ドイツのアウディの日本法人、アウディジャパン(東京・品川)は、電気自動車(EV)シリーズ「e-tron」の新型モデル「Audi Q4 e-tron」を2022年秋から本格的に販売した。同社のEVとしては“手ごろな価格”を武器に日本市場に投入されたQ4 e-tronには、アウディらしさが詰まっていた。
“現実的な価格”のアウディEVの主力モデル
コンパクトSUV(多目的スポーツ車)の「Audi Q4 e-tron(以下、Q4 e-tron)」はアウディEVのエントリーモデルで、今後同社のEV販売において主力となる1台。最大の目玉は600万円台からという価格だ。他のアウディEVはミッドサイズSUVの「e-tron」が1070万円(税込み、以下同)から、4ドアクーペの「e-tron GT」が1465万円からと1000万円を超えるのに対し、Q4 e-tronは620万円からと、より現実的な価格に設定されている。そのため、既に日本国内で2000台を超える受注があるというから、EVとしては順調な滑り出しと言える。
同車が人気となる理由は価格だけでなく、「分かりやすさ」にもありそうだ。その名称が示すように、これまでのe-tronシリーズとは異なり、既存のアウディSUVラインアップ「Q」シリーズに組み込んだ。具体的にはコンパクトSUV「Q3」とミッドサイズSUV「Q5」の間に収まる車種で、ボディーサイズと価格も2つの間に収まるため、アウディ全体での立ち位置が理解しやすい。
デザインもEVであることより、一目でアウディと分かることを重視している。外観はアウディが得意とする先進的なライティング技術やスポーティーなデザインを重視しており、欧州車らしい走りの良さを予感させる。細部を見ていくと、エンジンレスのためフロントグリルの開口部こそ持たないが、アウディSUVを示す八角形デザインのシングルフレームグリルが与えられ、アウディであることを強調する。
ボディー形状には標準的なタイプに加え、クーペSUVに仕立てた「Audi Q4 Sportback e-tron(以下、スポーツバック)」も用意した。スポーツバックのほうが、よりスタイリッシュなだけでなく空力特性にも有利で、ラゲッジスペースも少し大きくなるため選ぶメリットが大きい。ただポジションはQ4 e-tronよりスポーツバックのほうが上で、価格差もある。
Q4 e-tronのボディーサイズは国産のミッドサイズSUV並みだが、全長4590×全幅1865×全高1630ミリメートルなので取り回しに困ることはないだろう。またスポーツバック(advancedの場合)のサイズは全長4590×全幅1865×全高1615ミリメートルとなり、Q4 e-tronより少し車高が低い。
内装もエンジン車に近いと言える。運転席を中心としたコックピットデザインに仕上げており、運転のしやすさをアピール。デジタルメーターや最新のナビ付きインフォメーションシステムといった先進機能も標準で備え、高級車らしい装備の充実ぶりを見せる。シートやドアトリムなどの細部の作りも良く、ドイツ製高級車を手に入れた満足感を得られるだろう。
EVであっても「アウディらしさ」は失わない
後部シートは床面がフラットとなるほか、前後のタイヤの距離(ホイールベース)を長く取れるEVの構造も手伝って、足元が広々としている。この室内のゆとりは1クラス上のミッドサイズSUV「アウディQ5」とも競えるほどだ。ラゲッジスペースは、標準で520リットルを確保。スポーツバックはさらに大きい535リットルとなる。もちろん後席は可倒式なので、少々かさばる荷物であっても余裕で積み込め、アウトドアのレジャーも楽しめる。
メカニズムにはフォルクスワーゲン(VW)グループで共有するEV専用アーキテクチャー「MEB(モジュラー・エレクトリフィケーション・プラットフォーム)」を採用。これは日本にも導入済みのVWのEV「ID.4」と同じもの。パワーユニットとバッテリー容量は全グレード共通となる。キャビン床下には82kWh(キロワット時)の駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載し、後輪側にモーターを備えた後輪駆動車である点も共通だ。
モーター性能は最高出力150kW、最大トルク310Nm(ニュートンメートル)と不足のない性能で、航続距離はWLTCモードで594キロメートルと長め。これは後輪駆動と小型化の恩恵によるもので、アウディのフラッグシップEVを上回る数値だ。充電機能は200ボルト普通充電が標準で3kW、オプションで最大8kWまで対応可能。急速充電は最大94kWと公表されている。
乗り込んだ車内の雰囲気は他のアウディと共通性が高く、いい意味で普通。ただエンジン車を含め、先進感を重視したクルマ作りを行ってきたアウディだけに、その点は過度な演出は不要ということなのだろう。
ブレーキペダルを踏むと車両がスタンバイ状態になるといった、EVを実感させる演出も抜かりはない。スタートボタンを押すという動作が省け、後はシフトをドライブに入れ、アクセルを踏むだけだ。このギミックはVW ID.4にも取り入れられており、グループ共通の新たなEVの演出なのだろう。
しかし走りの味付けはID.4とは全く異なる。スムーズな発進がしやすいアクセルペダルのチューニングにより、EVで感じる違和感こそ消しているが、その後の加速はモーターらしい俊敏さにあふれる。それはEVらしさを強調したというよりも、スポーティーな走りが売りとなるアウディらしさを意識した味付けに感じる。ガソリン車同様、「EVであってもアウディだ」という開発者側からのメッセージとも受け取れる。
ID.4と比較したもう一つの違いは、回生ブレーキの利きを調整できるパドルシフトの減速セレクターを使い、アクセルオフでエンジンブレーキのような強めの減速が行える点。これらの特徴はe-tronシリーズのファースト世代との違いであり、今後、EVシフトを宣言するアウディが、既存車から乗り換えて違和感のないアウディ車作りを重要視していると受け取れた。
ガソリン車から乗り換えても違和感なし
エンジン音こそ響かないが、巡行時の快適さは他のアウディと共通しており、静粛性も高い。EVなのだから静かなのは当然と思われるかもしれないが、エンジンがない分、特に高速走行時は、今までかき消されていたノイズの存在が目立つ。その点も万全の対策が施されているというわけだ。
正直、ガソリン車から乗り換えて一番違和感のないEVに仕上がっていると思う。過度にEVを意識させない演出が、「エンジン車対EV」のような世間の声を忘れさせてくれるからだ。小さなことだが、充電口もリアフェンダーに内蔵されているので、これまでのようにバック駐車で充電器にアクセスできるのも使い勝手がいい。
アウディは2025年に最後のエンジン車を投入し、26年以降に発表する新車は全てEVにすると宣言した。その大胆なメッセージに現実味を与えるのがこのQ4 e-tronだ。
しかし、アウディのエントリーモデルとしては高価だ。しかも新車の生産と供給のコスト増を受け、早くもQ4 e-tronの値上げを実施。エントリー価格が599万円から620万円まで上昇した。その結果、価格帯はQ4 e-tronで620万~710万円、Q4 e-tronスポーツバックで709万~737万円となっている。
EVシフトを掲げる中、これまでのコンパクトなアウディの愛用者にいかなる提案を行っていくのかも注目だ。ただアウディが、EVでもアウディらしいクルマ作りを行っていくことをQ4 e-tronで示せたことは、アウディファンにとってはうれしいニュースと言えるだろう。
(画像提供/アウディジャパン)