3COINSのサウナグッズが飛ぶように売れている。1カ月分を想定した在庫が、1週間前後でほぼ完売になる状況だ。好調の要因は、「サウナ愛好家の男性や若年層」と「3COINSの主な顧客である主婦層」、両方の心をつかんだことだ。属性の異なる両者にどう訴求したのか。

3COINSは2022年10月31日から、サウナ情報発信サイト「サウナイキタイ」とコラボした商品を展開。原宿本店では、販売開始から2日ほどでグッズが完売した
3COINSは2022年10月31日から、サウナ情報発信サイト「サウナイキタイ」とコラボした商品を展開。原宿本店では、販売開始から2日ほどでグッズが完売した

 「もともとは全店舗で1カ月ほど販売できる量の在庫を積んでいた。それが1日で全てはける店舗もあり、大体どの店舗も1週間ぐらいでほぼ完売のような状況になる見込み。(この記事が)公開されるころにはもうどこも品薄かもしれない……」

 そう苦笑いするのは、パル 3COINS 商品企画の升川拓氏だ。3COINSでは2022年10月31日から、サウナポータルサイトの「サウナイキタイ」とコラボし、サウナグッズを期間限定で販売。熱から髪の傷みを守るサウナハット、吸水性の高いセームタオル、銭湯に常設されたロッカーの鍵をイメージしたアクリルキーホルダーなど、“サウナー(サウナ愛好家)”を引き付けるアイテム全7種を、330~1100円(税込み、以下同)の価格帯で販売した。

熱から髪を守るサウナハット(全5色、各1100円)。他にも、透明巾着10枚セット(2色、各330円)・目盛り付きボトル(3色、各550円)・銭湯タオル(3色、各330円)・折りたたみサウナマット(3色、各330円)・ボトル付きセームタオル(3色、各550円)・透明キーホルダー(5色、各330円)という、全7種のラインアップ
熱から髪を守るサウナハット(全5色、各1100円)。他にも、透明巾着10枚セット(2色、各330円)・目盛り付きボトル(3色、各550円)・銭湯タオル(3色、各330円)・折りたたみサウナマット(3色、各330円)・ボトル付きセームタオル(3色、各550円)・透明キーホルダー(5色、各330円)という、全7種のラインアップ

 好調な売れ行きに升川氏もうれしい悲鳴をあげるが、販売前の時点では、ここまでの反響を想定していなかったという。

 「3COINSの主な顧客は30代前後の主婦層。一方、サウナ愛好家は男性や20代の若年層が多いため、客層にずれがあると感じていた。販売前から男性客がそれなりに食いつくという予想はしていたが、ここまで売れ行きがいいのは想定外。当社としては、客層を広げられたことが一番の成果。加えて、サウナになじみがなかった主婦層などにも(商品に)興味を持ってもらえたことはうれしい」

 実際、発売から1週間弱が経過した段階で、購入者の属性を見ると、20代の男女が一番多く、3COINSをこれまであまり利用していなかった新規層の取り込みに成功した。また、購入者の4割ほどを既存顧客が占めており、サウナ愛好家以外もコラボグッズを手に取っていることが分かった。

 さらに、「購入者の男女比が半々というのも当社としては珍しい」と語る升川氏。つまり、3COINSのサウナグッズは、サウナになじみの薄い既存顧客層の心も、サウナ愛好家の心もつかんだということ。その理由はどこにあるのか。

世間の流行からあえて遅らせて展開

 主婦層をはじめとする既存顧客層に受けた要因の1つは、世間のサウナブームからあえて“ワンテンポ遅らせた段階”で展開したことだ。

 「サウナブーム自体は、新型コロナウイルス禍が始まった頃からすでに火が付いていた。ただ、3COINSの主な顧客は主婦層で、トレンドの最先端を追うよりも、生活を中心に置いているような方が多い。

 世間の流行を先取りしてグッズを展開しても、主な客層にそれが認知されていなかったら逆効果。3COINSとしては、テレビや雑誌で取り上げられ、他のファッションブランドがコラボグッズを出し始めた頃が攻め時。今回のサウナグッズも、世間でサウナブームが浸透した時期を見計らった」(升川氏)

 また、カラーバリエーションを豊富に用意することで、親しみを持ってもらえるようにしたのも既存客に受けた要因だ。

 「3COINSらしいくすみのある色合いをそろえることで、映え感や選んでもらえる楽しさを持たせた。他社が展開しているサウナグッズは、大半が男性向きに作られている中、3COINSでは店舗を愛用している女性にも、手に取ってもらいやすい色合いを採用。誰でも使えるぐらいのちょうどいい塩梅(あんばい)を意識した」と升川氏。

各グッズのロゴ部分など、ワンポイントに3COINSらしい差し色を入れることで、サウナ初心者にも親しみを持ってもらえた
各グッズのロゴ部分など、ワンポイントに3COINSらしい差し色を入れることで、サウナ初心者にも親しみを持ってもらえた
透明感がかわいいキーホルダー。サウナに行かない人も、映え感から欲しくなるアイテムだ
透明感がかわいいキーホルダー。サウナに行かない人も、映え感から欲しくなるアイテムだ

 店頭での販促にもこだわった。サウナ初心者に向けて、サウナの入り方や、各店舗の近隣にあるサウナ施設を記載したポスターを設置。グッズを手に取るとっかかりを作ったことも大きかった。

 「商品には直接関係なくとも、サウナのハウツーを提示することで、商品の購入動機につながり、売り場の雰囲気も作れた」と升川氏。3COINSならではのリーズナブルさもあって、“入門グッズ”としてちょうどよい温度感を演出できたとみる。

サウナ好きゆえに最大限コストをかけた

 一方、3COINSを利用してこなかったサウナ愛好家に訴求したポイントは大きく2つある。

 1つ目が、サウナ好きならではのインサイトをくんだことだ。

 「サウナ好きの方は、『同類を見つけたい』『サウナの良さを語り合いたい』という気持ちからか、サウナに通っていることをアピールする傾向にあるんですよ。僕自身もサウナマニアでその気持ちはすごく分かる。仲間を見つけたい“サウナー”の間でこうしたグッズは自然と認知が広がっていき、購入意欲を刺激してくれる」(升川氏)

原宿本店では、フォトスポットとしてテントを設けるなど特設ブースも用意。通りすがりの若者がSNSにアップするのを狙った
原宿本店では、フォトスポットとしてテントを設けるなど特設ブースも用意。通りすがりの若者がSNSにアップするのを狙った

 購入意欲を駆り立てることは重要。ただ、サウナ愛好家からすれば、やはり愛用できることが大前提だ。商品開発では、愛好家にもしっかりと使用してもらえるように、機能性にこだわった。これが2つ目のポイントだ。

 全7種の中でも売れ行きが好調だったサウナハットは、熱をきちんと遮断できる厚さを実現できるよう、製造元と何度も交渉を重ねた。またサウナマット(サウナのベンチの下に敷く板状の商品)は、厚みを持たせつつ、お尻や太ももがはみ出さないような大きさを担保した。3COINSの価格帯に抑えながらも、サウナファンにも納得のいくクオリティーを実現させた。

 「1カ月という販売期間を見越して発注数を決め、できる限りいいものを提供しようと考えた。僕がサウナ好きゆえに思いが強すぎたこともあり、可能な限りコストをかけた」と升川氏は笑う。3COINSのコンセプトである「良いものをとにかく安く」という理念を踏襲しつつ、いちサウナ好きとしての思いも乗せた。

 こうして、3COINSのサウナグッズは、店舗の愛用者とサウナ愛好家の両者へのアプローチに成功した。

 「企画段階では、コラボせずにオリジナルで商品を出してもよかった。ただ、企画者として『コアなファンに製品を通してサウナ文化を発信してもらいたい』『ライトな層には良さを広めたい』という目的があったので、サウナの情報を手厚く発信しているサウナイキタイに協力していただいた。Twitterでは、購入者による『3COINSのグッズを持ってサウナに行こう』というつぶやきも多く、僕はもうそれだけで満足ですね」と升川氏は締めくくった。

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