ビービットの藤井保文氏が新たな著書『ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件』(日経BP)を執筆、2022年12月に刊行した。前回に続き、本書の執筆のきっかけにもなったインドネシアの国民的アプリ「Gojek」の解説を、本書からの抜粋でお届けする。

※日経クロステックの記事を再構成
▼前回はこちら インドネシアのスーパーアプリ「Gojek」は何がすごいのか?

 単に運ぶものがヒト、料理、商品と変わるだけで、Gojekのドライバーは、バイクやクルマを使って人やモノを移動させるモビリティーサービスを提供する仕事なのです。こうして見ると、Gojekにとって「優秀なドライバー集団」を抱えることがどれだけ重要であるか、分かるでしょう(写真1)。

写真1 道路やお店の前になどにバイクが止められているのは日常的な光景
写真1 道路やお店の前になどにバイクが止められているのは日常的な光景
(写真:著者)

深刻な社会的ペインは「交通渋滞」

 ではなぜ、「バイクタクシー」がすべてのハブになり、そんなにも重宝されるのでしょうか。その背景には、インドネシア特有の交通事情があります。

 首都のジャカルタは、世界でトップ10に入るほどの渋滞都市です。朝夕の通勤ラッシュ時は道路をクルマが埋め尽くし、身動きが取れないほどです。本来なら数十分で行ける距離でも、ラッシュに巻き込まれると2〜3時間かかることは珍しくありません。

 一説には、渋滞時のクルマのスピードは人の早歩きと変わらない時速7km程度といわれています。ここまで渋滞がひどいと、通勤や買い物など毎日の生活にも影響します。「ちょっと遠くへ行く」という行動の負荷は重く、インドネシア社会の巨大なペインポイント(社会課題や人々の悩みの種)になっているのです。

『ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件』
『ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件』

 そこで重宝されていたのが、「Ojek」(オジェック)と呼ばれるバイクタクシーです。この言葉はGojekの由来でもあります。Ojekはスクーター型バイクで、後席に乗客を乗せ、クルマの間を縫って目的地まで運んでくれます。

 Ojekは渋滞にさほど影響されないので、インドネシアの一般的な交通手段として広く普及していましたが、課題もありました。Ojekドライバーのほとんどは個人事業主や小規模な事業者で、料金やサービスの品質がばらばら。そのため、誰もが気軽に安心して利用できるサービスではなかったのです。

 Ojekのドライバーを組織化し、アプリで手配できるようにしたのが現在のGojek、まさにバイクタクシー版の「Uber」といえるでしょう。Gojekアプリを立ち上げ、乗車場所と目的地を指定すると、自動的に近くにいるドライバーとマッチングしてくれます。ドライバーの現在地をリアルタイムに知ることができるので、どのくらいの時間で迎えに来てくれるか一目瞭然です。評価や顔写真を見ることもできるので安心感もあります。走行経路はアプリ上の地図に記録され、支払いもアプリ上でできるため、不当に高い金額を請求される心配もありません。

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