外国人による日本の不動産購入が話題となっている。背景には2022年の春ごろに始まった急激な円安があるといわれるが、それだけではないようだ。外国人向け不動産投資ビジネスを日本で展開するジャパンハナ不動産(香港)のガラス・ウー共同創業者兼社長に、外国人が日本に注目する理由を聞いた。
人気は恵比寿や六本木。世田谷は売れない
近年、外国人による日本不動産の爆買いが話題に上っている。2023年2月には中国人女性が日本の島を買ったことをショート動画プラットフォーム「TikTok」で報告し、中国だけでなく日本のネット上でも物議を醸した。
日本、中国、米国、英国にバックグラウンドを持つジャパンハナ不動産のガラス・ウー社長は「実は、13年のアベノミクスで円安の流れが生まれたころから日本の不動産にポテンシャルを見いだしている外国人はいた」と話す。
「22年の春ごろから急激に円安が進行したことで日本の不動産物件が割安になり、物件を購入しやすくなった。円安が日本の不動産に投資しようかどうか迷っていた人の背中を押した」とウー社長。
ジャパンハナ不動産のケースでは、日本の不動産を購入する外国人の5割が個人の富裕層。残りの5割は企業やファンドなどの法人とのこと。ウー社長は「個人の場合は、ビジネスや観光で日本をよく訪れる人がセカンドハウスとして戸建てやマンションの一室を買う。法人の場合はマンションやビルの建物全体、土地などに投資する」と言う。
個人の客には東京都内の1億~2億円程度のタワーマンションが人気で、彼らは現金で買うらしい。また、1000万~2000万円ほどの地方都市の物件も売れ筋だという。ウー社長は「香港の物件と比べると、同じ価格帯なら日本のマンションのほうが広く、水回りなども整備されているため、コストパフォーマンスが高い」と、日本の不動産が売れる理由を説明する。
立地的に売れやすいのは繁華街に近いエリアだ。「東京都内なら恵比寿、六本木が人気。逆に(日本では高級住宅地のイメージがある)世田谷の物件は、土地勘のない外国人には売れない。23区から外れるとさらに難しくなる」とウー社長。また、地震の懸念から鉄筋のマンションは売れるが、木造アパートは厳しいそうだ。
少子化による人口減が背景にあるため、長期的に見ると日本の不動産は値下がりしそうに思えるが……。ウー社長は「日本はまだ英語でビジネスを展開しにくいところがある一方で、製造業を中心とした技術力は高い。これから国際化が進んでいけば、まだまだポテンシャルがある国だと外国人の目には映っている」と言う。
税率が下がったら売却
日本の場合、購入から5年以下で売却した不動産にかかる短期譲渡所得の税率は約40%(所得税+復興税30.63%、住民税9%)。5年を超えて保有した場合の長期譲渡所得なら約20%(所得税+復興税15.315%、住民税5%)と、税率に約2倍の開きがある。そのため日本の不動産を購入した外国人は、税率の高い5年間は賃貸物件として貸し出し、税率が下がってから売却する。それなら十分に利益が出せると見込んでいるわけだ。
「セカンドハウスとして住むにしても不動産購入は最終的には投資。利益が出なければ購入しない。海外では新型コロナウイルス感染症拡大の影響で家賃を下げる傾向にあり、不動産物件の利回りが下がってきている。その点、日本の不動産は比較的安定しており、都心なら年間4~6%の利回りを見込める物件もある」(ウー社長)
面白いのは、香港人、中国人、欧米人が不動産を購入する際に重視するポイントだ。ウー社長は「香港人は立地と利回り、過去の相場価格を重視する。中国人の場合は豪華さや広さが決め手になる。欧米人は利回り、家賃収入、諸経費などを気にする人が多い」と明かす。
日本の不動産を外国人に販売する際には、文化的な違いを理解してもらうことも重要だ。家に上がるときに靴を脱ぐ、脱がないはよく耳にする話だが、共有スペースの使い方などでトラブルになるケースも少なくない。「セカンドハウスとしてマンションなどを買った人には、ごみの分別や共有スペースの使い方といった日本独自のルールをきちんと説明している。せっかく日本で生活するのだから、日本の文化を理解し、日本を好きになってほしいと思っている」とウー社長。
外国人が日本の不動産を買うことに「日本が乗っ取られる」といった危機感を抱く人もいるが、不動産を所有していることで永住権を取得できるわけではない。あくまで「投資の延長」と考えていいだろう。
外国人による日本の不動産購入が今後も続くのかは気になるところだが、ウー社長は「日本の金融政策にもよるが、日本の不動産にポテンシャルを見いだしている人は買う一方で、円安を理由に購入する人は減るのではないか」とみている。
(写真提供/ジャパンハナ不動産)