イケア・ジャパン(千葉県船橋市)はIKEA Tokyo-Bay内の倉庫に国内店舗として初めてロボットを導入した。ECでの注文頻度が高い小型商品をピックするプロセスを一部自動化、効率化。郊外型の大型店舗と都心型のシティショップ、オンラインストアによるオムニチャネル化を加速する。
イケアは、郊外にある大型店舗を「イケアストア」と呼ぶ。同店舗を訪れると、手押しのカートにさまざまな商品を入れているコワーカー(従業員)を見かけることがある。これは、顧客がオンラインストアで購入した商品を配送するため、集めている姿。イケア・ジャパンが今回、千葉県船橋市にあるIKEA Tokyo-Bayにロボットによるオートメーションシステムを導入したのは、このコワーカーたちの配送作業を効率するためだ。
既報の通り、近年のイケア・ジャパンは、2017年にECサイト「IKEAオンラインストア」を立ち上げるなど、オムニチャネル戦略を積極的に推進している。
▼関連記事 EC後発のイケア アプリと都心型店舗で巻き返すオムニチャネル戦略関東を1つのマーケットと捉えて物流を効率化
イケア・ジャパンの進めるオムニチャネル施策では、イケアストアに加えて、渋谷、新宿、原宿の3カ所で展開しているシティショップ(都心型店舗)、前述のIKEAオンラインストア、それらで使えるスマートフォン向け「IKEAアプリ」、カスタマーサポートセンター、国内各地に作られた商品受け取りセンターなどを活用し、店舗とEC相互での顧客の獲得、送客を狙っている。
イケアの歴史は約80年と長く、現在に至るまでビジネスの中心となってきたのは、店舗を訪れて購入した商品を顧客が自分で持ち帰る「キャッシュ&キャリー」だ。一方で、近年はECサイト隆盛による顧客の購買行動の変化を受け、それに対応するためのタッチポイントを増やしてきた。
こうしたタッチポイントの多様化、加えて新型コロナウイルス禍によるECの活性化で直面したのが、カスタマーフルフィルメント(顧客が商品を購入してから手元に届くまでの業務)の効率化という課題だ。日常的に使用する日用品から大型家具まで、インテリア商品をトータルに取り扱うイケアの事業を考えると、オムニチャネル化が進むほど、フルフィルメントの効率化は切実になる。
そのような状況で同社が出した答えの1つが、ECにおいては関東全体を「One Tokyo Market」(1つのマーケット)として捉え、フルフィルメントに関わる業務を効率化すること。従来、関東圏においてECで購入された商品は、IKEA新三郷、IKEA Tokyo-Bay、IKEA立川、IKEA港北の4つの店舗で売り場からコワーカーがピックアップし、各店舗から発送していた。今回導入した倉庫オートメーションシステム「AutoStore(オートストア)」では、小型商品に限り、この機能をIKEA Tokyo-Bayに集約。ピックアップ過程をロボットによって自動化した。
約4000点の小型商品を管理
オートストアを導入したIKEA Tokyo-Bayの倉庫は、もともと大きく2つのエリアに分かれている。買い物客が入り、購入した商品を自分でピックアップするためのオープンエリアと、より大型の家具などが置かれた、コワーカーしか入れない閉鎖エリアだ。
オートストア専用の倉庫は、閉鎖エリアに造られている。大きさは奥行き約14メートル、幅約37メートル、高さ約7メートルとかなり大きい。およそ157坪の広さに立つ2階建ての建屋くらいと表現すると分かりやすいだろうか。
1階部分には外壁に沿ってコワーカーの作業台が並び、2階部分はキャットウォークが取り囲む。倉庫内の様子はそのキャットウォークに沿って設置された窓からのぞき込むことができる。
こうした構造なのは、防火のために庫内の酸素濃度を低減させる機密空間になっているため。庫内の酸素濃度は約13%。ここまで酸素が薄いとライターも着火できないのだそうだ。
倉庫の中には、約4000点の商品を納めた「BIN(ビン)」と呼ばれるバスケットが1万1400個、立体的に格納されている。顧客のオーダーが入ると、コワーカーは作業台の端末に必要な商品を入力する。すると、ロボットが目的の商品が入ったBINを選び出し、コワーカーが待つ作業台に運ぶ。コワーカーはそこから必要な数の商品を抜き出し、発送作業用のバスケットに詰める。顧客のオーダーに複数の商品が含まれる場合はこれを繰り返し、オーダーされた商品がそろったところで発送作業用のバスケットに管理シールを貼付して発送へと回す。
倉庫内でBINは立体的に積み重なっているため、下のほうにある商品を取り出すときは、複数台のロボットが協働し、上に重なっているBINを1つずつ退避させて取り出すのだという。倉庫内で稼働しているロボットのフォルムは黒い立方体で、全く生物らしさのないものだが、こうした話を聞くと、生き物のように感じてしまうから不思議だ。
なお、ピックアップを行う作業台は、日本人の平均身長を考えて高さを設定。倉庫にぎりぎりまで近づいて立てるように、最下部にはつま先が逃げるスペースが用意されていた。作業台に近づいて作業できるようにすることで、腰などの体になるべく負担のかからない設計にしているそうだ。
ピックアップ作業における移動距離は15キロ以上!?
このオートストアの導入によって、ピックアップ作業の効率は約8倍に向上するとのこと。4つの店舗に分散していた作業が1カ所に集約された上でこれだけの高効率化となれば、その効果は大きい。
また、コワーカーの身体的負担も軽くなる。導入前、ピックアップ作業担当のコワーカーが1日に店内を歩き回る歩数は2万~3万歩。オムロンヘルスケアのWebサイトによれば、歩幅の目安は身長の約45%。日本人の平均身長からざっくりと換算すると15~20キロメートルは歩き回っていたことになる。倉庫も売り場も大きいイケアストアは、顧客として買い物をしていても行きつ戻りつすることが多く、店内移動に慣れた社員でも相応の負担があることは想像に難くない。
▼関連記事 イケア、4つの新戦略を発表 人はインクルーシブ、食はプラントにイケア・ジャパンでは、21年にコワーカーのウェルビーイング実現に向けた取り組みを強化するプログラムを発表するなど、働きやすさの向上にも注力している。今回のオートストアの導入も、フルフィルメントを効率化すると同時に、コワーカーの労働環境整備の一環にもなっているという。
オートストアの導入は、全世界に展開するイケアの中でもまだ2例目だ。これは日本におけるオムニチャネル施策が世界的に見ても順調に推移していることの表れ。今後も店舗、EC両面でのさらなる成長を促す考えだ。
(写真/稲垣宗彦)