近年、企業によるプロeスポーツチームの買収が相次いでいる。中でも話題になったのが、大丸松坂屋百貨店、パルコなどを傘下に持つJ.フロントリテイリングが2022年10月27日、プロeスポーツチーム「SCARZ(スカーズ)」を運営するXENOZ(ゼノス、川崎市)買収を発表したことだ。本記事ではXENOZの友利洋一代表にその狙いを聞いた。

プロeスポーツチーム「SCARZ」を運営するXENOZはJ.フロントリテイリングの子会社となった。その狙いをXENOZの友利洋一代表が語った
プロeスポーツチーム「SCARZ」を運営するXENOZはJ.フロントリテイリングの子会社となった。その狙いをXENOZの友利洋一代表が語った
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 XENOZは、「VALORANT(ヴァロラント)」や「Rainbow Six Siege(レインボーシックス シージ)」などのシューティングゲームを中心に、さまざまなカテゴリーのタイトルに参戦しているプロeスポーツチーム「SCARZ」を運営する。国内を中心に多くの所属者を抱えると同時に、欧州、タイ、台湾などグローバルでも展開しているチームだ。

 SCARZは2012年に発足した老舗eスポーツチームだ。代表を務める友利洋一氏はシューティングゲーム「バトルフィールド」シリーズにのめり込み、ギルド(オンラインゲーム内のプレーヤー集団)をつくったことをきっかけに、チーム運営に携わるようになった。

 「ちょうど海外で“eスポーツ”が盛り上がり始めたころで、世界大会も開催されていた。日本人プレーヤーも世界で活躍してほしいと思い、アマチュアゲーミングチームだったSCARZを引き継ぎ、プロチームに昇華させた。SCARZ運営のためにXENOZを設立した」と友利氏は説明する。

 プロチーム発足当時、日本ではeスポーツが一般にまだ浸透しておらず、企業からの支援も物品の提供がほとんどだった。そこから踏み込んで、資金提供が盛んになってきたのは、18年ごろから。Z世代を中心とした若い世代にリーチしやすいエンターテインメントとしてeスポーツが認知されるにつれ、企業からSCARZおよびXENOZへのアプローチも増えてきたという。

 その流れの中で、XENOZはJ.フロントリテイリングの傘下に入ることを決めた。その理由として、友利氏は「資金力の確保」を挙げる。

 「我々の願いはSCARZを世界一のチームにすること」(友利氏)。それには、先行する海外のeスポーツチーム並みの運営体制と、それを実現できるだけの資金が必要となる。時間をかけて取り組めば、自社だけでも目標に近づくことができるかもしれないが、そこまでは待てない。そう判断した友利氏は、M&Aによって最短の道を模索することを決めた。

 「XENOZとして組める企業はどこか。さまざまな企業と話をする中で、一番熱心に話を聞き、こちら意図を理解してくれていると思ったのが、J.フロントリテイリングだった」と友利氏は話す。

XENOZの知見×J・フロントのノウハウ

 XENOZからJ.フロントリテイリングに提供する強みは、Z世代を中心とする若年層へのエンゲージメントの高さとデジタル領域の知見だ。加えて、多くの人が集まる百貨店やショッピングセンターはeスポーツとの親和性が高いとも分析する。

 eスポーツは本来、老若男女を問わず楽しめるエンターテインメントだ。近年は親子で対戦したり、観戦したりする人たちも増えてきた。家族連れで訪れることも多い百貨店・ショッピングセンターならば、チームのファンミーティングや親子参加型のゲームイベントを開催したり、買い物中に子供を預けられるeスポーツ施設を設けたりすることも可能になるだろう。

「eスポーツには新たな展開が必要」と語る友利代表
「eスポーツには新たな展開が必要」と語る友利代表
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 また、eスポーツは現在、グローバルで注目度が高い。SCARZは国内・海外の大会で活躍の実績があり、欧州を拠点とするSCARZ EUを設立し、海外展開も進めている。新型コロナウイルス禍が収束し、インバウンドが本格的に復活すれば、海外からの観光客来場の呼び水になる可能性もある。

 一方で、J.フロントリテイリングに期待を懸けるのは、“リアル”なビジネスに関わるノウハウだ。この数年の新型コロナ禍もあり、これまでeスポーツはオンラインのイベントやコミュニティーをベースに拡大してきた。「だがeスポーツをより大きなビジネスにしていくには、新しい展開も必要。今後は、オンラインからオフラインにステージが拡大していくと思う。リアルでチームや選手に会える場所の重要性も増すだろう。それには、百貨店ビジネスで培ってきたJ.フロントリテイリングのノウハウが必要だ」(友利氏)

 “リアル”での存在感は、友利氏がかねて重視してきた要素だ。XENOZは、拠点のある川崎市などと協力、同市でeスポーツ施設「SZ HIDEOUT」を運営している。こうしたリアルでの活動を、今後一層強化する意思が友利氏には強い。

 「そのためにも資本提携、業務提携ではなく、子会社という道を選んだ。J.フロントリテイリングとともに長期的視野で取り組んでいきたい」(友利氏)。それによって、スポンサー収入がメインのビジネスモデルも変革していく考えだ。eスポーツでは一般に、収益の7割をスポンサー収入が占めているが、友利氏の目標は、チームのIP(知的財産)関連事業での売り上げを7割にすること。かなり大きな目標だが、実現は可能と見る。

 一方で、懸念となるのは、チーム経営の自由度の低下だ。SCARZはこれまでゲームコミュニティーを発祥とするいわゆる独立系のチームとして運営してきたが、非ゲーム系企業が経営に参入することで、従来の活動や基盤が揺らぐことはないのか。

 この疑問に対して、友利氏は「実際に子会社になってみて、デメリットはまったく感じていない」と言い切った。「むしろグループ会社になって、これまでとは違う立場からの意見も聞けるようになったのは大きなメリットです。ある種好きなように、やりたいように運営してきた中、自分にない意見や発想に触れることで、さらなる将来性を見いだせるようになった。自分自身の成長にもなったと思っている。目的に達するための手段が増え、多くの選択肢から選べるようになったという実感もある」(友利氏)

 ゲームタイトルによっては、eスポーツリーグに参入する条件として、売り上げ規模や資本力などの基準を設けるケースもあると聞く。数年で撤退、解散することがない、安定した経営基盤を求めるためで、今後はそうした基準を設けるリーグや大会が増える可能性も十分にある。独立系のチームでは、到達できないレベルになるかもしれない。また、フィジカルスポーツのように、チームの勝利のために高額で有力な選手を確保する選手獲得競争も激しくなっていくだろう。eスポーツ市場の拡大とともに、eスポーツチームも資本力を拡大する必要があると友利氏は見ているのだ。

(写真/岡安学、編集/平野亜矢)