公益財団法人日本デザイン振興会(東京・港)による「2022年度グッドデザイン大賞」に輝いた「まほうのだがしやチロル堂」は、貧困や孤独といった環境にある子供たちを、地域で支えることを狙った駄菓子屋。入り口に置かれたカプセルトイの機器を使い、子供専用の店内通貨「チロル札」で金額以上の買い物ができる。2021年8月に奈良県生駒市で開店したチロル堂だが、設立趣旨に共感した人たちによって22年7月には金沢市で、同年12月には大阪府四条畷市にも同様の店舗ができた。発案者の1人であるアトリエe.f.t.(大阪市、奈良県生駒市)代表の吉田田タカシ(よしだだ・たかし)氏に、これまでの経緯などを聞いた。
まほうのだがしやチロル堂 共同代表
――なぜ、チロル堂のような方式を考えたのでしょうか。
吉田田タカシ氏(以下、吉田田) もともとは、貧困の子供に低額や無料で食事を提供する「こども食堂」として「たわわ食堂」を地元の公民館で運営する溝口雅代さんから、“新型コロナ禍で公民館が借りられずに困っている”という声を聞いたことがきっかけでした。溝口さんのほか、合同会社オフィスキャンプ(奈良県東吉野村)の坂本大祐さん、一般社団法人 無限(奈良県生駒市)の代表理事の石田慶子さんも地域の友人たちで、以前から地域のために何か活動したいと話していましたから、“公民館が借りられないなら、どうしたらいいか”と考えるようになったのです。そこで、新しい場所を使って活動するにしても、今までと同じやり方ではなく、こども食堂が持っている課題を解決できないだろうか、と話が進みました。
僕が思っていた課題というのは、こども食堂に来る子供たちは情けない思いをしていないだろうか、と感じていたことです。安いお金で食事を頂けることは良いことですが、その半面、何か恥ずかしいことをしているという思いが子供にはあるかもしれません。こども食堂に出入りすることで、偏見の対象になる場合もあるでしょう。“あそこは貧しい家庭じゃないか”と言われると、本当に困っている子供は来ないかもしれません。「食事を与える側」と「食事を与えられる側」という関係性にすると、子供にみじめな思いをさせてしまう。
では、どのようにデザインをすれば、子供が恥ずかしくない場所にできるか。こうした点が、チロル堂を思いつく原点になりました。そこで駄菓子を売っている店舗ということにして、自由に出入りしても偏見の対象にはならないようにしたのです。
大人が子供を支える仕掛け
――そこで考えた仕組みが、チロル堂だったのですね。
吉田田 はい。チロル堂の店内には、子供が1日1回だけ100円で回せるカプセルトイの機器があります。そこには店内通貨の「チロル札」が1~3枚入っていて、1枚で100円分の買い物が店内でできるほか、1枚で店内で提供するカレーライスを1杯、食べられるようにしています。
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