総合人材サービス大手の一角を占めるパーソルグループの1社で、ITエンジニアなどを主に派遣するパーソルテクノロジースタッフ(東京・新宿)とPwCコンサルティング(東京・千代田)が、ITエンジニア育成支援サービス「はたらくモノサシ」の開発を進めている。エンジニアの職務経歴書を自然言語処理技術で読み込んで分析し、個人ごとに、自身のスキルの内容や適切なキャリア目標などを示す。パーソルとPwCの開発の狙いを読み解く。
今回、パーソルテクノロジースタッフとPwCコンサルティングは、前者のエンジニアリング領域における人材サービスの実績・経験と、後者のテクノロジー領域における知見とコンサルティングサービスの実績をかけ合わせ、人材のリスキリング・アップスキリング における協業を始める。「はたらくモノサシ」の開発はその第1弾という位置づけだ。
はたらくモノサシは、顧客企業の求めに応じて派遣しているパーソルテクノロジースタッフの正社員や登録スタッフのエンジニア計1万人強について、その職務経歴書に記された職務履歴や評価を示したテキストを、独自の自然言語処理技術によってデータとして読み込んで収集・分析。学習したそれらのデータに基づき、独自のスキル判定基準(スキルマスター)と、スキルレベルに重みを付けて計算する独自の閾値(いきち)判定方法を構築し、個々のエンジニアのスキルを可視化する。
具体的には、エンジニア一人ひとりに用意されたWebの画面上で、クラウドやネットワーク、セキュリティー、データ分析といった「技術スキル」、要件定義や設計、製造・構築、保守・運用といったプロジェクトの工程を進めるために求められる「工程スキル」、それに職種に応じたエンジニアの総合レベルを、個々のエンジニアについてグラフなどで示す。併せて、エンジニアが所有するスキルのレベルから判定した「目指すべき職種」の提案や、そのためにどのスキルがどれだけ不足しているかというギャップの表示、ギャップを埋めるための学習コンテンツの提案なども行う。
エンジニア本人が自己のスキルに関して自己申告する手間は原則、不要。自然言語処理技術を用いて分析することで、本人が自覚していない自身のスキルの評価や、スキルに合致する職種、気づけていない職種転換の可能性、新たなキャリア目標などを明らかにできるのが、大きな特徴だ。
パーソルグループとしては、はたらくモノサシを活用することで、「エンジニア個人の自発的なスキルアップやキャリアの自己決定をサポートする」(パーソルテクノロジースタッフ事業統括本部本部長の山川飛鳥氏)ことを目指す。まずはパーソルテクノロジースタッフに属する正社員のエンジニアを対象に導入し、データを蓄積してスキル可視化の精度を高め、2023年度中に正式に提供する予定。次いでパーソルテクノロジースタッフの登録スタッフ向けに提供していく考えだ。
3つの壁をうまく乗り越える
実はこの協業が始まったのは19年。パーソルグループは当時、20年から始まる新たな4カ年の中期経営計画の策定に向け、「データの活用」を計画の軸の1つに据えられないか検討していた。具体的には、顧客企業の求めに応じて派遣している正社員や登録スタッフのスキルを、データを活用して共通の基準に沿った形で測定し、「見える化」できないかと考えていた。これに対し、中期経営計画の策定にコンサルタントの立場から既に関わっていたPwCコンサルティングが、自社内のデータアナリティクス部門のチームを紹介。パーソルグループの専門チームを主体に、そこにPwCのチームが伴走する形で、協業が始まった。
「当初は3つの壁が行く手に立ちはだかった」。パーソルグループ側の専門チームの一員だったパーソルプロフェッショナルアウトソーシング(東京・新宿)のSBU企画本部経営戦略部部長である関野瞬氏は、協業開始のときをこう振り返る。
3つの壁とは、(1)データを駆使して正社員や登録スタッフのスキルを見える化したとしても「短期の収益に結びつかないのでは」という経営陣の懸念、(2)サービスを開発できたとしても「個人のプライバシー保護の問題に触れないか」という経営陣の懸念、(3)どの職種から取り組むべきかという「現場での懸念」の3つだった。
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