5000万本を超えたのは、ゲーム史の中で2本目。この強さの理由と、Nintendo Switchの今後を占う。

任天堂の「マリオカート8 デラックス」。スーパーファミコン時代から続く人気シリーズのNintendo Switch用タイトルだ
任天堂の「マリオカート8 デラックス」。スーパーファミコン時代から続く人気シリーズのNintendo Switch用タイトルだ

 「マリオカート8 デラックス」の世界累計販売数量が2022年12月末に5200万本に到達した。5000万本を超えるのは、任天堂の単体ハード用ゲームタイトルとしては2本目だ。ただし、トップの記録、世界累計販売数量8290万本を持つWii用ソフト「Wii Sports」は、欧米ではWii本体に同梱(どうこん)して販売された。つまり純然たるソフト単体で5000万本を突破したのは「マリオカート8 デラックス」が初めてで、これはゲーム史に刻まれる快挙といっていい。

 北米のゲーム・エンタメ情報サイトIGNの調査によると、クロスプラットフォーム向けのタイトルを含めたランキングでも、これを超えるのはたった5本しかない。「テトリス」(米エレクトロニック・アーツ)、「Minecraft(マインクラフト)」(スウェーデーンのモヤン)、「グランド・セフト・オートV」(米ロックスター・ゲームズ)、「Wii Sports」(任天堂)、「PUBG」(韓国クラフトン)で、「マリオカート8 デラックス」は、これらに次ぐ6位にランクインしている(パッケージソフトのみの順位。基本無料のアプリのダウンロード数などは含まない)。

「マリオカート8 デラックス」はさまざまな仕掛けのあるサーキットで、トップを目指すレースゲームだ
「マリオカート8 デラックス」はさまざまな仕掛けのあるサーキットで、トップを目指すレースゲームだ

 興味深いのは、この快挙がほとんど話題になっていないことだ。20年に発売され、22年12月末までに世界累計4159万本を販売した「あつまれ どうぶつの森」(任天堂)は、発売直後からの人気ぶりが世界中のメディアで大きく取り上げられた。日本でも同様で、「あつ森(あつまれ どうぶつの森)」が20年のユーキャン新語・流行語大賞トップ10に入ったことはその表れである。

 それらと比べると、「マリオカート8 デラックス」に関する報道は極めて少ない。おそらく10分の1にも満たないのではないか。しかし、こうして話題にならないことこそが、「マリオカート8 デラックス」のすごさでもある。

 「好きな食べ物は?」という質問に対して「白いご飯」と答える人は少ないだろう。わざわざ白いご飯の魅力を他人に力説する必要がないからだ。「マリオカート8 デラックス」も同じだ。当たり前のように存在する、あまりに定番のタイトルであり、その面白さは世代を超えて、多くの人が知っている。だから改めて語られることがなく、話題にもならない。ただ販売本数だけが、着々と伸び続けてきたのだ。

「マリオカート」はなぜこんなに愛される?

 ではなぜこれほど多くの人が「マリオカート8 デラックス」を面白いと思うのか。

 理由の1つは、当然のことながら、レースゲームとして優れていることだ。任天堂の人気キャラクターが総出演する華やかさ、多彩なコースを48もそろえるボリューム感(有料配信コンテンツにより、さらに48のコースが追加されつつある)、1人でのタイムアタックからコントローラーを持ち寄ってプレーする最大8人での対戦プレー、ネットを介した最大12人でのオンライン対戦プレーまで対応する遊び方の幅広さなどが魅力となる。

 アイテムを使ってライバルを妨害できるため、順位が目まぐるしく変動することも、他のレースゲームとの違いだ。順位が下になるほど強烈なアイテムが入手しやすくなり、誰にも一発逆転のチャンスが訪れる。「うまい人が勝ちやすいが、下手な人にもチャンスがある」というバランス調整は、「マリオカート8 デラックス」ならではの持ち味だ。

任天堂の人気キャラクターたちがレーサーとして登場する
任天堂の人気キャラクターたちがレーサーとして登場する
走るだけでなく、亀の甲羅などのアイテムを使って妨害できるのがこのゲームの魅力
走るだけでなく、亀の甲羅などのアイテムを使って妨害できるのがこのゲームの魅力
レースの舞台は地上だけではない。空を飛んだり、水中に潜ったりすることも
レースの舞台は地上だけではない。空を飛んだり、水中に潜ったりすることも

 もう1つ、筆者が強調したいのが、使用するボタンが少ないことだ。一般的なレースゲームは、少なくとも「アクセル」「ブレーキ」「ハンドル」の3つを操作する必要がある。リアル指向のレースゲームなら、これに「ギアチェンジ」も加わる。レースゲームというのは、素早い判断とそれに合わせた3~4種類の入力が常に要求される難易度の高いジャンルなのである。

 しかし「マリオカート8 デラックス」は違う。コーナーを回るときは、Nintendo Switchの「Aボタン」でアクセルをベタ踏み。ドリフトしたほうが速く駆け抜けられるので減速の必要がなく、アクセルとブレーキを使い分けての操作がいらないのだ。コーナー直前で「Rボタン」を押して「ちょん」とジャンプすれば、ドリフトが発動するので、あとは左右にハンドルを切るだけで快適かつ爽快にマシンを走らせることができる。

 このシンプルさゆえに、ゲームの初心者でもすぐに楽しめる。しかも操作方法が、1992年発売の初代「スーパーマリオカート」(スーパーファミコン用ゲーム)から、ほとんど変化していない。歴代シリーズをプレーした経験がある人は、すぐになじめるのだ。こうして、ゲームを買ってもらったばかりの小さな子供から、30年前にゲームに親しんでいた50~60代まで、誰もがすぐにストレスなく楽しめるのである。

コントローラーを握れなくても楽しめる

 しかも「マリオカート8 デラックス」では、操作をさらにシンプルにする工夫をしている。鍵となるのが、コースアウトを防ぐ「アシスト」機能、常にアクセルをONにする「オートアクセル」機能だ。手元にソフトがある方は、上記機能をONにして、マシンの最高速度が最も遅い50ccでプレーしてみてほしい。レースを開始したら、あとはコントローラーに触れなくていい。それでもマシンはコースに沿って進み(コースアウトを防ぐのだから当然である)、そのままトップ争いを演じるはずだ。

「アシスト」と「オートアクセル」をONにすると、驚くくらいゲームが楽になる
「アシスト」と「オートアクセル」をONにすると、驚くくらいゲームが楽になる

 お分かりだろうか。なんとコントローラーを操作しなくてもレースが成立するのだ。すると何が起きるのか? 見よう見まねでコントローラーを握っている未就学児ですら、レースを楽しめてしまうのである。ときどきアイテムを使ってライバルを妨害するだけで、年上のお兄ちゃん、お姉ちゃんたちといっしょに、抜きつ抜かれつのレース(をした気分)が味わえるのだ。こうした工夫は、常に新しい世代のユーザーを取り込み、ゲームの裾野を広げることにつながっていく。

 なお、超上級者向けモードである200cc以上のレースやバトルモードでは、ボタンを押し分けてのブレーキングが勝利の必須テクニックとなることは付け加えておこう。

 世の中には、初心者でも楽しめるゲームはたくさんある。しかし、コントローラーを操作できない子供でも楽しめるゲーム、ましてや本来は反射神経を必要とするジャンルでありながら、操作しなくても楽しめるゲームなど「マリオカート8 デラックス」くらいしか存在しないのではないか。

 先ほど、筆者はこのゲームを「白いご飯」に例えたが、それは正しくないかもしれない。これは歯が生える前の子供が食べられる離乳食としても、おいしいのだ。まさしく全世代に対応したゲームである。

Nintendo Live 2022の「マリオカート8 デラックス」のコーナー。年齢を問わず、誰もが夢中になって楽しめるゲームだ
Nintendo Live 2022の「マリオカート8 デラックス」のコーナー。年齢を問わず、誰もが夢中になって楽しめるゲームだ
実力差があっても、みんなで楽しく対戦できるのが魅力
実力差があっても、みんなで楽しく対戦できるのが魅力

Nintendo Directから漂う世代交代の気配

 「マリオカート8 デラックス」を筆頭に、先の「あつまれ どうぶつの森」「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」(世界累計3044万本)など、2000万本超えのソフトを7タイトルも放ったNintendo Switchは、いまやゲーム史に残る成功を収めたハードとなった。2022年12月末時点での累計販売台数は、Wiiの1億163万台を優に超え、1億2255万台に到達。いまなお毎年2000万台以上をコンスタントに売り続けていて、23年末にはニンテンドーDSが持つ1億5402万台という大記録に迫る見通しである。

 とはいえ、そろそろ次世代機への世代交代の気配が漂っているのも事実だ。それを如実に感じさせたのが、23年2月9日の任天堂公式配信「Nintendo Direct 2023.2.9」だった。「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」の発売が5月12日、「ピクミン4」の発売が7月21日に決定したとアナウンスされ、ユーザーは大いに盛り上がったのだが、真に注目すべきはそこではない。

 Nintendo Directは、今後数カ月以内に発売されるタイトルをアナウンスするものだが、同時に約1年後に発売されるタイトルの情報も、ちょっとだけ告知されることがある。例えば「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」の情報が初めて告知されたのは19年6月の配信。21年6月の配信でトレーラー映像が公開となった。「ピクミン4」の告知は、22年9月の配信だ。このように、Nintendo Directは「未来にも大作ソフトが登場しますよ!」というアピールの場になってきたのだ。

 しかし今回、そういった未来の大作ソフトの情報はなかった。このことから「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」と「ピクミン4」、この2つの看板タイトルの発売を最後の花道として、Nintendo Switchは後継機へと世代交代する可能性は高い。

 昨今の任天堂の大作ソフトは、発売後も追加コンテンツがリリースされるため、発売から6~9カ月くらいは人気は継続する。また「マリオカート8 デラックス」の追加コンテンツも、現状は23年末までに全48コースを追加するとされている。それらを勘案すると、おそらく23年末~24年春あたりに、なんらかの動きがあるのではないか。この筆者の予想が当たるかどうか、1年後を楽しみに待ちたい。

©2017 Nintendo

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