バンダイナムコグループは、2025年にグループ全体のガンダム関連事業の売り上げを1500億円にするという目標を掲げている。「GUNDAM NEXT FUTURE -ROAD TO 2025-」と名付けた今後の戦略では、開発中のメタバースと、新作を含む映像作品の両輪でガンダムファンの拡大を狙う。
「150年後の国宝」にガンダム出展
バンダイナムコグループはグループを横断して「ガンダム」のIP(知的財産)を活用したさまざまなビジネスを「ガンダムプロジェクト」として展開している。
2022年9月29日に開催したメディア向けイベント「ガンダムカンファレンス AUTUMN 2022」では、ガンダム事業統括者であるチーフガンダムオフィサー(CGO)の藤原考史氏が登壇。ガンダムシリーズならびにガンダムのプラモデル(ガンプラ)の45周年に向けた戦略として「GUNDAM NEXT FUTURE -ROAD TO 2025-」を掲げ、リアルイベント、ガンダムメタバースプロジェクト、映像展開という3本柱で展開していくと発表した。
1本目の柱であるリアルイベントについて、22年11月2日から東京国立博物館で開催される「150年後の国宝展―ワタシの宝物、ミライの宝物」への出展が紹介された。これは同博物館の創立150年を記念した展覧会で、現代を生きる人がもう誰一人生きていないかもしれない150年後の西暦2172年に伝え残していきたい国宝候補を、その背景のストーリーとともに展示するもの。これにGUNDAM FACTORY YOKOHAMA(横浜市)にある「動くガンダム」こと、「RX-78F00」の試作モデルを出品する。
この試作モデルは10分の1スケールで、全長は1.8メートルほど。人と同じくらいの大きさになる。動くガンダムはその制作過程に関係者の濃密なドラマがあることから、その背景とともに展示されるとなれば、150年後の国宝にふさわしいものになるかもしれない。
藤原氏によると、「150年後にはさらなる進化を遂げ、国宝といわれてもおかしくない存在となるべく、今後もガンダムはファンとともに歩み続けていきたい」というメッセージを込めた展示になるそうだ。
なお、動くガンダムが展示されているGUNDAM FACTORY YOKOHAMAは2023年3月31日で会期を終えることが告知済みだ。動くガンダムは“発掘されたRX-78F00の起動実験”という演出を行ってきたが、グランドファイナルに向けては起動実験の新たな展開を予定している。
こうしたリアルイベントは23年以降も継続し、2025年日本国際博覧会(通称:大阪・関西万博)へつなげていく。同万博では「もうひとつの宇宙世紀」を舞台に、未来社会の課題解決に向けた壮大な実証実験を行う「ガンダムパビリオン(仮称)」を出展する。出展内容の詳細については後日発表となる。
自作のガンプラをメタバース上で展示
藤原氏が2本目の柱として掲げたのは、ガンダムメタバースプロジェクトだ。かねてバンダイナムコグループは、同社とファン、あるいはファン同士がつながるための仕組みとして、同グループが保有するIPごとの「IPメタバース」を開発、活用していくことを表明している。その先陣を切るものとして開発が進められているのがガンダムメタバースだ。
ガンダムメタバースでは、「ガンプラ」「ゲーム」「アニメ」など、カテゴリーごとのバーチャルコミュニティーを構築。作品の世界観に合わせて、各コミュニティーを「スペースコロニー」、それらの集合体を「SIDE-G」と呼び、「世界中のガンダムファンが集い、語り合い、さまざまなコンテンツに出合う。そういった触れ合いの場」(藤原氏)にするとしている。
22年9月28日から11月1日までは、ガンプラコロニーのベースとなるメタバース空間「THE GUNDAM BASE VIRTUAL WORLD」の第2回テスト運営も実施。これは「世界中どこからでも遊びに行けるヴァーチャル“ガンプラ”エンターテインメント総合空間」を目指したもので、今回のテスト運営では自分のガンプラ写真を投稿・公開できる機能などを初実装した。
現時点では参加ユーザーが撮影したガンプラの画像を投稿する形だが、いずれは自分のガンプラを360度スキャンして高解像度3Dデータ化し、それをメタバース空間に展示できるようにする計画だ。
このスキャン技術はソニーグループと共同で開発しているもので、ユーザー同士が自分で作ったガンプラでバトルするアニメ作品『ガンダムビルドファイターズ』の実現を目指している。藤原氏は、「メタバース空間において『ガンダムビルドファイターズ』の世界を実現できる日がすぐそこまで迫ってきていると思っている」と意欲を述べた。
メタバースを案内するAIキャラを開発中
さらに、ガンダムメタバースプロジェクトでは、メタバースを案内するAI(人工知能)キャラクターも研究、開発している。世界中のガンダムファンがガンダムメタバースに参加するに当たって、言語は大きな壁となる。それを克服するのが、さまざまな言語を自動翻訳する技術と案内役のAIキャラクターというわけだ。
ガンダムカンファレンス AUTUMN 2022では、研究開発中のAIキャラクター「メロウ」が自己紹介をする映像を流した。
「人間の皆さん、今お話している私のこの声どうですか?」
そう問いかける約2分間の発話はとても流ちょうで、不自然さはほとんど感じられなかった。メロウの声は人の声を録音したのではなく、最新のAI声帯で作られたもの。しかも、ユーザーと一緒にゲームで遊ぶための攻略AIユニット、リアルタイム実況AIユニット、司会AIユニットなども開発中だという。現在は「ガンダムの知識と面白さ」など、さまざまな知識を学習中だが、いずれはユーザーとの対話を通じてその会話や場の雰囲気などを取り込み、次々と話題を提供していけるようにもなる見通しだ。藤原氏によれば「遊園地におけるキャストのような役割を担ってくれることを期待している」とのこと。
こうして開発が進んでいるガンダムメタバースは、年内にガンプラコロニーの打ち上げを予定している。並行して、ガンダムを題材にしたゲームによるeスポーツコロニーの構築も進行中だ。その足がかりとして、eスポーツを視野にしたタイトル『ガンダムエボリューション』PC版のサービスを22年9月22日に開始した。「国内外で非常に好評」(藤原氏)で、同年12月1日には家庭用ゲーム機(PlayStation4、同5、Xbox Series X|S、Xbox One)向けにも提供する。
地上波、BS、ネットで映像展開を強化拡充
3本目の柱が「映像展開」だ。22年10月2日に放送を開始したガンダムシリーズのテレビアニメーション最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(以下、『水星の魔女』)を皮切りに、ガンダムシリーズ45周年、ガンプラ45周年に向けた映像展開を強化していく。
『水星の魔女』はMBS・TBS系で日曜午後5時から放送する。この枠を、藤原氏は「GUNDAM NEXT FUTURE×日5(にちご)」と表現。同番組終了後の23年1~3月には、地上波初放送となる劇場作品『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』や、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)『機動戦士ガンダム サンダーボルト』、劇場作品『機動戦士ガンダム NT(ナラティブ)』をそれぞれ全4話のテレビエディションとして放送する予定だ。「ガンダムシリーズの奥深さをお楽しみいただきたい」と藤原氏。23年4月からは『水星の魔女』の第2クールがスタートすることも決まっている。
また、衛星放送BS11では、金曜と土曜の午後7~8時に「GUNDAM NEXT FUTURE×BS11 ガンダムアワー」として過去のガンダム作品などを放送する。本放送を見逃した視聴者に向けた『水星の魔女』の再放送や、現在製作中の『劇場版 機動戦士ガンダムSEED(仮称)』公開に向けた『機動戦士ガンダムSEED』と『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の全話放送も予定している。
さらに、ガンダム公式YouTubeチャンネル「ガンダムチャンネル」では「GUNDAM NEXT FUTURE × ガンチャン」を展開。通常の配信枠に加え、10月2日からは前述の「GUNDAM NEXT FUTURE×日5(にちご)」放送枠直前の午後4時30分からガンダムシリーズの過去作品における特選エピソードをプレミア公開する。
ガンダムチャンネルではUGC(User Generated Contents、ユーザー生成コンテンツ)の要素を取り入れるのもユニークな点だ。「映像配信のみにとどまらず、ガンダムに親しんでいただけるよう、ファンの皆さまが公開する動画と連係するようなファンメイドの展開を行っていく」(藤原氏)。バンダイナムコグループが映像素材を用意し、使い方に関するガイドラインを整備した上で、権利侵害などを気にせずにファンが自由に映像を制作、配信できる環境を整える。藤原氏は「動画を投稿したファンに喜んでいただけるような施策を準備する」との意向も示した。
従来、こうしたユーザーによる二次創作はあくまでグレーゾーンで行われることが大半だった。だが、今後、ガンダムの映像に関してはファンが堂々と制作をできるようになる。バンダイナムコグループとしてはファンメイドなコンテンツが新たな層にリーチすることで、ファンコミュニティーの一層の拡大を目指しているという。
このほか、Amazonプライムビデオやhulu、Netflixなどの映像配信サービスを通じたガンダム作品の配信も強化する方針。これらをもって、米レジェンダリー・ピクチャーズとサンライズが共同制作中のハリウッド実写版『機動戦士ガンダム』へとつなげていくというのが、映像展開におけるロードマップだ。
(写真/稲垣宗彦)