DMM.com(東京・港)がサブスクリプション型動画配信サービスに本格参入した。視聴ごとの個別課金(PPV、ペイ・パー・ビュー)が中心だった従来モデルから転換。新たに月額550円の会員システム「DMMプレミアム」と動画配信サービス「DMM TV」(ディーエムエムティービー)を2022年12月1日に開始。目指すは、2年間で200万人の会員獲得だ。「最後発だからこそ実現できた、コンテンツ横断型のサービスで勝負する」というDMM.comの村中悠介COO(最高執行責任者)にその意図を聞いた。

サービス発表会には、「DMM TV」アンバサダーを務めるオードリーの春日俊彰、声優の雨宮天(あまみや・そら)が登場(アンバサダーはほかに女優の高橋ひかる)。一番左がDMM.comの村中悠介COO
サービス発表会には、「DMM TV」アンバサダーを務めるオードリーの春日俊彰、声優の雨宮天(あまみや・そら)が登場(アンバサダーはほかに女優の高橋ひかる)。一番左がDMM.comの村中悠介COO

 DMMグループが手がける事業は、アニメ、ゲームなどのエンタメ事業、通販、FXなどの金融サービスまで17領域60事業以上。動画配信サービスへの取り組みも早く、そのスタートは1990年代末にまでさかのぼる。近年は「DMM動画」としてサービスを運営してきた。「ただ、市場の変化とともに、DMM動画のサービスモデルだけではユーザーニーズに対応できないと感じていた」と村中氏は話す。

 大きな理由が、ユーザーの動画視聴スタイルの変化だ。かつて動画配信サービスは、コンテンツを視聴するごとに都度課金するPPVが中心だった。しかし2015年にNetflixや米Amazonの「Amazon Prime Video」(プライム・ビデオ)が日本でもサービスを始めると、サブスクリプション(サブスク)型の見放題サービスが急速に普及し、主流となった。

 DMM動画も16年に月額500円(税別)の「見放題chライト」を開始し、一部のコンテンツでサブスクに対応したが、「DMM動画というとやはりPPVのイメージが強い。PPVを見るのは、お金を払っても見たいものがある、コンテンツに関心が高い層。一方で、今の10代、20代には、PPVという視聴システム自体を知らない人も出てきている。PPVの基盤は守りつつ、サブスク時代の新たなユーザーも取り込みたいと考えるようになった」(村中氏)という。

 こうして立ち上げたのが、22年12月にサービスを開始した月額550円(税込み)のサブスク型会員システム「DMMプレミアム」と動画配信サービスの「DMM TV」だ。DMMプレミアムに加入すると、DMM TVで配信されているアニメ、バラエティー、ドラマ、映画、2.5次元舞台・ミュージカル(以下2.5次元)を含む約12万本(22年内見込み)のコンテンツが見放題に。さらに、DMMグループのゲーム事業「DMM GAMES」などで使える会員特典も付与される。会員特典は電子書籍サービス「DMMブックス」やアライアンス企業のサービスにも順次拡大の予定だ。

後発の武器は専門性と総合化

 DMMプレミアムは、2年間で会員数200万人という高い目標を掲げる。ただ、先に挙げたNetflixやプライム・ビデオなど先行企業が多く、すでにレッドオーシャンとなった動画配信サービス市場に、最後発で参入する勝算はあるのか。村中氏は「少し遅いのではという指摘はもっともだ」としながらも、「だからこそ冷静に強みとなる要素を分析できた」と自信を見せる。

 その要素として挙げたのが、専門性と総合化だ。まず専門性について、村中氏はスポーツ専門のDAZN(ダゾーン)、オリジナルドラマに強いNetflixを例に挙げ、「振り切った投資をし、特化した強みを持つところはやはり強い」と述べた。「この分野ならこのサービス」というイメージがユーザーに浸透することで、ファンが集まってくるからだ。

 「DMM TVはアニメに注力する」と村中氏。オリジナル作品やDMM pictures製作作品、懐かしいテレビアニメまで、22年以内に約4600作品をそろえる。23年以降も、他社の独占配信作品を除き、新作アニメカバー率100%を目指すと明言した。

オリジナルアニメ第1弾として、『LUPIN ZERO』を発表 原作:モンキー・パンチ ©TMS
オリジナルアニメ第1弾として、『LUPIN ZERO』を発表 原作:モンキー・パンチ ©TMS

 その上で「専門性だけでも弱い」と村中氏。そこで重視するのが総合化だ。競合も多く、VOD(ビデオ・オン・デマンド)のコンテンツはどうしても他社と重複する。「見たいコンテンツがある」というだけでは、自社のサービスを選び続けてもらう理由にはなりにくい。事実、Amazonプライムには、プライム・ビデオだけでなく、音楽配信、電子書籍、通販の配送日時指定が無料といった特典があり、それらを総合的に判断して選んでいるユーザーが多い。これまで動画配信専門だったNetflixも近年はゲームやグッズ販売なども強化し始めている。「専門性という強みを持ちながらも、サービスを総合化していくことで、やめる理由がないという状況をつくっていくことが重要になる」と村中氏は説明する。

 このために、DMM TVでは、アニメと併せて、人気声優が出演するバラエティーや2.5次元、原作の電子書籍・コミック、グッズといった周辺コンテンツもユーザーに提案する体制を整えた。背景として指摘するのは「ユーザーのIP(知的財産)の楽しみ方が、年々多様化していること」(村中氏)。例えば、アニメのファンであれば、原作漫画を読み、2.5次元を鑑賞し、ゲームをプレー、フィギュアやアクリルキーホルダーなどのグッズを購入するのは一般的な行動だ。「ユーザーはメディア横断でIPを楽しんでいるのに、サービスはカテゴリーごとに分断されたまま。ワンストップで楽しめないのは、今のユーザーの現状にも即していないと考えた」(村中氏)

下野紘と山下大輝による「下下紘輝」、杉田智和と岡本信彦による「自称声優」など、人気声優を起用したバラエティー番組も配信
下野紘と山下大輝による「下下紘輝」、杉田智和と岡本信彦による「自称声優」など、人気声優を起用したバラエティー番組も配信

 中でも、2.5次元の配信が充実しているのは、DMM TVの強みになりそうだ。DMM GAMESは「刀剣乱舞ONLINE」や「文豪とアルケミスト」などのゲームを運営しており、これらは2.5次元でも人気で、DMM.comがもともと持つユーザー層との親和性が高い。また、他のジャンルに比べ、他社のサービスが獲得し切れていない分野でもある。DMM TV発表直後、Twitterでも2.5次元の配信に期待する声が多数見られた。

ウオッチパーティーなどのイベントも企画

 DMM TVが立ち上げ時からこうした総合化を志向できるのは、後発であることに加えて、DMM.comの事業形態によるところも大きい。DMMグループは、もともとゲーム(DMM GAMES)、電子書籍(DMMブックス)、通販(DMM通販)、クレーンゲーム(DMMオンクレ)、オンラインくじ(DMMスクラッチ)といったサービスを個別に展開している。DMM TVを総合化するために周辺サービスを充実させるのではなく、むしろバラバラだったグループ内のサービスを、動画という共通のコンテンツでつなぐというほうが実態に近い。

 だからこそ、「鍵になるのは開発力と企画力だと考えている。アニメ単体、漫画単体なら他のサービスでも楽しめるが、すべてを複合的に楽しめる場所はDMMプレミアムしかない。DMMが持つサービスをどのように相互に連係させ、魅力をつくっていくか。それが問われてくる」(村中氏)

 その一例として、DMM TVのアプリでは、画面下の「ビデオ」と「ブック」の各ボタンで動画配信と電子書籍ストアを切り替えられるようにしたほか、コンテンツによっては、動画のエピソード一覧画面に原作漫画などの関連書籍や関連グッズの物販ページに遷移できるリンクも用意した。また、前述の通り、DMMプレミアムの会員に対しては、DMM GAMESやDMMブックスなどの特典も用意することで、相互利用も促す。

DMM TVアプリは画面下の「ビデオ」「ブック」ボタンで切り替えることで、動画配信と電子書籍を1つのアプリで楽しめるようにした。作品よっては、動画のエピソード一覧画面に原作漫画や関連書籍、グッズのページに遷移できるリンクも用意している
DMM TVアプリは画面下の「ビデオ」「ブック」ボタンで切り替えることで、動画配信と電子書籍を1つのアプリで楽しめるようにした。作品よっては、動画のエピソード一覧画面に原作漫画や関連書籍、グッズのページに遷移できるリンクも用意している

 さらに今後は、ウオッチパーティーなど、体験を重視した企画も実施していくという。ウオッチパーティーとは複数のユーザーが同時に動画などを視聴するオンラインイベント。「アニメに出演している声優さんの話を聞きながらアニメを見るのは特別な体験になる。あるいはサッカー選手とサッカーアニメを見るといった企画もありかもしれない。今回のサービス開始には間に合わなかったが、コメント機能も搭載予定で、そうなればDMM TVならではの視聴体験を提供できるようになる」(村中氏)。IPホルダーに対してこのような企画込みで提案することで、コンテンツの調達交渉も有利に運べると見る。

 こうした総合化の取り組みは、ユーザーを新たな消費に誘う可能性も秘めている。「近年は、サブスク型サービスの普及で、ユーザーはものを買わなくなっている」と指摘する村中氏。かつて音楽やアニメ、映画などを好きな時に楽しむには、CDやDVD、Blu-rayを購入するのが一般的だったが、今はサブスク型サービスに入っていれば、追加料金を払わなくても気軽に楽しめるようになった。

 その一方で、熱心なファンは変わらずグッズを買ったり、ライブや舞台に足を運んだりしている。「興味関心の高い人とそうでない人の差は大きい。だが、もしそこまで興味がない人にも、DMMプレミアムを通じて多面的で深い体験を提供することができれば、ファンの世界に足を踏み入れてもらえるのではないか」(村中氏)。アニメから原作漫画へ、グッズ購入へ、さらには舞台へと接点をつないでいくことで、好きなIPをより深く楽しむための消費の連鎖を生み出すこともできそうだ。

開始2週間で30万人突破

 DMMプレミアムの立ち上げ、DMM TVの開始を機に、既存のDMM動画はDMM TVに統合、見放題chライト会員もDMMプレミアムへと移行された。見放題chライトには、18年に分社化したデジタルコマース(東京・港)が運営するアダルトポータル「FANZA」のユーザーを含む約20万人が登録していた。「新サービス開始に当たり、この20万人というベースも大きな資産になった」と語る村中氏。その言葉通り、既存会員に新規を積み上げ、DMMプレミアム会員はサービス2週間で30万人を突破するスタートダッシュを見せている(22年12月14日時点)。

 長年それぞれの分野でコンテンツビジネスに取り組んできたDMMグループのエンタメ事業が総力を挙げて取り組むDMMプレミアムとDMM TV。外資系企業が優位を占める動画配信サービスに割って入ることができるか。グループの期待がかかる。

(写真提供/DMM.com)

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