凄(すご)腕ヘッドハンターとして知られるハイドリック&ストラグルズジャパン(東京・港)のパートナーであり、書籍『転職思考で生き抜く 異能の挑戦者に学ぶ12のヒント』(日経BP)の監修者でもある渡辺紀子氏が、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』(光文社新書)や『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)などの著書で知られる独立研究家で著作家の山口周氏とリベラルアーツについて語り合う対談。第1回では、What=何がリベラルアーツか、第2回はWhy=なぜビジネスパーソンに必要なのかを中心に語り合った。最終回のテーマはHow=どのように学ぶのか。
渡辺紀子氏(以下、渡辺) ここまで、先が読めず混沌としたVUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代、ビジネス上の決断をするためにも、個人がキャリアを築いていくためにも、さらには世の中にはびこる「呪い」に負けずに人生を生き抜くためにも、リベラルアーツは必要だという話をしてきました。
でも、リベラルアーツって広大な海のようで何からどう学べばいいのか分からない、という方もいますよね。何かアドバイスはありますか。
山口周氏(以下、山口) 初心者へのお薦めはNHKの「100分de名著」のテキストの全巻読破です。
渡辺 えー。全巻はなかなか難しそう(笑)。
【第2回】 山口周氏が語る「リベラルアーツは “憑きもの落とし”だ」
【第3回】山口周氏の提言「リベラルアーツへの入り口は家事がお勧め」←今回はココ
山口 であれば、「100分de名著」の中で、なんとなくこの作品は知っているとか、興味があるというのをピックアップして読むだけでもいいと思います。そこで面白いと思ったテーマがあれば、関連する新書を何冊か読んで、最後は原書に行けばいい。
逆に僕が絶対やめた方がいいと思うのが、「○○全思想史」とか「◯○大全」みたいなものに飛びついてしまうことです。みんな、全部そろっているからいいと言うんですが、ほとんどウィキペディアのコピーみたいなものもありますからね。以前、僕の講演会に来た人が、その類のものを「リベラルアーツを勉強しなきゃ」と思って読み始めたけれど、砂をかむようでつらいと嘆いていたので、やめた方がいいと言いました。
渡辺 なるほど、大全系は駄目だと。いきなり全体像を知ろうとするのではなく、自分が興味あるところから少しずつつなげていった方がいいんですね。
山口 そう。ジグソーパズルと同じです。あれっていきなり端っこからバーっとつなげられないですよね。こことここはつながりそうだなというピースをつなげて小さい島ができて、それをいくつか作っていくうちに、島と島の関係性が分かってきて、だんだん全体がつながっていく。リベラルアーツもそういうものだと思います。渡辺さんは何か学び方のコツみたいなものってありますか。
渡辺 自分と全然違う関心を持っている人と話をしてみると、意外に自分の中でつながったりすることってありますね。個人的には物理学の人と話すと面白いです。やっぱり物理と文学って表裏の関係にあるので。
山口 そこで心が沸き立つ、知的にわくわくできるかどうかですよね。これってそういう感度がない人、あるいは感度が鈍っている人に、面白さを伝えるのは難しいんですが。算数や英語なんて何の役に立つの? という子どもの質問に答えるのと同じですね。できる人にはその先にある豊かさ──例えば英語であれば、インターネット上のコンテンツの8割は英語なので、英語ができるとものすごく情報が取れるし、いろんなものが楽しめる。映画も字幕なしで分かるし、翻訳されてない映画や本も楽しめるとか、「豊かさ」のイメージが想像できるんだけれども、できない人にそれをどう伝えればいいのか。
渡辺 あ、それってこういうことだったのか、なるほど! って分かる瞬間の悦楽、知的好奇心ですよね。身近なことでもいいと思うんです。例えばコーヒーが好きな人なら「おいしいって感じるのはどうしてなんだろう」という疑問から脳科学に行ってみるとか。
山口 味について科学する本ってありますよね。例えばポテトチップスって新品のパリッパリのものと、ちょっと湿気(しけ)ってるものがあるでしょう。でもしけってる方を食べさせるときに、パリッパリっていう音を聞かせると、大抵の人間はしけっていると気づかない。簡単にだまされちゃうらしいですね。
渡辺 人間の五感って本当に不思議ですよね。そういう感じで普段の生活の中に、いくらでもリベラルアーツへの入り口はあるんじゃないかと思います。
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