「Ingress」や「ポケモンGO」など、位置情報とAR(拡張現実)を活用したゲームを数多く手掛ける米ナイアンティック。最新タイトルの「ピクミンブルーム」も2022年11月で1周年を迎えた。そこで、サービス開始から1年が経過した現在の状況や今後の展開などをナイアンティック日本法人の担当者に聞いた。
既存ゲームに比べて女性や初心者が多い
「ピクミンブルーム」は米ナイアンティックと任天堂が共同で開発、2021年10月に配信を開始したスマートフォン向けゲームだ。ユーザーは、任天堂のゲームシリーズでおなじみの不思議な生き物「ピクミン」とともに街を歩き、途中で拾った苗からピクミンを成長させたり、フルーツのエキスをピクミンに与えることで得られる花を道に植えたりしながら、ゲーム内を花とピクミンでにぎわう世界にしていく。
2つの陣営に分かれて陣取りゲームをする「Ingress」やポケモンを捕まえたりバトルしたりする「ポケモンGO」に比べると、ゲームとしてのプレー要素は少なく、操作もシンプルだ。「普段あまりゲームをプレーしない人にも参加いただきやすいゲームなので、当初から多くの人たちに楽しんでいただけると想定していた」と、ナイアンティック日本法人で同ゲームのプロダクトマネージャーを務める中島りか氏は話す。リリースから1年がたった現在、具体的な数字は言えないとしながらも「目標を上回る結果になっている」と言う。
そもそも日本にはピクミンブルームに特に適した面がある。「日本は、海外に比べて歩くことが多い。ピクミンブルームは世界で展開しているが、海外では場所によってほとんど歩かない人もいる。環境的に日本はピクミンブルームで遊びやすい」と中島氏は話す。
女性プレーヤーやスマホゲームを初めてプレーする入門者層が多いのもピクミンブルームの特徴だ。スマートフォンを持って街を歩くだけで楽しむことができ、ゲームに追われる感覚がない点がライトユーザーに好まれているところだろう。
これはポケモンGOと比較するとよく分かる。ポケモンGOはゲーム内イベントが頻繁に開催されており、そのことがプレーの目的や目標を示してくれる。ヘビーユーザーにとってはやる気を起こさせる施策だが、もっと気軽に楽しみたいライトユーザーにとってはやることが多すぎて苦痛になることもある。ゲームを楽しむというよりも、“宿題”をこなす日々になっている人もいるだろう。その点、ピクミンブルームの“緩さ”は、ライトユーザーが心地よいペースでプレーできるのではないだろうか。
魅力は「楽しみ方の“余白”が多い」こと
半面、このあまりにも緩いゲームシステムゆえに、サービス開始当初、ゲームファンの間で「課金する要素がないのでは?」と心配されていたのも事実だ。だがこの1年で、プレーヤーのスタイルに合わせたさまざまな課金メニューも充実してきた。
課金要素には、保有できるピクミンや苗、花びら、エキスなどの上限を拡張するアップグレードのほか、プレーヤーを表すアバターに着せるコスチュームや道に植える花びらの購入、近くに落ちている苗やフルーツを探すための「探知機」の利用回数の追加などがある。これらはゲーム内通貨の「コイン」と交換が可能。コインはプレーによって稼げるほか、オンライン決済で購入もできる。中島氏は「使い方はプレーヤーによりけり。コスチュームを着替えて楽しむ人もいれば、花びらを買っていろいろなお花を植えたいという人もいる。ピクミンブルームは楽しみ方の“余白”が多いのがいいところ」と分析する。
最近はコインを稼ぎやすくなったことで、かえってプレーヤーの課金が促されている面もありそうだ。それというのも、サービス開始当初、コインは購入するか、レベルアップによるボーナスでしか得られなかった。このため、効果的な使い方に悩むプレーヤーも多かっただろう。しかし、現在は散歩中に花を植えることでも獲得できるようになっている。コインを稼ぎやすくなったことで、コイン使用のハードルが下がり、その結果、「もう少し使いたい」というプレーヤーの気持ちが喚起されて課金につながっている。
ただ、ナイアンティックとしては、あまり課金しなくてもプレーできるスタイルを維持する方針だ。課金する場合でも、負担の少ない金額に設定するという。ナイアンティックの理念として、多くのプレーヤーに楽しんでもらえることが第一という考えは変わらない。
一方で、2年目に入るにあたり、ビジネス面の展開も模索し始めた。中島氏は「現在はまだ投資の段階で、まずは多くの人にプレーしてもらうこと。そのためにも、2年目はより楽しいゲーム体験を提供できるような施策を徐々に増やしたい」と言う。
1周年でローソンとコラボ
その兆しとなったのが、22年11月1日に実施したサービス開始1周年記念イベントだ。初の企業とのコラボイベントともなり、ローソンとのコラボが実現した。イベント期間中、プレーヤーはローソンの店舗周辺で特別な苗を拾い、それを育てると、「1周年記念のお菓子」を身につけた「デコピクミン」を入手できた。ピクミンブルームらしく「歩くこと」を目的としながら、プレーヤーに対してローソンへの立ち寄りを誘発した。
このイベントでは「ピクミンブルームの世界観が崩れないようにしつつも、コラボしていることに気づいてもらえなければ意味がないため、バランスにかなり気を使った」と中島氏。今回はコラボ要素としてデコピクミンを選んだが、「どういう企業と、どういう形で組めるのかを検討しながら、企業コラボも引き続き検討していきたい」と意欲を見せた。
また、「日々を振り返る機能も強化していきたい」と中島氏。ピクミンブルームには、日々の写真や気持ちを記録するライフログのような機能がある。「ピクミンブルームは基本、歩くためのゲームだが、日々の行動や気持ちを記録し、何気ない普通の日がちょっと特別になるようにしたいと考えて設計している」(中島氏)。現在は、1日の終わりにその日歩いた歩数やルート、写真を表示するだけだが、今後は振り返りの機能も拡充していきたいという。
もう一つ、中島氏が2年目の取り組みとして挙げたのがリアルイベントの開催だ。ピクミンブルームは、新型コロナウイルス禍真っただ中でのリリースとなった。1人で歩いてプレーすること、足を止めて操作する必要がないこと、コロナ禍の外出自粛も緩和されていたことから、その影響は小さかったといえる。それでも、ナイアンティックのゲームにおいてマーケティング戦略の根幹となるリアルイベントは思うように開催できなかった。22年6月には「コミュニティ・デイ」を開催したが、予想以上の人手に対処しきれず、途中で中止に。これは裏を返せば、コロナ禍においても、外に出かける人、出かけることを望んでいる人が多いということでもある。
中島氏は「リアルイベントは継続してやっていきたい。ナイアンティックの理念は、人を外に出し、街を再発見し、人と出会うこと。同じ場所に集まって、何かをすることに意味があると思っている。ピクミンブルームとして、同じ場所に集まって何をするのか。力を合わせて巨大キノコを倒すのか、チームに分けて対戦をするのか、どういう企画が正解か見極めていきたい」と語った。
熱狂的な固定ファンに支えられているIngress、プレーヤー数の多さを維持し、ますます好調のポケモンGO。この2タイトルに続く3本目の矢としてピクミンブルームも定着していきそうだ。
(写真/岡安学、写真提供/ナイアンティック、編集/平野亜矢)