ビービットの藤井保文氏が新たな著書『ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件』(日経BP)を執筆、2022年12月に刊行した。今回は藤井氏に大きなインパクトを与え、本書の執筆のきっかけにもなったインドネシアの国民的アプリ「Gojek」の解説を、本書からの抜粋でお届けする。

※日経クロステックの記事を再構成
▼前回はこちら 「アフターデジタル」に続く新キーワードは?  「意味性」の時代へ

 インドネシアで「国民的アプリ」と言われるほど普及しているのが「Gojek」(ゴジェック)です。バイクタクシーの配車からスタートし、急速にサービス内容を拡充しています。フードデリバリー、買い物代行、荷物の配送といった物流に加え、決済までカバーする、都市の生活に欠かせないスーパーアプリとなっています。

画面1 Gojekの画面
画面1 Gojekの画面
(出所:『ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件』)

 2009年に創業したGojekは、2021年にインドネシアEコマース大手のTokopedia(トコペディア)と合併してGotoグループとなり、2022年4月にはインドネシア証券取引所に上場。時価総額は約280億ドル(約4兆円)にも達しています。

 創業者のNadiem Makarim(ナディム・マカリム)氏は、Gojekをここまで育て上げた手腕を買われ、2019年にはインドネシアの教育文化大臣に任命されました。スタートアップの創業者がわずか10年で巨大企業を育て上げ、一国の大臣に就任するというのも、まるで映画のようにダイナミックなストーリーです。

 正直に告白すると、私はGojekを「知った気」になっていました。しかし、実際に現地に行ってアプリを自ら使い、いろいろな方にインタビューすることで、「スーパーアプリって、こういうモデルにもなるのか!」と、全く異なる景色が見えてきたのです。

スーパーアプリの“模倣”に見える「Gojek」

『ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件』
『ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件』

 スーパーアプリとは何かを改めて説明すると、支払い、移動、飲食、買い物から、映画や演劇、新幹線、飛行機、ホテルの予約など、生活するために必要なさまざまな機能を1つのアプリにまとめた、生活インフラのようなアプリを指しています。グローバルでの成功事例となると2つあり、どちらも中国のサービスで、アリババ系の金融会社アントフィナンシャルが展開する「Alipay」(アリペイ)と、日本のLINEのような国民的コミュニケーションアプリ「WeChat」(ウィーチャット)です。

 こうしたアプリさえスマートフォンに入っていれば、中国都市部では生活に困らないといえるほど、あらゆるサービスが含まれています。ペイメントやコミュニケーションなど毎日使うサービスを軸にしているので、一日に何度も使うだけでなく、さまざまなサービスに利用が広がっているのです。日本ではPayPayやLINE、au Pay、d払いなどがスーパーアプリを目指していると言われています。

 「毎日使うようなサービスを軸にしている」ことがポイントで、その軸を「交通」に置いたのがGojekです。グローバルで見てもAlipayとWeChatの次に位置付けられる代表的な存在ですが、「Gojekって、タクシー配車からスーパーアプリになったサービスで、要するにUber(ウーバー)が拡張したようなサービスだよね」と言われることが多く、中国モデルを交通に置き換えただけの模倣サービスと見られることも多いようです。

 サービスをこの手で深く使ったことがなかった私も、似たように考えていましたが、実際にはそういう説明で理解できるサービスではありませんでした。ここからは、Gojekの真の姿を紹介します。

 Gojekのサービスとして真っ先に挙げられるのがバイクタクシーの配車サービス「GoRide」です。その他、クルマのタクシーを利用できる「GoCar」、バイクタクシーのドライバーに荷物の配送を頼める「GoSend」、Uber Eatsのようなフードデリバリーの「GoFood」、スーパーマーケットなどの商品を購入して届けてくれる「GoMart」、近所の雑貨店や屋台のようなローカル店舗での買い物ができる「GoShop」といったサービスが並びます。コロナ禍ではサービスを停止していますが、マッサージ師を手配できる「GoMassage」や、出張清掃を頼める「GoClean」といったサービスもあります(画面1)。

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