岸田文雄首相が国会の所信表明でweb3の推進に言及するなど、ここにきて、web3への注目はさらに高まっている。デジタル庁は「Web3.0研究会」を設置し、日本におけるweb3のあるべき姿を協議し始めた。デジタルガレージ共同創業者・取締役の伊藤穰一氏もその構成員の1人として名を連ねている。こうした状況の中、伊藤氏は、今こそweb3のアーキテクチャー(設計思想)を議論すべきだと説く。その真意を聞いた。
web3の話題といえば、高額なNFT(非代替性トークン)の売買や仮想通貨相場の上げ下げなど、もうけ話が先行してきた感は否めない。しかし伊藤氏は、今こそ、web3によって世の中がどう良くなるのかという「そもそも論」を議論すべきだと語る。
「米法学者のローレンス・レッシグは著作の中で、人間の行動が統制されるには、『法律、技術、経済、社会』の4つが、うまく連動する必要があると主張している。web3でも同様だ。どんな法律で、どんな技術を用いて、どんなビジネスモデルで、どんな社会的意義があるのか。これらをうまく実行させるためには、それぞれアーキテクチャーが必要になる」(伊藤氏、以下同)
こうした議論がないままweb3を進めてしまえば、目的を見失ったプロジェクトが量産されてしまうと言う。伊藤氏は、100年前に建築のアーキテクチャーを再定義したドイツのバウハウス(Bauhaus)を例に挙げる。
「バウハウスは、コンクリートやガラスなどの新しい技術が生まれ、それによって建てられる建築が変わっていく中で、都市のあり方や建築と人の関係性などを再定義した。そして、それに伴って新しい法律ができていった。これと同じことがweb3でも求められる」
web3は社会にどう役立つのか
今、web3をめぐる議論の中で進んでいるものの1つが暗号資産への課税のあり方だ。「例えば社会への投資は、キャピタルゲインの税率は低くおさえられている。一方、暗号資産にかかる税率はそれよりも高い。暗号資産が社会に必要なものになれば、税率は今後、下がる方向に向かうだろう。暗号資産が社会にどう役に立つのか、国民と政治家が一緒になって議論する必要がある」
例えば、現状において、不動産売買の契約をするには膨大な手間と時間がかかるが、これをweb3のスマートコントラクト(自動執行される契約)に置き換えると、どのような流れになるのか。
「NFTに不動産の権利がひもづいていて、それを(法定通貨などに価値を連動させて安定した値動きをする)ステーブルコインで購入し、本人確認ができれば電子鍵が渡される、というぐらいシンプルになるだろう。こういった権利関連の契約は、スマートコントラクトでプログラム化されるのがいいと思う」
これまで不透明であった利益分配でも、新たな手法が生まれると伊藤氏は予想する。
「IT企業などではストックオプション(株式購入権)によって、経営者だけでなく社員にも利益を分配できるようになったが、web3ではコンテンツの作り手にもこうしたインセンティブを持たせることができる。現状では法的な制限もあるが、フリーのクリエイターが参加したプロジェクトが大当たりしたら、暗号資産が分配されるような仕組みもつくれるだろう。不遇なクリエイターが多い現状はおかしい」
しかし、伊藤氏は次のようにも言う。「いろいろ考えられることはあるが、おそらく一番面白いものは、今想像できていないものになるだろう」
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