2022年の玩具のクリスマス商戦では、「大人」を意識した商品が目立つ。親子で一緒に遊べるカードゲームが市場をけん引する中、親世代を狙ったトミカやリカちゃんの大人向けブランドが定番化している。特に、「シルバニアファミリー」の人形を使った“シル活”が大人女子の心を捉えた。
日本玩具協会が2022年6月に発表した21年度(21年4月~22年3月)の国内における玩具市場規模は8946億円(希望小売価格ベース)で、前年度比8.5%増。現在の形で調査を始めた01年以降、過去最高を記録した。11月30日に同協会が発表した調査でも玩具市場の伸びは堅調で、22年の夏休み商戦以降も前年売り上げを超えていることから、22年度も過去最高を更新する可能性が高いという。
少子化傾向が続く中、なぜ玩具市場が伸びているのか。それをひもとくキーワードが「大人」だ。日本玩具協会専門委員の伊吹文昭氏は、「子供のパイが小さくなる一方で、各玩具メーカーは市場の拡大を模索している。その解決策の一つが、ここ2~3年で拡大する大人市場を狙うことだ」と説明する。
単に大人といっても、「大人と子供が一緒に遊べる玩具」「大人を狙った玩具」という2通りの意味合いがある。「ここ3~4年、商品分野で伸びているのは、大人と子供が一緒に遊べるカードゲーム市場」と伊吹氏は明かす。不動の人気を誇る「ポケモンカードゲーム」「遊戯王OCG」「デュエル・マスターズTCG」の3タイトルに加え、大人気漫画「ONE PIECE」を題材にした「ONE PIECEカードゲーム」が22年7月に発売され、人気が加速した。
「子供の頃に玩具やキャラクターに親しんだ人が20~40代になり、今の子供たちの親世代になった。玩具を卒業したけれど、小さい時に遊んだ記憶は残っている。大人になって自由に使えるお金が増えたとき、もう一度遊びたいと思うのではないか。特にタカラトミーはライフタイムバリュー(LTV、顧客生涯価値)を明確に意識している」(伊吹氏)
親子のコミュニケーションツールとして注目
具体的にはどんな玩具が人気を集めているのか。前述の通り、「大人」がもう一度遊びたいと思う玩具には、「大人と子供が一緒に遊べる玩具」「大人を狙った玩具」の2つがある。
1つ目の大人と子供が一緒に遊べる玩具が売れる背景には、新型コロナウイルス禍における巣ごもり時間の増加で、玩具が親子のコミュニケーションツールとして注目されていることがある。遊びを会話のきっかけにしたいと考える家庭が増加したのが一因だ。その際、親が遊び方やルールを知っている玩具であれば、子供を安心して遊ばせられる。結果、「幅広い年齢層に浸透するキャラクターや定番ブランドの好調ぶりが際立つ」と伊吹氏。
大人が子供だった頃の玩具が時代に合わせて進化していることも人気を高めている。例えば、1980年に発売した「チョロQ」は、プレーマップの上で対戦できる「チョロQチャレンジ!Q極対戦セット」(タカラトミー、2022年11月発売)に進化した。2台のチョロQをコントローラーで操作し、親子で対戦できる仕掛けだ。
1973年に発売した「オセロ」は、「3D立体オセロ」(メガハウス、東京・台東、2021年12月発売)になった。通常のオセロと同様の8×8のマスが並ぶ盤上に別の盤を2つ載せ、垂直方向などにも石を載せて勝負する立体的なオセロだ。
発売45周年を迎えたモグラたたきは、「元祖モグラたたきゲームシリーズ 飛びだせ! いかりの親分モグラ」(バンダイ、22年10月発売)に進化した。親分モグラと子モグラを好きなように配置し、親分モグラが飛び出す前に、子モグラをたたきまくるという、新しいギミックを搭載した商品に生まれ変わった。どの商品も定番商品としての良さはそのままに、追加要素やルールを設けて現代版にアレンジしている。
共働き家庭に、シニアも喜ぶゲームが復刻
夫婦共働きの家庭が増えた昨今は、祖父母世代が孫の育児に関わるケースもある。祖父母世代にもなじみ深いのが、1950~60年代の人気テレビ番組「ジェスチャー」をカードゲーム化した「ジェスチャーゲーム」(ビバリー、東京・中央、2022年9月発売)だ。カードに書かれたお題を、声を出さずにジェスチャーで伝えるゲーム。想定の2倍ほどの売れ行きだという。「これまでもシニア向けの抱き人形といった商品はあった。それが、全世代向けの商品として増えてきたのは最近のこと。数年後には、祖父母市場は明確なトレンドとして見える可能性がある」(伊吹氏)
2つ目の大人を狙った玩具では、近年、定番ブランド内に大人向けブランドの新設が目立つ。15年には、タカラトミーの「リカちゃん」が大人向けブランド「LiccA」をラインアップ。22年にはサンリオのキャラクターとコラボし、シナモロールやマイメロディをイメージした人形を発売した。同社は15年にトミカにも「トミカプレミアム」を追加。22年12月に「ランボルギーニ エッセンサ SCV12」を発売するなど、こちらも好調だという。
ユニークなのがエポック社(東京・台東)の「シルバニアファミリー」だ。ここ数年、シルバニアファミリーを使った“シル活”に、大人女子がハマり始めたという。シル活とは、従来のように人形やそれ専用のインテリアを自分好みに飾るという遊び方とは違い、人形と一緒に外出して写真を撮ったり、小物と一緒に並べてインテリアとして飾ったりすること。簡単に映える写真が撮影できることからSNS(交流サイト)と相性が良く、Instagramでハッシュタグ「#シル活」を検索すると、22年12月現在、1万7000件の投稿があった。実際にエポック社が購入者にアンケートを取ったところ、約2割が大人層だったという。
今後、玩具業界のメインターゲットとなるのは、22年に12歳以下である「α世代」。「Z世代」(1990年半ば~2010年初頭に生まれた若者層)と比較しても、何かに興味を持っても、それが長続きしない傾向があるといわれる。玩具の開発には半年~1年かかることが多く、伊吹氏は「トレンドに合わせて当てにいくのは難しい」とみる。
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