赤い背景にバンザイしたランナーでおなじみの栄養菓子「グリコ」が、2022年に100周年を迎えた。江崎グリコは節目の記念に、漫画家の大童澄瞳氏や、建築家の隈研吾氏ら10人に声をかけ、数量限定でおもちゃを販売。各クリエイターは、幼少期のグリコとの思い出や、後世に向けてのメッセージを込めた。
1箱935円、対象年齢は15歳以上
栄養菓子「グリコ」は2022年、発売から100周年を迎えた。この節目に数量限定で発売するのが特別商品「クリエイターズグリコ」だ。建築家、漫画家、美術家、イラストレーターなど、ジャンルも世代も異なる10人のクリエイターがデザインしたおもちゃとキャラメルがセットになっている。
参加したクリエイターは、『映像研には手を出すな!』で知られる漫画家の大童澄瞳(おおわら・すみと)氏、建築家の隈研吾氏、コンセプターの坂井直樹氏、プロマインクラフターのタツナミシュウイチ氏、美術家の長坂真護(まご)氏、家族型ロボット『LOVOT』などを手がけたデザイナーの根津孝太氏、ゲーム会社・レベルファイブ(福岡市)の社長兼CEOでゲームクリエイターの日野晃博氏、イラストレーターのヒョーゴノスケ氏、「ドラゴンクエスト」シリーズなどのゲームデザイナーの堀井雄二氏、アーティストの増田セバスチャン氏。それぞれが「心の中にあるグリコ」をコンセプトにおもちゃを製作した。
隈研吾氏は、自身が設計、建築した「木橋ミュージアム」をフィギュアとして再現。「梼原(ミュージアムのある高知県高岡郡)は山奥にある自然豊かな町で、子供の頃の思い出ともつながっている。(今回のおもちゃには)子供と街をつなげたいという思いも込めた。グリコのキャラメルをなめて、このおもちゃをきっかけに梼原へ行ってほしい」とコメントした。
江崎グリコ 健康事業マーケティング部 ブランドマネージャーの江川直氏は、「100周年の節目に、もう一度グリコのおもちゃを通じて、当社のパーパスに気づいてもらうきっかけを作りたかった。当社では『子供にとって食べることと遊ぶことは二大天職』という理念を掲げており、グリコのおもちゃを楽しんで豊かな気持ちになってもらいたい」と、プロジェクトの経緯を語る。
クリエイターズグリコは、標準小売価格1箱935円(税込み、以下同)。全国のセブンイレブンやAmazon、自社ECサイトなどで販売する。また自社ECサイトなどでの予約限定で、全クリエイターのおもちゃを同封したコンプリート版(1万4990円)や、各クリエイターのおもちゃを色違いで3個分入れたクリエイターズBOX(3990円)も展開する。
1箱100円前後で販売しているレギュラー商品に比べて値は張る分、おもちゃのクオリティーにはこだわった。各クリエイターには原則、自由におもちゃを企画してもらい、製作は海洋堂(大阪府門真市)に委託。細かい装飾もあることから、対象年齢は15歳以上に設定した。
「今回のプロジェクトは、当社が伝えたいメッセージをしっかり届けることを目的にしている。ユーザーからすれば935円は高く映るかもしれないが、数を絞った限定商品ということもあり、我々のコンセプトに共感してくれる人に届けようと考えた。また、全年齢に向けて製造しようとすると、安全面の問題から精巧なおもちゃを企画しづらかった」と江川氏。マスに向けた商品ではなく、あくまでもグリコに愛着のあるファンを中心に訴求する。
現代の子供に楽しんでもらうために
グリコといえば、赤い背景に、バンザイのポーズをとったランナーが描かれているパッケージでおなじみだ。1922年の発売以来、これまでグリコのおもちゃとして開発したおもちゃは、約3万種類、約55億個を数える。
超ロングセラーを記録し続けている商品だが、当初キャラメルについた付録は、おもちゃではなく「絵カード」だった。当時、たばこに美人画のカードが入っていたことから着想を得て、グリコも子供たちの様子を描いたカードを同封したのが始まり。その後、27年からは市販のおもちゃを、29年からはオリジナルのおもちゃを封入するようになる。当時の人気だったのは、歴史上の偉人を刻印したメダルだったという。
戦時中は一時、グリコの販売を休止したものの、戦後47年に復活。物資不足であったことから、おもちゃの原料は紙、粘土、ゴムが中心で、クレヨンや消しゴムなどの実用的な小物が喜ばれた。20世紀後半に入ると、幅広い種類のおもちゃを開発。乗り物、動物、家電など、カラフルに彩られたミニチュアが主流に。それ以降は、組み立て式や、今の子供にはかえって新鮮な木材を用いたもの、スマホアプリと連動するおもちゃなども投入した。
「おもちゃの形態は時代に合わせて変われど、『おもちゃを通じて豊かな気持ちになってほしい』という思いはずっとこれからも同じ。クリエイターズグリコも、100周年の記念として懐かしむだけでなく、100年後に向けて未来の子供たちにメッセージを発信しているんだと気づいてもらえたらありがたい」と江川氏。
こうしたグリコの思いを後世に受け継いでいくため、クリエイターも作品に工夫を施した。
漫画家の大童氏は、93年生まれと、参加したクリエイターの中では最年少(ヒョーゴノスケ氏は年齢非公表)となる。幼少期にはすでに、グリコのおもちゃの復刻版が発売されていた世代だ。現代の子供たちと世代がそこまで離れていないからこそ、自身の幼少期の記憶をたどって製作に臨んだ。
「僕自身、幼少期は、グリコのおもちゃ単体で遊ぶというよりも、ミニ四駆とグリコのおもちゃを競わせたりと、他のおもちゃと一緒くたにして遊んでいた。子供はおもちゃをジャンルやメーカーで分けて遊ぶわけではない。今回の企画でも、幼い時と現在の自分を地続きに考え、幼少期の自分でも満足できるように考えた」と、製作過程を振り返る。
また美術家の長坂氏は、先進国が投棄した廃棄物をリサイクルしてミニチュア化。資源を再活用したおもちゃに将来へ向けたメッセージを込めた。「最近になって『物を買って、消費して、楽しむことが、地球のアップサイクルにつながり、この循環を提供するのがクリエイターの仕事だ』と感じるようになった。今回のフィギュアも、次世代のクリエイターにバトンを渡すため、おもちゃにもサステナビリティーが必要だというコンセプトを基に製作した」と語った。
このように、クリエイターズグリコでは、これまでの懐かしさを思い出してもらいつつ、これからの世代に向けてもメッセージを発信していく考えだ。江崎グリコにとって、グリコは、現在、会社の業績をけん引しているブランドではないものの、創業から続く会社の理念を体現した看板ブランドとして機能し続けている。
(写真提供/江崎グリコ)