不動産業界にデジタル化の波が押し寄せている。波にあらがうより、いかに波に乗るかを考えたい。デジタルを取り入れた不動産会社にも、既存の不動産知識を生かした新たなチャンスが待っている。不動産DX(デジタルトランスフォーメーション)によって業界の仕事がどのように変わるのかをまとめた『不動産DX 未来の仕事図鑑』(日経BP)の著者であるGA technologiesの樋口龍氏が、不動産DXの最新動向を解説する連載。今回は、老舗不動産デベロッパー傘下で「24時間楽器演奏が可能な防音賃貸マンション」を手掛けるリブランマインドで、意欲的に不動産DX導入に取り組む三ツ口拓也氏に話を聞く(聞き手は樋口龍氏)。
――リブランマインドの事業内容とDXに関する取り組みを教えてください。
三ツ口拓也氏(以下、三ツ口) 当社(リブランマインド)は、独立系デベロッパーとして50年以上の歴史を持つ老舗企業リブランの関連会社です。主な事業として、24時間楽器演奏が可能な防音賃貸マンション「MUSISION(ミュージション)」の企画・リーシング・管理に取り組んでいます。

マンションの分譲やリノベーションなど、リブラングループの事業は多岐にわたりますが、共通しているのは「こんな生き方をしたい」「こんな家で理想の暮らしを実現したい」といったお客様の気持ちに寄り添う姿勢です。
私たちが取り組むMUSISIONもまた、そういった理念の下で展開されています。「好きなときに、自由に、思う存分音楽を楽しめる空間がほしい」という愛好家の方々の思いを実現すべく、物件の紹介や管理にとどまらず、イベントの開催やコミュニティーづくりにまでサービスの幅を広げてきました。
この中で、賃貸における申し込みや契約、保証に関するお客様とのやり取りを中心に賃貸管理業務のDXを進めてきました。
――ミュージション事業部課長として現場でDXに取り組まれてきた三ツ口さんですが、そもそもDXに取り組むきっかけは何だったのでしょうか。
三ツ口 私が別の部署からミュージション事業部へと異動になったことがきっかけです。それまではリブランの経営企画やPR・マーケティングを担当する部署で10年以上を過ごしてきたのですが、突然課長としてミュージション事業部に配属されるという、少し意外な異動でした。
同じグループの会社とはいえ、業務内容が変われば仕事のやり方も全く異なります。配属当初は「契約はどのように交わすのか」「どうやって募集に至るのか」など、一つひとつの業務プロセスを教わるところからのスタートでした。その中で、「この部分はもっと効率化できるんじゃないかな」「ここに時間を取られているのはもったいないから、何か良いツールを導入したいな」など、DXのアイデアが浮かんできたんです。
外から見る景色と、中から見る景色は違いますよね。ミュージション事業部への配属以前は、外から見て「もっとこうすればいいのに」と思っていたことも、内部に入ってみると「なるほどこういう事情があったのか」と分かります。つまり、「理想と現実のギャップ」の解像度が上がるわけです。私が外から来た人間だったからこそ、どこに効率化のボトルネックがあるのか、どこからDXを始めるべきかを判断しやすかったのかもしれません。
――内部からDXに取り組むうえでも、客観視する姿勢が重要になりそうですね。
三ツ口 既存の業務プロセスを常に客観的に見つめたうえで、「これが最善なんだろうか、もっと良くなるんじゃないか」と考えることが必要だと思います。良い意味で、自分たちのやり方を信じ過ぎないで、問いを立て続けることです。
そういった前向きな問いを心に持っていれば、「こうしたほうがいいんじゃない?」という他者からのアドバイスも素直に受け取れるでしょう。自分の知らなかったことを知り、変わるチャンスをつかんでいけるはずです。
DXによる効率化の取り組みは、一度実践したらおしまいではありません。デジタルの世界で「最新」はどんどん変わっていくので、1年前に取り入れたものが「旧式」になっている可能性もあります。したがってDXに取り組む人には、「常にアップデートを狙い続ける姿勢」も求められるでしょう。
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