横型ペンケースの安定感と、立つペンケースの取り出しやすさの両立――そんな発想から生まれたのが、コクヨが発売した「Nストレージ」だ。横型ペンケースの内部に斜めの仕切りを設けることで、両ペンケースの良いとこ取りを実現した。使い心地はどうか、実際に試してみた。
コクヨは、新たな構造のペンケース「Nストレージ」(税込み1650円)を2022年10月に発売した。特徴は、一般的な横型ペンケースの内部に仕切りを斜めに取り付け、筆記具や小物が重ならず、取り出しやすくなるようにしたこと。コクヨでは、機能性を重視した「立つペンケース」シリーズが人気を博すが、横型でも中身を見やすくし、整理しやすさを向上させた。
カラーは、ブラック、スモークブルー、ピンクテラコッタ、マスタードの4色。全体的に色味を落ち着いたトーンにしたことで、ペンケースの利用率が高い中学生や高校生だけでなく、幅広い層が使える仕様を目指した。コクヨステーショナリー事業本部TC開発部の柳井雅子氏は、「その結果、学生だけでなく、ノマドやフリーアドレスなどのワークスタイルに対応できる構造とデザインになった」と話す。
全国のロフト(一部店舗を除く)での先行販売では滑り出しが順調で、特にマスタードが想定以上に売れていたという。「学生に加え、ビジネスマンの購入も多い。ビジネスマンはデスクの上で使っており、印鑑やステープラーを入れる人もいるようだ」と柳井氏。
横型と立つペンケースの良いとこ取り
Nストレージ登場の背景には、2015年ごろから始まった「立つペンケース」のブームがある。オフィスの内外を自由に移動する働き方をする人が増え始め、ペンケースに機能性を求めるユーザーが増加した。そこで注目が集まったのが、コクヨが06年に発売した「ネオクリッツ」シリーズだった。
ペン立てのように使えて機能的だと文具好きの間で早くから注目され、多くの筆記具を使い分けたい中高生や、カフェなどでの作業環境を整えたいビジネスマンなど、広くユーザーを獲得した。その結果、他メーカーからの競合製品も多数登場し、立つペンケースは1つのジャンルといえるまでに成長した。
その市場の盛り上がりも、16年ごろにピークを迎えた。立つペンケースにもデメリットがあり、ユーザーの一部が、横型ペンケースに戻ってきていたという。「そこで、次の世代の機能性ペンケースを考える必要が出てきた」と柳井氏。
立つペンケースの主なデメリットは、倒れやすかったり、消しゴムなどの小物が奥に入って取り出しにくかったりすることだった。「横型の安定感と、立つペンケースの取り出しやすさの両立を求め、たどり着いたのが、横型で仕切りを斜めにする形だった」(柳井氏)
開発のヒントになったのは、斜め仕切りがある調味料入れやペンスタンドの存在。それらを横向きに使用することで、安定感と取り出しやすさの両立を思い立った。2つの斜め仕切りの前方に小物を、後方に筆記具などを入れることで、小物類も取り出しやすく、適当に放り込んでも整理されるようになっている。
後方の斜め仕切りの裏側にデッドスペースが生まれるように見えるが、そこも仕切りの隙間から指を差し込むことで、小物の出し入れが可能だ。使用頻度の低いシャープペンシルの替え芯や、表に出したくない印鑑などを入れる“隠しポケット”的な使い方ができるだろう。
さらに、ペンケースの底には突起を付け、筆記具を入れると自然と段差ができて取り出しやすくしている。「こうした細かい部分も含め、仕切り部分の設計と縫製には苦労した」と柳井氏。実際、内部の生地の選び方や、仕切りを安定させるための工夫など、かなり複雑な構造をとる。そうした設計上の難しさを見せないデザインにしたのが、この製品の一番の特徴と言えるかもしれない。
「『普通の延長にあって、ちょっと便利』というのが理想だと考え、あまりギミックに偏り過ぎないよう配慮した。発売前、学生にテストしてもらったところ、細かなギミックより、仕分けやすさに注目する声が多かった」(柳井氏)。これは狙い通りといったところだろう。
一方で、「斜め仕切りだから便利」というギミックの特徴を知ってもらうため、あえて大きな商品タグを作り、そこに構造図を印刷。使い勝手が良い秘密をアピールしているのが面白い。