インクが薄い――パイロットの消せるボールペン「フリクションボール」は、人気商品でありながら、長年、ユーザーから不満が上がっていた。これを解消したのが、2022年11月発売の新作だ。インクの濃さや容量を改善。さらに機能性とデザイン性を両立した高級モデルのラインアップを拡充することで、ビジネスの現場でもスタイリッシュに持てるようにした。これが奏功し、「想定を超える売れ行き」だという。

パイロット「フリクションボールノックゾーン」。ラインアップは3種類あり、左から3300円、2200円、550円で展開
パイロット「フリクションボールノックゾーン」。ラインアップは3種類あり、左から3300円、2200円、550円で展開

 パイロットの消せるボールペン「フリクションボールノック」の新ブランド「フリクションボールノックゾーン」は、長きにわたってユーザーから寄せられていた、インクの濃さや容量の増加を望む声に応え、従来品より、“濃く・長く”書けるよう進化させた。ユーザーの期待は大きく、「フリクションの新製品は発売直後から売れる傾向があり、販売数を見込んで生産したにもかかわらず、その想定を超える売れ行き」と、パイロットコーポレーション広報部の田中万理氏は話す。

 今回のフリクションボールノックゾーンのラインアップは3種類。手に取りやすい550円(税込み、以下同)モデルのほか、高価格帯の商品として、グリップを木製にした2200円モデル、マーブル調にした3300円モデルを用意した。基本的なデザインは共通だが、軸やグリップの素材で高級感に差をつけた。いずれもインクは黒色のみ。別売の替え芯「フリクションボールレフィルver.2」(2本入り550円)は、黒、赤、青の3色をそろえた。

「フリクションボールレフィルver.2」。写真は0.5ミリメートルタイプだが、0.7ミリメートルタイプもある
「フリクションボールレフィルver.2」。写真は0.5ミリメートルタイプだが、0.7ミリメートルタイプもある

 従来品からの最大の進化は、レフィルにある。従来の樹脂レフィルから金属レフィルに変更し、インクを包むパイプの厚みを薄くすることで、1本当たりのインク容量を70%アップした。インクの色は濃くなり、黒色は現行のレフィルに比べて30%、赤色と青色は15%アップさせた。フリクションボールは、06年の発売当初からインクの色、特に黒色の薄さが指摘されていた。発売時はグレーと呼ぶほうが正しいと思える色だった。それから細かいアップデートを重ねて濃くなっていき、今回、一気に30%濃くなった。

レフィルのパイプを樹脂から金属に変え、強度やサイズをほぼ変えずに、パイプを薄くすることに成功
レフィルのパイプを樹脂から金属に変え、強度やサイズをほぼ変えずに、パイプを薄くすることに成功
左が既存のフリクションインキ、右が新しいフリクションインキ。30%濃くなったという
左が既存のフリクションインキ、右が新しいフリクションインキ。30%濃くなったという

 開発を担当したマーケティング部筆記具企画課の長田康暉氏は、「金属レフィルは、最大径は若干違うものの、従来のレフィルと全長は同じ」と話す。レフィルに互換性があるため、従来のフリクションボールにも金属レフィルが使用できる。3本入り330円の樹脂レフィルと比較すると、1本当たりの価格は2倍以上になるが、容量が増え、色が濃くなるメリットを考えると、金属レフィルも選択肢に入る。ただし、金属製なので多少重く、筆記の際の重心バランスが若干変わる点は注意が必要だろう。

 実際に書き比べると、確かに見て分かるほど色が濃くなっている。一般のゲルインクボールペンに比べれば、まだやや薄い感じはあるものの、十分“黒”と言っていい。濃くなった分、0.5ミリメートルの極細字タイプでも読みやすくなり、手帳などの限られたスペースに書き込むのにより適した製品になった。

インクの色は、十分“黒”と言っていい
インクの色は、十分“黒”と言っていい
2200円タイプの木製グリップ。センターのリングも高級感がある
2200円タイプの木製グリップ。センターのリングも高級感がある

 ほかにも、筆記時のペン先のガタつきを抑える「チップホールドシステム」とノック音を抑える「ノイズカットノック」という機能を搭載した。チップホールドシステムは、ノックして繰り出したペン先を、三又形状のパーツでしっかりとつかむ機構。ノイズカットノックは、レフィルの後部にバネを仕込み、ノック時の衝撃を和らげるクッションの役割を果たす機構だ。

機能とデザインのバランスを重視

 機能性を追い求める一方、ペンとしてのデザイン性も高めた。特に、2200円と3300円の高価格帯モデルに搭載した樹脂グリップの美しさが際立つ。3300円のグリップは、従来、5000円以上のモデルで採用していたものだという。握ったときのフィット感も良く、グリップの形状が太鼓型(中央が少し膨らむ)なのが握りやすさにつながっている。

3300円タイプの樹脂グリップ。太鼓型の成形で指の収まりが良い
3300円タイプの樹脂グリップ。太鼓型の成形で指の収まりが良い

 これまでも「フリクションポイントノックビズ」(3300円)、「フリクションボールノックビズ」(2200円)といった高価格帯モデルのラインアップはあったが、いずれも金属軸を採用して、従来の高級ボールペンのような高級感を強調したモデルだった。「今は、高く見えるものを買うというより、価格に見合ったデザイン性の高い商品を買うという購買志向の流れがあると感じている」と長田氏。そこで機能性とデザイン性のバランスを調整した。

 デザイン性へのこだわりは、インクを擦るラバーにも表れる。従来の高価格帯モデルには半透明の消去用ラバーが付いていた。ラバーが露出していると安っぽく、キャップでラバーを隠すデザインにしていたが、使用時にキャップを外す必要があり、使い勝手が悪かった。今回はラバーを軸の色に近いグレーや黒にし、統一感のあるデザインにした。

 グリップは、2200円の木製が一番指にしっくりきた。金属レフィルに代わったことで、最も筆記時のバランスが取れているように感じた。また、木製グリップは使い込むとツヤが出て手になじむなど、経年変化も楽しめそうだ。

左が従来のラバー、右が新しいラバー。軸と統一感のある色味になり、形も角があるタイプに変更。高級感と消しやすさの両立を実現した
左が従来のラバー、右が新しいラバー。軸と統一感のある色味になり、形も角があるタイプに変更。高級感と消しやすさの両立を実現した

 統一感のあるデザインに塗装された樹脂の軸と高級感ある素材を使ったグリップという組み合わせは、普段から良い筆記具を使いたい層にヒットすると感じた。高価格帯の筆記具といえば、誰かに贈るギフト用途が中心だったのに対し、フリクションボールノックゾーンは自分用に購入するケースも多いという。ビジネスの現場でもスタイリッシュに持てるフリクションボールが、ようやく登場したと言えるだろう。

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