不動産業界にデジタル化の波が押し寄せている。波にあらがうより、いかに波に乗るかを考えたい。デジタルを取り入れた不動産会社にも、既存の不動産知識を生かした新たなチャンスが待っている。不動産DX(デジタルトランスフォーメーション)によって業界の仕事がどのように変わるのかをまとめた『不動産DX 未来の仕事図鑑』(日経BP)の著者であるGA technologiesの樋口龍氏が、不動産DXの最新動向を解説する連載。今回は、大東建託の不動産DX戦略のキーパーソン、同社賃貸未来研究所所長・AI-DX Lab所長の宗健氏に話を聞く(聞き手は樋口龍氏)。
――初めに、大東建託の事業やDXに関する取り組みを教えてください。
宗健氏(以下、宗) 当社(大東建託)の主な事業は、土地活用・賃貸経営のサポートです。全国120万戸を超える賃貸物件の管理を核に、オーナーと入居者の双方に寄り添うサービスを展開し、お客様に夢と将来を託していただける「生活総合支援企業」を目指しています。
当社が取り組むDXは、「生活総合支援企業」というビジョンを実現するための一つの手段です。ニューノーマル時代に合わせたオンライン・セルフ内見サービス、IoT(Internet of Things)デバイスを導入して生活利便性を高めた「DK SELECT スマート賃貸」など、デジタルを活用した新しいサービスを開発・展開し、賃貸領域の強化・深化を図っています。また2021年11月には、入居時のライフライン契約から家賃支払い・契約更新などの手続き、退去時の不用品回収・引っ越しまでをサポートするプラットフォームアプリ「ruum(ルーム)」の提供も開始しました。

――宗さんが所長として所属されている「AI-DX Lab」は、どのような組織なのでしょうか。
宗 「AI-DX Lab」は、データを活用した研究を通じて、住まいや暮らしに関する課題の解決を目指す組織です。現在は私を含めて4人の社員が所属しており、サーバーを運用する社外パートナーや、共同研究を行っている大学関係者と日々協力しながら、さまざまな研究に取り組んでいます。我々の特徴は、実務家の視点を生かしながら学際的な研究を進めている点です。住宅市場の将来予測をはじめとする独自研究のほか、DXを推進するための組織マネジメントの研究といったことにも精力的に取り組んでいます。
最近の研究としては、東京大学特任教授との共同研究でAI(人工知能)を活用した家賃査定システムがあります。また、一橋大学とは、住宅市場の将来予測や、「街」に関する新しい指標の開発といったテーマにも挑戦しています。
このように社外の知見も広く取り入れながら、自社に蓄積されたデータや経験を活用し、未来のより良い賃貸ビジネスを追求しているのが「AI-DX Lab」という組織です。
DXプロジェクトで、ITスキルよりも大切なこと
――宗さんは組織のDXに関する研究にも多く携わっていらっしゃいます。不動産業界でのDXに求められるのは、どういった人材でしょうか。
宗 一言で言えば、「データやITを活用してビジネスそのものを設計し、収益につなげられる人材」が求められるでしょう。
現状では、エンジニアやデータサイエンティストを、DXを推進する組織に集めることが多いようです。しかし、社会のデジタル化がある程度進んできた今、「データサイエンティストだから、エンジニアだから、ビジネスのことは関係ない」という姿勢は、通用しなくなってきています。データ分析の結果から新しい戦略を提案したり、新しいITの使い方のアイデアを生み出したり、事業や組織を再設計する力が問われたりしているのです。
――いわゆる「IT人材」にも、プロジェクト全体を見渡す姿勢が必要になるのですね。そういったIT人材のマネジメントを担う側には、どういった能力が求められますか?
宗 さまざまな分野のスペシャリストがワンチームで動くことも多いDXプロジェクトでは、リーダーの「タレントマネジメント能力」が普段以上に試されるでしょう。
「マネジャー=上に立つ人」という認識を持っている人が多いと思いますが、それは常に正しいとは限りません。むしろDXにおけるマネジャーは、スポーツ選手やアーティストのマネジャーのような役割をすべきなのです。つまり、チームメンバー全員が自身の能力を最大限に発揮できるような環境を徹底的に整備する役割です。
現状、データを扱える人材の採用は決して簡単ではありません。フリーで活躍する人も多い分野です。そういった環境では、「自社の社員」にこだわるのではなく、プロジェクトごとに適切な社外のパートナーを見つけて協業することも重要です。
その際にはもちろん、社外パートナーとのコミュニケーション力が求められます。「社内の常識」が通じないメンバーも含めて、いかに良いチームが作れるかが課題になるでしょう。チーム内の議論を有意義なものにし、リーダーシップを発揮していくためには、リーダー自身がIT分野の知見を深めておく必要もあります。
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